あの街の素顔

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

ペルーと聞いて、海を思い浮かべる人は少ないかもしれない。しかし、太平洋に面する西側は、南北2000キロメートルを超える長い海岸線を有し、手つかずの自然が残る。なかでも南部の街パラカスの沖合に浮かぶバジェスタス島を筆頭とする島々は野生動物のパラダイスで、ペンギンにも出合えるという。

(文・写真・動画/鈴木博美)

人気のビーチリゾート地パラカスへ

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

海と砂漠に囲まれた「ホテル パラカス ラグジュアリー コレクション リゾート パラカス」

首都リマから海岸線に伸びるパンアメリカンハイウェーを南に下ること約3時間。ペルー南部の街パラカスは、リマから行ける手軽なビーチリゾートとして人気だ。突き出た半島の根元に広がる街は小さいながらもシーフードレストランが軒を連ね、ビーチ沿いにはリゾートホテルが並ぶ。

そんなパラカスを有名にしているのが、沖合に浮かぶバジェスタス島へのボートツアーだ。ペルー沖は、寒流と暖流がぶつかることによってプランクトンなどの魚の餌となる栄養分が豊富。魚が多く集まり、それを食べる海鳥や海獣の一大生息地となっている。

海から眺める巨大な地上絵

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

パラカスの巨大な地上絵カンデラブロ

港を出港してまもなくボートはスピードを緩めはじめた。パラカス半島の斜面に巨大な何かが描かれている。縦約190メートル、幅約70メートルのカンデラブロ(燭台〈しょくだい〉)と呼ばれる地上絵だ。

有名なナスカの地上絵より古い、紀元前700年から紀元400年ごろに栄えたパラカス文化時代のものともいわれるが、はっきりと解明されておらずオカルト的な諸説も数多くある。その謎もまた人々を引きつけるのだろう。信じるか信じないかは……。

砂の斜面に深さ約1メートルの溝を掘る手法で描かれており、海風が溝にたまる砂を定期的に吹き飛ばしてくれることによって、この地上絵は維持されているという。

岩を覆い尽くす海鳥、浜を埋め尽くすアシカ

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

血気盛んな若いオスのけんかもしばしば

いよいよ「ペルーのガラパゴス」とも呼ばれるバジェスタス島が見えてきた。空を覆うほどの鳥、白い岩が部分的に真っ黒に染まっているのもすべて鳥だ。近づくと、ペリカン、カツオドリ、鵜(う)、インカアジサシなど、鳥、鳥、鳥だらけ。

波打ち際では岩と見間違えるほどの大型アシカ、オタリアの一大コロニーが形成されている。オタリアを眺めていると、突然、波打ち際で巨体のオス同士の激しいバトルが始まった。縄張り争いだろうか。すさまじい雄たけびを上げて体当たりしている。ここは、生き物たちの真の姿を垣間見ることができる、まさに野生の王国だ。

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

赤いくちばしと白いひげのような飾り羽がユニークなインカアジサシ

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

何千羽という海鳥が白岩が真っ黒になるほど群がっている

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

南アメリカ南西部に生息するサカツラウ。目のまわりの小さな青い模様が面白い。準絶滅危惧種

乱獲から自然保護区へ

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

岩の白い部分は全てグアノ。グアナイウという鵜(う)が主に作り出している

バジェスタス島は、海上に顔を出す幾つかの岩礁の総称で、海岸部のパラカス国立保護区の一部として自然保護区に指定されている。そんなバジェスタス島は、生き物の密集度に圧倒される一方で、岩礁のところどころに雪に覆われているように見える場所がある。

これはグアノと呼ばれ、海鳥の死骸、エサや卵の殻、排泄物などが長い年月の末に化石化したものだ。グアノは高級肥料として希少価値が高く、バジェスタス島でも乱獲されてきた歴史を持つ。しかし、この乱獲が島の環境破壊につながっていることが判明し、生き物たちの保護と環境保護の観点から一般人の上陸は禁止されるようになった。現在は海鳥とオタリアの一大繁殖地となっている。

なかでも「産院」と呼ばれるオタリアの子育て用の浜辺では、よちよち歩きの可愛い赤ちゃんがたくさん見られ、岩陰ではそれを狙う猛禽(もうきん)類が目を光らせている。また別の岩場には繁殖のバトルに負けた、負け犬ならぬ負けオタリアたちが身を寄せ合い疲れた表情を見せている。そんな厳しい自然界の姿が目の前で展開する。

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

岩場に群がる無数のグアナイウ

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

産院と呼ばれるオタリアのコロニー。浜辺の奥に赤ちゃんがいっぱい

年々減少するフンボルトペンギン

ペルー沖合に浮かぶバジェスタス島は海獣と海鳥のパラダイス

フンボルトペンギンの個体数は激減していて、日本の動物園などで飼育されているものが全生息数の約1割を占める状況ともいわれる

バジェスタス島のハイライトがフンボルトペンギンの観察なのだが、なかなか遭遇しない。現地のガイドいわく、フンボルトペンギンは繁殖地の環境破壊や、餌となるイワシの乱獲、エルニーニョなどの影響で個体数は年々減少しているという。

いくつかの岩場を巡り、ようやく岩陰に身を寄せていた数羽のフンボルトペンギンを見ることができた。訪れる時期やその年によっても見られる個体数は異なるという。日本の動物園や水族館でポピュラーなペンギンを野生の姿で見られるのは貴重な体験となるだろう。

おおよそ2時間となるパジェスタス島のボートサファリは、動物園でしか見られないような海獣や海鳥が自然のまま、目の前で見ることができる。ナスカの地上絵からもう一歩足を延ばして、砂漠のオアシス「ワカチナ」とセットで訪れてみたい。

動画はこちら。

ボートの揺れにご注意ください。

【動画】ペルー、パジェスタス島の野生動物たち

■取材協力
ペルー政府観光庁
www.peru.travel/jp/

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、松田朝子

PROFILE

鈴木博美(すずき・ひろみ)

旅行業界で15年間の勤務を経てフリーの旅行家に。旅を通じて食や文化、風土を執筆。日本航空機内誌のほか、新聞雑誌等に海外各地の旅の記事を寄稿。著書に一人旅に役立つ電子書籍「OL一人旅レシピ」インド編、カンボジア・ベトナム編、エジプト編、世界中のおいしい料理をおうちで作る「いつもの食材で作る世界の料理レシピ」。ブログ「空想地球旅行」で旅のあれこれを発信中。

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