永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(4)廃屋と生命

(4)廃屋と生命

© Masatoshi Nagase

見たものの中に生命を置きたい、という欲が、僕は強い。廃工場だろうか、青森県むつ市の、この朽ちた建物の中に、生命を置きたかった。僕たちの源は女性であり、僕たちは子宮で育まれる。だから、女性に立っていただいた。

彼女がまとっているのは、スズキタカユキ君がデザインした服。僕が借りに行ったように思う。彼の服にはあえてほつれさせた部分とか、未完成の美学のようなものがあり、こういう場所にうまくはまる気がする。

ファインダーをのぞきながら、映画のダイナミズムを感じていた。映画は、遠景を撮った引きの絵が決まると、作品がぐっと締まる。たとえば、鈴木清順監督の作品とか。ここは、そういうものを思い出す、映画っぽい空間だった。

僕のデビュー作の監督だった相米慎二さんも、引きの絵が強かった。そういう素晴らしい監督たちに演出をつけていただいた記憶が僕の中に蓄積されていて、写真を撮る時に、ふっと顔を出すのかもしれない。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(3)風が止まる

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(5)音をまとった男

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