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再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)は、総費用12万円ですべてをまかなう旅。30年後のいま、そのコースを同じ条件で辿(たど)ってみる旅が続く。スマトラ島の赤道を越える1回目「赤道編」、アンナプルナトレッキングの2回目「ヒマラヤ編」に続く旅はバスでアメリカ一周に挑むことになる。

1回目と2回目は、LCCの恩恵を受け、なんとか12万円の枠内に収まった。しかしアメリカは様子が違った。太平洋路線のLCCはそれほど安くはなかった。そして30年前に利用したグレイハウンドというバス会社のアメリパスと呼ばれる乗り放題チケットがなくなっていた。

物価の高いアメリカ。はたして12万円で一周することは可能なのか。厳しい旅が待ち受けていそうな予感があった。

今回の旅のデータ

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

ロサンゼルスからメキシコのシウダーフアレスへ

東京からロサンゼルス。僕らが向かったときは往復8万円台だった。時期にもよるが、往復7万円台から8万円台の間に、中国系航空会社、アメリカ系航空会社、メキシコのアエロメヒコ航空などがひしめいている。競争の激しい路線だが、各社見あっている感があり、7万円台がいまのところの底値。ただしアジア路線などに比べると、早く予約すると安くなる傾向が強いだろうか。

関西空港からスクート、エアアジアXというLCCがハワイまで就航している。そこからアメリカのLCCをつなぐ方法もあるが、価格的な魅力はない。むしろ中国系やアメリカ系航空会社を使ったほうが安くなる。

長編動画

アリゾナ州のフェニックスを発車したグレイハウンドバスからの車窓風景を1時間。フリーウェーと乾燥した風景。30年前のアメリカの旅の記憶がよみがえってくる?

短編動画

深夜2時半。アリゾナ州のクオーツサイト。グレイハウンドバスの小休止。女性がガソリンスタンドの掃除をしていた。30年前とくらべてアメリカの治安はだいぶよくなったように感じる。

ロサンゼルスからメキシコのシウダーフアレスへ「旅のフォト物語」

Scene01

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

この時期、アメリカのデルタ航空がいちばん安く、往復で8万3330円だった。30年前の旅の記録を見ると、往復で8万2000円。ほとんど変わっていない。アジア路線はLCCが就航し、バンコク路線は半値近くになっているのに。アジアに旅行者がなびいていく理由、わかります。

Scene02

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

30年前、ロサンゼルスのバスターミナル周辺はホームレスがたくさんいた。路上に立つぼろぼろの男たちが、10セント、25セントをくれないか、と手をのばしてきた。覚悟してその道を進んだのだが、「あれッ」。ホームレスがいない。少し拍子抜け。彼らがいない街は清潔だが、いったいどこに消えたのか、少し気になる。

Scene03

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

グレイハウンドバスのチケットカウンター。ネットで購入し、ここでチケットを受けとる人が多い。日本語の予約サイトはないが、比較的わかりやすい。ただし入力をはじめてからの制限時間は5分。ころころ変わる運賃に悩んでいると、はじめからやり直し……ということ、何回かありました。

Scene04

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

物価の高いアメリカ。30年前も食料を持参した。即席ラーメンや缶詰の類だった。今回もそれに倣ったが、日本の非常食は、東日本大震災を経て、進化していた。水だけで戻る高菜のおにぎり、マツタケご飯など総額6242円。しかしアメリカまで行って、いつも非常食。12万円の旅を呪いたくなる。

Scene05

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

グレイハウンドバスは座席指定がない。それは昔もいまも同じ。こういうことを頑固に守るのもアメリカ? いい席を確保するためには、早めに乗車口に並ぶのが鉄則。しかしこの乗車口がなかなか決まらない。「たぶんここ」。何回も乗るうちに読めるようになる。そうなると上級者。ちょっと切ないが。

Scene06

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

カリフォルニア州を出発したバスは、乾燥地帯につくられたフリーウェーを時速80マイル、約128キロで進んでいく。やがてアリゾナ州の乾燥地帯に入り込む。これから2日間ほど、ただこんな風景を眺めていくことになる。アメリカは広い。バス旅に染まると、もう嫌になるほど広さを実感させられる。

Scene07

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

ロサンゼルスを夜に出発したバスは、翌朝、フェニックスに着いた。バス泊初日。昨夜、水を入れておいた非常食おにぎりの朝食。運よく隣の席が空いていて、体を横にすることができた。「手すりにあるくぼみ。あれ、優れモノだね。そこに頭を載せるとすごくよく眠れる」。阿部稔哉カメラマンから冷ややかな視線を向けられた。

Scene08

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

やがて我が家のようなやすらぎを覚えるようになるグレイハウンドバス。これを見ただけで、腰に違和感を覚えてしまう。条件反射? 結局、この車内で8泊もすごすことになるとは、この写真を撮ったときは思ってもみなかった。嫌な予感はあったが、なるべく考えないようにしていた。

Scene09

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

トゥーソンをすぎると、人の密度が一気にさがる。レストランもドライブインだけになっていく。ニューメキシコ州のローズバーグに停車したが、レストランはマックのみ。それも改装中。運転手は、「特別に出張販売してくれるので、昼食を」と車内放送を繰り返した。そこで食べたものは……次の写真で。

Scene10

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

隣に座っていたおばさんは、何回もこのルートのバスに乗っていた。「マックのチーズバーガーにしなさい。それとリンゴジュース。絶品だから」と説明してくれた。チーズバーガー2個とアップルジュースが定食のようになっていて3ドル。味? こういうものに満足できるのはアメリカ人だけだと思った。

Scene11

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

午後4時、バスはエルパソに近づいてきた。ロサンゼルスから約15時間。はじめは楽勝気分だったが、やはりきつい。体がバスの椅子の形に変形していくような気分になる。残金がすでに心細くなっていた。さて、どうしようか。エルパソの街を眺めながら、考え続けていた。

Scene12

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

アメリカはとにかく物価が高い。バスターミナルの売店のテイクアウトコーヒーが2.04ドル、約237円もする。日本でいったらコンビニコーヒーレベルだ。とにかくメキシコに避難しよう。エルパソで働くメキシコ人の帰宅の列に交じってメキシコに向かう。国境の橋の通行料は0.5ドル、約58円だった。

Scene13

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

エルパソとメキシコ側のシウダーフアレスの間を、リオ・グランデ川が流れている。この川が国境。でも、こんな感じ。運河というか、水路というか。30年前は、もう少し国境の川らしい流れがあったような気がしたのだが。アメリカとメキシコの国境は場所によっては緊張している。しかしこの国境は、一応、平穏でした。

Scene14

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

シウダーフアレスの街に入った。雑駁(ざっぱく)な空気が街を包んでいた。ゴミが風に舞う。しかしこういう街に入ると、僕はなぜか足どりが軽くなる。きっとこういう国に体がなじんでいるのだろう。「下川さんは、物価が安い国に入ると、急に元気になりますね」。阿部カメラマンの言葉が耳に痛い。

Scene15

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編1

シウダーフアレスで入ったホテルはツインが27ドル、約3132円。エルパソへの道すがら、モーテルの看板に書かれていた199ドル、約2万3084円という宿泊代を鼻白む思いで眺めていた。しかしメキシコに入れば大丈夫。厳しい予算でも、なんとかなる。ほッと一安心のチェックイン。

【次号予告】次回はシウダーフアレスからニューヨークへ。

※取材期間:2018年11月29日~30日
※価格等はすべて取材時のものです。

下川裕治インタビュー

・#01 「読者が僕に求めているのはつらい目に遭うことだから……」

・#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

・#03 旅の一番のピンチ、それでも続ける原動力とは?

PROFILE

下川裕治

1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

フォトグラファー

阿部稔哉(あべ・としや)
1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

再び「12万円で世界を歩く」ヒマラヤ編5

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再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編2

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