永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(5)音をまとった男

(5)音をまとった男

© Masatoshi Nagase

演奏しているのは、トランペッターじゃない。ロックバンド「ブランキー・ジェット・シティ」のドラマーだった中村達也君だ。何かの折に、彼が吹くトランペットを聴いてすごくいいと思い、無理を言って青森市まで来て吹いてもらった。

というのは、青森県立美術館で開く僕の写真展の会場に流す音楽を、彼に作ってほしいと頼んだから。土地の空気を感じてほしくて、青森で録音した。彼は持参したドラムスティックで工房にあった鉄をたたき、その音と、トランペットの音をミックスして作品に仕上げた。

中村君は、2013年から14年にかけて宮崎市で開いた僕の写真展「Memories of M」にも参加してくれた。彼のドラムと、イラストレーターの黒田征太郎さんのライブペインティングがコラボするイベントを開き、翌日からその映像を会場で流した。

ロケで長いこと地方にいると、中村君の音が足りない、と思う瞬間がある。彼は、音が歩いているような人だ。被写体になる時にも、ちゃんと音をまとっているから、ついついモデルをお願いしてしまう。青森の時も、やっぱり撮りたくなってしまった。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(4)廃屋と生命

一覧へ戻る

(6)心を解き放て

RECOMMENDおすすめの記事