あの街の素顔

漁船登録日本一、新鮮な魚たっぷり 播磨灘の離島 坊勢島

兵庫県姫路市・飾磨(しかま)の沖約18キロ、40余の島々からなる家島諸島(公には「いえしま」だが、地元では「えじま」と発音する)。人が住むのは家島、坊勢(ぼうぜ)島、西島、男鹿(たんが)島の四つ。坊勢島はこのなかで一番面積の小さい島ながら、水揚げ量、水揚げ金額ともに兵庫県でトップを競う、漁業が盛んな島だ。

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家島諸島はかつて、海運業、採石業も盛んで、過疎知らずの離島と呼ばれた

作家の車谷長吉(1945~2015)は、飾磨の生まれである。車谷の『鹽壺(しおつぼ)の匙(さじ)』には、坊勢島に代用教員として赴任していた男が、伴漕(ばんそう)舟なしに、1人で本土へ泳いで渡るくだりがある。潮の流れが速く、サメはいるし、内航船も多く航行する海域。そんなことをするのは島でも前代未聞。捜索のために漁船がかき集められ、大騒ぎとなった。

朝の9時過ぎに泳ぎだした男は、午後8時ごろ対岸に着いた。1956年という設定で、泳いだ男は車谷の叔父にあたる。小説のなかで、叔父は坊勢島について「魚がうまい」と語っている。

機会があったので、坊勢島を訪れてみた。

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姫路港から直行の高速船で30分と近い

坊勢島は1時間半も散歩すれば1周できる小さな島だが、連絡船が発着する奈座のほかに長井、西ノ浦と3地区に漁港がある。港には小型底引き船、イカナゴやシラスを捕る引網船がぎっしりと並んでいて壮観だ。それもそのはず、坊勢は1漁港あたりの登録動力漁船数が日本一(2015年度)なのだとか。

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瀬戸内一の漁師だという心意気の表れなのか。化粧の施された漁船

港で目立つのが、舳先(へさき)に波と水しぶきをあしらった飾り板をほどこした漁船だ。家紋を掲げている船もある。こういう漁船はほかではあまり目にしたことがない。倶利迦羅紋紋(くりからもんもん)をほうふつさせる、やんちゃな感じだ。港にいた老漁師に尋ねると「女の化粧みたいなもんやな」。当然、化粧に金はかかるが、瀬戸内一の坊勢の漁師だという心意気の表れなのか。彫り物には魔よけの意味もあるので、海の安全祈願なのかもしれない。

漁船登録日本一、新鮮な魚たっぷり 播磨灘の離島 坊勢島

水揚げされた魚介。左上から時計回りにアカシタビラメ、マゴチ、シャコ、ワタリガニ

坊勢島では、四季折々でいろいろなものが楽しめる。春はシャコ、アカシタ(アカシタビラメ)。3月頭にはイカナゴ漁の解禁、5月にはシラス(カタクチイワシの稚魚)漁が始まる。これらを狙って太平洋からサワラが紀伊水道を通過して瀬戸内へと回遊してくる。夏はアナゴ、ハモ、身の詰まったオスのワタリガニ。抱卵したメスのワタリガニを味わうなら冬。アシアカエビは秋。

「微妙な時期でしたね。あまり種類がなくて、すいません」と旅館の大将が夕飯を運んできた。訪れた2月の終わりは、冬の名物メスのワタリガニがひと段落し、春の漁が始まる前の端境期。しかし、そんなときはそんなときで楽しいものだ。

 

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水揚げされたばかりの新鮮な魚介類のオンパレード

赤ナマコの酢の物。姫サザエと小さなタコの煮付け。刺し身はサザエ、アワビ、シラサエビ(ヨシエビ)、ヒイカ(ジンドウイカ)、ガンドガレイ。ハゼの天ぷら。少ないといいながら、ドンビイカ(ミミイカ)のバター焼き、子持ちメバルの煮付け(皿に1匹のるくらいの小さなサイズが島では人気)、そして蒸しガキと次々に運ばれてくる。

おっ、やったね、ガンドガレイだ。

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今回の旅で食べてみたかったのが、このガンドガレイ(中央)

ガンドガレイの標準和名は「ガンゾウビラメ」。カレイなのかヒラメなのか、ややこしいが、上品な白身で淡泊な味わいである。鮮魚ではあまり市場に回ることがない魚なので、刺し身で食べることができるのは産地ならではの楽しみだ。

ガンドガレイをカラカラになるまで天日干ししたのが「ヒガレイ」だ。ヒガレイづくりは気温が低く、乾燥した冬場を中心に行われる。港でも捕れたカレイのエラから口に串を通し、一連にして干している漁師の姿を見かけた。この竹串、漁師自ら山に分け入り、竹を調達しては1本1本削るのだという。

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串を打ち、船上に干されたガンドガレイ

このヒガレイ、島の正月には欠かせない。焼いてほぐしてだしをとるのが坊勢島の雑煮。骨と頭からもいいだしが出るのだとか。このだしに特別な名前はないが、「坊勢だし」と呼ぶ料理人もいるようだ。

ヒガレイを使った島の漁師の伝統的な弁当が「ヒガレ弁当」だ。ヒガレイを木づちなどで軽くたたき、遠火であぶってから、頭と骨を取り除き、しょうゆ、みりん、砂糖、酒などを煮立てた甘辛いタレに漬け込む。これを弁当箱に軽くよそった白飯の上に並べ、白飯で覆い、その上にまた漬けたヒガレイを並べて盛り付けるという案配だ。午前中の漁を終えた昼どきにはタレが白飯となじみ、よりおいしくなるのだとか。

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民家の軒先にもヒガレイが干してあった

日常でもあぶってマヨネーズ&しょうゆで食べたり、唐揚げにしたり。酒のさかな、ご飯のおかず、おやつにと、ヒガレイはまさに島のソウルフードなのである。

坊勢の魚は、島に渡らずとも本土側でも食べることができる。姫路駅から車で15分ほどの妻鹿(めが)漁港脇にある「みのり家」は、坊勢島出身で、現在は妻鹿で加工場を営む天晴(あっぱれ)水産の森一成社長が、2011年にオープンした食堂だ。

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「みのり家」と、天晴水産の森一成社長

「坊勢島のおいしい魚を知ってほしいという思いで作りました。そしておいしいと感じたら、次はぜひ、船で島に魚を食べに行っていただきたい。片道1100円、わずか30分で都会の喧騒(けんそう)を離れ、ほっとすることができるはずです。往復2200円でできる船旅ですよ」

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島で捕れた魚介を使った「海鮮丼」(1100円)

15年には、隣に坊勢漁協直営の「姫路とれとれ市場」もオープン。車が無いと少々不便なエリアではあるが、新鮮な魚を求めて、土日の昼時は県内の客を中心ににぎわう。ヒガレ弁当をアレンジした「干がれ丼」はどちらの店でも食べることができる。

漁船登録日本一、新鮮な魚たっぷり 播磨灘の離島 坊勢島

坊勢島のソウルフード「干がれ丼」(500円)

【問い合わせ】
天晴水産
http://www.apparesuisan.co.jp/

姫路とれとれ市場
http://boze.or.jp/choku.html

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

遠藤 成(えんどう・せい)

編集者
編集プロダクション「ノーチラス工房」代表。ヨットで日本を1周してみたくなり、30年近く勤務した出版社を退社。全国各地の漁港に寄港するなかで、漁師や卸業者と知り合い、水産業の面白さに目覚める。モットーは「知って食べると魚はもっと楽しい」。

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