旅空子の日本列島「味」な旅

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

九州、西彼杵(にしそのき)半島の西方海上に連なる福江、久賀、奈留、若松、中通の5島を中心に大小140余りの島々からなる五島列島は表情豊かな景勝地。

遣唐使船など古くから中国大陸への中継地として知られ、のちに五島氏の支配地となる。16世紀にはキリスト教が伝わり、禁教の時代も信仰は絶えず、潜伏キリシタンの祈りの跡は島のそこここに残された。それらが2018年に世界文化遺産として登録され、広く注目を集めている。

その五島列島の北部に位置する小値賀(おぢか)は、温暖な気候で、なだらかな丘陵状の小値賀島を中心に17の島々からなる町である。平成の大合併で列島の町は五島市や新上五島町にくくられたが、小値賀町は独自の歩みを続けた。

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

狭い坂道に古い家々が密集する笛吹郷の路地

表玄関は新上五島町方面や佐世保方面からの船が入る島の南部の小値賀港。その背後に広がる笛吹郷が中心集落になっている。

町役場や郵便局、銀行などがあるのがメインの笛吹本通り。そこから木の枝のように東西に延びるゆるやかな坂の小路や路地には、格子窓や板壁の昔ながらの商店や民家が軒を並べ、昭和レトロの懐かしい道筋をつくっている。海産物やカマボコ、酒屋、菓子店など暮らしを支える店々が残っている。

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

豪商の旧邸宅を使った歴史民俗資料館

なかでも目を引くのは、古きよき時代が留まっているかのような活版印刷の普弘舎印刷所や、捕鯨、海産、廻船(かいせん)、酒造など手広く営んだ豪商・小田家の250年の屋敷を譲り受けて開設した小値賀町歴史民俗資料館。

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

赤い砂浜が鮮やかに映える赤浜海岸

訪ねたのは火山岩の砂礫(されき)でできた赤浜海岸や海に向かって鳥居が立つ地ノ神島神社、松並木のトンネル「姫の松原」、玄武岩の裂け目の穴に玉石があるポットホールなど。

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

広壮な雰囲気で味わう親家のランチ

また島には古民家をリノベーションして宿泊や食事ができる建物が5軒余ある。そのうちの1軒の「親家」で昼食を味わった。数多くある広壮で趣が深い立派な古民家にこの島の繁栄ぶりがしのばれた。

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

笛吹郷にある島宿・御縁で食べた海鮮料理

翌日は地ノ神島神社と向かい合う沖ノ神島神社のある野崎島に渡った。今は無人集落になった野崎港に船で着いて、エメラルドの海と白浜を見下ろす山道を旧野首教会まで30分ほど歩く。澄んだ青空を背景に小高い丘に赤レンガの教会が見えた時、どうしてこんな所に……と、美しい姿に心がときめいた。

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

白砂の浜の野首海岸

当初は木造だったが、集落の17世帯がキビナゴ漁などで貯めたお金を持ち寄り、明治後期に教会建築の名手、鉄川与助の設計・施工で建てたものだ。今は教会の機能はなく、世界文化遺産登録からも外れているが、聖堂内も端正で清雅で、敬虔(けいけん)な祈りが伝わってくる。

西海に浮かぶ潜伏キリシタン祈りの地 長崎県・小値賀島

鉄川与助設計の壮麗で温もりある旧野首教会

小値賀島のうたい文句に「暮らすように旅をする」があるが、たしかに小値賀はそんな旅時間が似合いそうな島であった。

〈交通〉
・佐世保港から小値賀港まで高速船で約2時間、またはフェリーで約3時間~約3時間30分。
小値賀島から野崎島までは町営船で約30分
〈問い合わせ〉
・おぢか観光協会 0959-56-3820
・おぢかアイランドツーリズム 0959-56-2646

※都道府県アンテナショップサイト「風土47」より転載。

PROFILE

中尾隆之

中尾隆之(なかお・たかゆき)ライター
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。「風土47」でコラムを連載中。

鉄道・街道の要衝に生まれた活気ある商工都市 福島県郡山市

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