心に残る旅

福士蒼汰さんのワシントンDC  できないから感じられた人の温かさ

いつもと違う場所で風に吹かれた経験は、折に触れて思い出すもの。そんな旅の思い出を各界で活躍するみなさんにうかがう連続インタビュー「心に残る旅」。第4回は、俳優の福士蒼汰さんです。

(聞き手:&TRAVEL副編集長・星野学、写真:山田秀隆)

心の置き場を探していた頃

福士蒼汰さんのワシントンDC  できないから感じられた人の温かさ

――最も印象に残っている旅のエピソードをお聞かせください。

「最初に海外へ1人旅に行った時です。アメリカのいろいろな街に行こうと、ワシントンDC、ニューヨーク、シアトル、ロサンゼルス、ラスベガス、ハワイと訪れたのが21歳の頃でした。17歳で俳優の仕事を始めて4年たち、学生である一方で、仕事の責任を負う大人でいなければいけないこととのギャップがあって、心の置き場を探している時期でした」

――とりわけ印象に残ったことは?

「ワシントンDCで、フェリーに乗って行ける場所があったんです。芝生があって気持ちのいい場所で。この旅ではアメリカの方と話すことを一つのテーマにしていて、芝生で寝ていた40代くらいの女性に話しかけたら、あまり話せないまま、仕事があるからと行ってしまわれた。その日は時間に余裕もあったので、ほかを回ってからもう1度同じ場所に行ったんです。フェリーを体感しながら、芝生で10分くらい寝て、また帰ってくればいいな、と思って」

「ところが、向こうに着いたら、『もう帰りの船のチケットはないけれど』と言われたんです。『えっ?』って問い返したら、『もうフェリーはないから帰れません』って。もうわけがわからなくなってパニックで。チケットはないかもしれないけれど帰らなくちゃいけないし、ホームステイ先の人も心配するだろうし。どうしても帰れないならここで泊まるしかないのかと思いつつ、売店の女性に事情を話したら、優しい方で、『わかった。いまチケットを取るから』と言ってくださったんです。どうやら、芝生で寝転んでいる時間はなくて、帰りたければ乗ってきた船に乗るしかない、という状況だったようなのですが、その女性が話をつないでくれて、何とか帰ることができました。今となっては楽しい思い出ですが」

福士蒼汰さんのワシントンDC  できないから感じられた人の温かさ

距離感、わかった気がした

――その出来事、どんなものとしてご自分の中に残っていますか。

「能力がないから、できないからこそ感じられるものがある、ということでしょうか。あれは自分の英語力が足りないから起きたミスで、当たり前のように英語をしゃべる人には起きないでしょう。でも自分は、あのミスをしたことで、人の温かさとか、時間は確認しなければいけない、といったことを実感できました」

――そのエピソードが、俳優活動に与えた影響はありますか。

「距離感がわかった気がします」

――どんな距離感ですか。

「一番大きいのは、言語的距離感です。役者をする以上、伝わりさえすればいいという話し方ではなく、聞き心地のいい、聞いていられる言葉を話すことが必要なんだと思いました」

福士蒼汰さんのワシントンDC  できないから感じられた人の温かさ

――行き先にアメリカを選ばれた理由は?

「中学時代に英語の先生に発音をほめられたこともあって、この言語を話せれば世界中の人と話せると、英語をずっと勉強していました。だから、外国に行くならアメリカ、という思いが強くあったんです。一番心の距離が近かったのかもしれません」

ずっと人の目や気持ちをうかがっていた

――昨年公開された主演映画「旅猫リポート」も、旅の映画でした。飼えなくなった猫ナナの新しい飼い主を、車を運転して探しに行く宮脇悟を演じていました。

「本当に好きな映画の一つです。悟という役が絶妙にかちっとはまったというか。悟は自分をさらけ出さずに、ほかの人の目を気にして生きている青年でもあります。それは彼の置かれた境遇ゆえかもしれませんが」

――幼い頃に両親を亡くし、実の親ではないことも知ったという……。

「はい。悟は、人と人との距離をすごく感じていて、誰ともあまり密な関係にならない。育ててくれたおばに対してもすごく気を遣っているんです」

――距離感を気にする要素が、福士さんにもあるんですか?

「あります。ずっと人の目や気持ちをうかがっている人間でした。最近は、それほど気にしなくなりましたが」

――ロードムービーだけに、ロケ地もいろいろです。印象に残った場所は?

「(大分県豊後高田市の)菜の花畑がきれいでしたね。小さい花が集まって作り出す、なんともいえぬ壮大さを感じて」

福士蒼汰さんのワシントンDC  できないから感じられた人の温かさ

映画「旅猫リポート」から©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社

――ナナが少しの間いなくなってしまうシーンでした。悟は、菜の花畑をかき分けるようにして探し回る。

「悟は本当はナナと一緒にいたいのに、ナナの飼い主を探すという、矛盾した旅をしているんです。飼ってくれる人は探しているけど、理由をつけては、『じゃあだめだね』と連れて帰る。その矛盾から菜の花畑で解き放たれて、自分をひとりにしないでくれ、と口にするんです」

旅のささいなところで自分が見えてくる

――福士さんにとって、旅とは何ですか。

「自分を実感するものでしょうか……。自分の存在意義や状況を知ることにつながる気がします。人って普段は、どこに何があって、人間関係でも自分がこういうことをしたらこの人はこう言うだろうなということがある程度わかって生活しているものだと思います。でも知らないホテルや宿に泊まると、何がどこにあるかも、シャワーの温度調整の仕方もよくわからない。そういう時、ぬるいお湯だけどまあいいや、となるのか、もっと温かくする方法をがんばって探すのか、そういう旅のささいなところで自分が見えてくる気がするんです」

福士蒼汰さんのワシントンDC  できないから感じられた人の温かさ

――では、俳優活動とはどんなものですか。

「これは本当に答えがないのですが、最近は、好きなものを追っていくことかな、と感じています。俳優は表現する職業ですが、仕事として表現をすることと、本人がそれを楽しんでいるかどうかは別だと思います。俳優活動は、楽しみ、そのうえで活動を評価されるべきではないかと自分は思うので、俳優活動を楽しんで生きていくことが大事なのかな、という気がします」

――俳優のお仕事の、どんなところが好きですか。

「いろんな人生を歩めるところでしょうか。人生は1度だけですが、役者は演じることでいろんな人生を積み重ねていけますから」

INFORMATION

福士蒼汰さんのワシントンDC  できないから感じられた人の温かさ

福士蒼汰さんが主演した映画「旅猫リポート」のBlu-rayとDVDが、4月24日に発売されました。福士さん演じる宮脇悟が、ある事情から飼い猫ナナを手放すことになり、新しい飼い主を探す旅に出る物語。悟とナナの心温まる交流が描かれています。

豪華版Blu-ray(初回限定生産):6,700円+税
豪華版DVD(初回限定生産):5,800円+税
通常版DVD:3,800円+税

発売・販売元:松竹

©2018「旅猫リポート」製作委員会   ©有川浩/講談社

PROFILE

旅する著名人

家入レオ、ふかわりょう、HARUNA(SCANDAL)、福士蒼汰、加古隆、池内博之、吉田戦車

福士 蒼汰(ふくし・そうた)

1993年生まれ。東京都出身。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13年)で種市浩一役を演じ、14年にエランドール賞新人賞を受賞。「イン・ザ・ヒーロー」「神さまの言うとおり」「好きっていいなよ。」(いずれも14年)で第38回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。ほかの映画出演作に「図書館戦争」シリーズ、「ストロボ・エッジ」「ラプラスの魔女」など。新作映画「ザ・ファブル」が6月に公開予定。

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