あの街の素顔

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

山友達に誘われて出かけた、ヨーロッパで最も美しく険しいとされるフランスのヴェルドン渓谷。記事の(上)で紹介した渓谷左岸に続き、右岸のマルテル山道を歩いた。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

マルテル山道。険しいところは鉄階段や手すりが付いており比較的ラクに歩ける

マルテルとは、1905年に渓谷の下まで降りた洞窟探検家の名前だ。ヴェルドン渓谷はかつて、探検家しか入れない秘境だったのだ。マルテル山道コースは約15キロあり、夏季はシャトルバスが出ているので片道だけ歩けるが、季節外は出発点の駐車場まで往復しなければならず、全コースを往復すると日が暮れてしまう。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

ヴェルドン渓谷右岸を歩く。ロッククライマーもいた

後半より前半の景色がいい、と宿のオーナーが教えてくれたので、コースの3分の2あたりにある川の合流点ラ・メスクラまで行って帰ることにする。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

崖が高すぎて、川と一緒に写真が撮れないところが多い

この山道は比較的よく整備されていて、渓谷側にむき出しでなく、樫(かし)の木の緩衝帯があって転落の危険はなさそうだ。渓谷右岸すなわち北側は、南から太陽に照らされ、左岸より樹木が多く茂っている。

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懐中電灯が必要なトンネル。水たまりやゴロゴロした石があるので、下を見て歩く

ただし、長さ670メートルと110メートルのトンネルを歩くので、ヘッドライトが必要だ。水たまりの多いトンネルはこの地域の強い風ミストラルが吹きぬけ、非常に寒かった。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

マルテル山道は、天然のひさしで守られたところがたくさんある

このコースには、岩がえぐられてひさしのようになっているところがいくつかあり、犬のボーム、ツバメのボームなどと名付けられている。フランス語のボームには「慰め」という意味もあり、このひさしの下で探検家が一息ついたり雨宿りしたりして癒やされたのだろう、と勝手な想像をしながら、ちょっと探検家の気分になってみる。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

「ツバメのボーム」

ラ・メスクラに至る100メートルの崖には鉄の階段がついていた。ハイキングガイドには252段とあるが、上りながら私が数えたところ、275段あった。私たちとは反対の出発点から歩いた方がラク、とガイドにあったのは、その場合はこの階段を下ることになるからかもしれない。私たちは往復なので、これを上ってまた下る。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

天空まで続くような、鉄の階段

ラ・メスクラでピクニックした後、もと来た道を戻ったが、見える景色が違うので、これもまた良し、であった。往復にかかった時間は約6時間。

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ラ・メスクラの合流点。岩を伝って川まで下りられるが、水は冷たくすぐ手を引っ込めた

翌日はまた、村巡りだ。ボデュアンという村がサント・クロワ湖の南にあるが、そこまで湖畔沿いに行く道路がないので、大回りしなければ行き着けない。この不便さに興味をひかれて行ってみたら、なんとも素敵な村だった。もともと山の村だったのが、ダムができて水位が上がって湖畔の村になり、ヨットがたくさん停泊している。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

サント・クロワ湖にはいくつもビーチがあり、夏はカヌーなど水遊び客でにぎわう

季節外れなのに観光案内所が開いていて、村の人口は300人、しかし夏は4000人に膨れ上がる、と説明してくれた。静かな村を散策していると、季節外れに珍しくも、アーティストの作品を売っているブティックが開いていた。記念に、小さなラベンダー入りクッションを買う。

ヨーロッパで最も美しく険しい渓谷 フランス・ヴェルドン渓谷(下)

かつての山の村ボデュアンは、いまや湖畔の村

もう一つの湖畔の村、サント・クロワ・デュ・ヴェルドンまでは、湖を俯瞰(ふかん)する道路を走るが、そのあと再びムスティエ・サント・マリーに向かうと、湖はもう見えず、ラベンダー畑が一面に広がっていた。

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ムスティエ・サント・マリーに向かう道の両側にはラベンダー畑が

ラベンダーの開花は夏で、花は見られなかった。しかし、ラベンダー株の連なりは大地に幾筋ものしま模様を描いており、この筋がかぐわしい紫色だったらどれだけ素晴らしいことか。私はツーリストが少ない季節外れの旅が好きだが、ここはやっぱり、夏も来てみないといけないな。

ヴェルドン渓谷の一帯は、四季折々の姿を見たくなる魅惑に満ちている。

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

藤原 かすみ(在パリ)

元編集者、今は国境なき旅びと。1990年にオランダ、アムステルダムに転居、政治経済ニュースを発行するかたわら、フリーライターとして週刊朝日、アエラ、様々な機内誌に寄稿。2002年ごろから少しずつ仕事を減らし旅に出始める。同時にフランス語、登山、スノボを開始。新しいことに挑戦するのに年齢は関係ない、ただ健康でありさえすれば良い、がモットー。2006年、フランス、パリに完全転居、以降は辺鄙なところ、知られない地を歩き回るトレッカーとなる。

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