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メルボルンはなぜ“世界一住みやすい都市”と言われるのか? 多様な文化と寛容性にあふれる街の素顔

約450万人が暮らすオーストラリア第2の都市メルボルン。グルメやファッション、スポーツ、アートなどの発信地であり、「ガーデンシティー」と呼ばれる豊かな緑や、歴史的な建築物が立ち並ぶクラシカルな街並みも人々を魅了する。

昨秋、豪州競馬の祭典「メルボルンカップ」を観戦するべく初めてこの地を訪れた筆者は、4日間の滞在ですっかりとりこになった。さまざまな場所で触れたメルボルンの魅力の一端を紹介したい。

歴史的建築物とカフェでにぎわう街

ヤラ川越しに見るメルボルンの中心街

ヤラ川越しに見るメルボルンの中心街

メルボルン市内を東西に流れ、ポートフィリップ湾に注ぐヤラ川。その北側には「CBD(セントラル・ビジネス・ディストリクト)」あるいは「シティー」と呼ばれる中心街が広がる。

オーストラリア初の駅「フリンダース・ストリート」の駅舎や、ゴシック建築が美しい「セント・ポール大聖堂」、オーストラリア最古のショッピングアーケード「ロイヤル・アーケード」――碁盤の目状に配された通りを歩くと、至るところで歴史的な建築物に出くわす。

1850年代、ゴールドラッシュに沸いたメルボルンの街には世界中から人が集まり、多様な文化の礎が築かれた。当時の優雅な建築物は、補修を繰り返しながら今もクラシカルな姿をとどめる。

メルボルンの街のシンボル、フリンダース・ストリート駅。1854年に建てられたオーストラリア初の駅 Boyloso / Getty Images

メルボルンの街のシンボル、フリンダース・ストリート駅。1854年に建てられたオーストラリア初の駅 Boyloso / Getty Images

1891年に建てられた「セント・ポール大聖堂」はメルボルン3大ゴシック建築の一つ。CBDで最も交通量の多い交差点に建つ

1891年に建てられた「セント・ポール大聖堂」はメルボルン3大ゴシック建築の一つ。CBDで最も交通量の多い交差点に建つ

大通りから路地裏に入ると、また別の“メルボルンらしさ”に出合う。眼前に広がるのは、様々なグラフィティ(ストリート・アート)と洗練されたカフェの数々。モーニング、10時、ランチ、15時……メルボルニアン(メルボルンっ子)は、事あるごとにお気に入りのカフェに足を運ぶ。仕事の休憩も食事もカフェ任せ。完全に憩いの場だ。

中心街の大通りから一本路地に入るとカフェがひしめき、多くの人でにぎわっているTkKurikawa / Getty Images

中心街の大通りから1本路地に入るとカフェがひしめき、多くの人でにぎわっている TkKurikawa / Getty Images

路地裏ではグラフィティもたくさん見られる。CBDはストリート・アートが文化として根付いていて、建物のオーナーがドローイングを許可していることもあれば、自治体がドローイングを開放している通りもある

路地裏ではグラフィティもたくさん見られる。CBDはストリート・アートが文化として根付いていて、建物のオーナーがドローイングを許可していることもあれば、自治体がドローイングを許可している通りもある

街を歩きながら、コーヒーチェーンが少ないことにふと気付く。現地ガイドいわく「個性的なローカル・カフェが圧倒的に強いんです」。メルボルニアンがカフェに求めるオリジナリティーは極めて高く、スターバックス・コーヒーすら広がらなかったそうだ。

滞在中、最も印象に残ったサウスメルボルンの人気カフェ「ST. ALi」(セント・アリ)。90年代以降、生産地から淹(い)れ方までコーヒーの各工程にこだわるサードウェーブコーヒーブームが世界各地で巻き起こった。メルボルンにおけるブームの牽引(けんいん)役と言われるのがセント・アリ。原料から自給する同店の特別な一杯を求めて、各地からファンが訪れる。

彼らにまじって、植物が描かれたラテを飲みながらほっと一息。いっぱしのメルボルニアンを気取りながら心地よい朝のひとときに浸る。

レジ付近にはバッグやTシャツなどが陳列してあり、時折売れていく。好きなアーティストのTシャツを着るのと同様、カフェのオリジナルグッズも立派な自己紹介ツール。この街ではカフェは居場所であり、パーソナリティーのよりどころでもあるらしい。

サウスメルボルンにある人気カフェ「ST. ALi」。れんが造りのレトロな外観

サウスメルボルンにある人気カフェ「ST. ALi」。れんが造りのレトロな外観

カフェではコロンビアに所有する20エーカーのコーヒー農園で栽培した豆を使用している

カフェではコロンビアに所有する20エーカーのコーヒー農園で栽培した豆を使用している

優しい口当たりのラテでほっと一息

優しい口当たりのラテでほっと一息

 

緑があふれる「ガーデンシティー」

「ガーデンシティー」と呼ばれるメルボルンは、中心街にもところどころに緑があふれ、すこぶる気持ちがいい。とりわけ「カールトン庭園」は感動もの。

園内の中央にたたずむ世界遺産「ロイヤル・エキシビション・ビル」。ビザンチン様式、ロマネスク様式、ルネサンス様式を融合したデザインが歴史の重みとりりしさを醸し出す。建物を取り囲む沿道には百花が咲き乱れ、青々とした芝生も広がる。

あまりの気持ちよさに、我慢できず芝生の上に寝転んだ。せわしなさから解放され、時間が止まったような気分になる。「ここで新鮮なカキを食べながら、ビールを飲むと最高ですよ」。ガイドの粋なささやきに完全にノックアウトされる。広大な空を眺めながら、幸せの引き出しがまた一つ増えた気がした。

「カールトン庭園」の中央にたたずむ世界遺産(文化遺産)「ロイヤル・エキシビション・ビル」 TkKurikawa / Getty Images

「カールトン庭園」の中央にたたずむ世界遺産(文化遺産)「ロイヤル・エキシビション・ビル」 TkKurikawa / Getty Images

庭園には色とりどりの花々と緑があふれる

庭園には色とりどりの花々と緑があふれる

市民の生活を支える数々のマーケット

おいしそうなカキを見つけたのは、それから数日後のこと。サウス・メルボルン・マーケットに行くと、有名店「アプタス・シーフード」をはじめ、様々な鮮魚店に生きの良いカキがたくさん並んでいた。

メルボルンには市民の生活を支える数々のマーケット(=市場)がある。いわゆるスーパーとは別にマーケットが市内に点在し、生鮮食品や日用品、衣類に工芸品まで実に多様な品々が売られている。場内には飲食スペースもあって、いわば地域のコミュニティー。メルボルニアンの日常に触れたい人はぜひ足を運んでみてほしい。

新鮮な魚介が並ぶサウス・メルボルン・マーケット

新鮮な魚介が並ぶサウス・メルボルン・マーケット

こちらは卵がぎっしり。様々な専門店が並ぶ

こちらは卵がぎっしり。様々な専門店が並ぶ

飲食スペースには市民が集う

飲食スペースには市民が集う

ちなみに19世紀後半に開場したメルボルンを代表するマーケット「クイーンビクトリア・マーケット」にはこんな逸話がある。もともとは墓地で、いまだに敷地の地下には数千体の遺体が埋まっているというのだ。

墓地時代、火事によって埋葬者の名簿が焼失し、遺体の主が分からなくなってしまった。その後、人口増加に伴い、墓地を埋め立ててマーケットを拡大したらしい。ヒヤッとする話だが、毎日にぎわうマーケットの様子を見るに、メルボルニアンたちは誰もそんなことを気にしていないようだった。

1878年に開かれた「クイーンビクトリアマーケット」

1878年に開かれた「クイーンビクトリア・マーケット」

 

アートと美食が融合する新興ワイナリー

最後にワイナリーを一つ紹介したい。メルボルン郊外はワインの産地として知られる。CBDから車で1時間ほどの「モーニントン半島」は50軒以上のワイナリーが集まる近年注目の地域。中でも圧巻の光景が広がるのが「ポイント・レオ・エステート(Pt. Leo Estate)」。美術館さながらの美しさで、想像していたワイナリーとは全く違った。

同地は、オーストラリア有数の資産家・ガンデル家の私有ワイン醸造施設を2017年に一般公開したもの。敷地面積は130ヘクタール超。真っ青に輝くウェスタン・ポート湾を望む広大な庭園には、オーストラリア国内外の作家による約50点の私有アートが点在し、雄大な自然と融合した光景に圧倒される。

エントランスの前にはボトルの形をした木がそびえ立ち、その周りを彫刻家インゲ・キングが手がけた高さ6mの壁に囲む

エントランスの前にはボトルの形をした木がそびえ立ち、その周りを彫刻家インゲ・キングが手がけた高さ6メートルの壁が囲む

様々な彫刻作品が設置された庭園。その先には真っ青に輝くウェスタン・ポート湾

様々な彫刻作品が設置された庭園。その先には真っ青に輝くウェスタン・ポート湾

世界的な美術家ジャウメ・プレンサの作品「LAULA ASIA」。顔の正面(画像右)は非常に幅が狭い構造になっている

世界的な美術家ジャウメ・プレンサの作品「LAULA ASIA」。顔の正面(画像右)は非常に幅が狭い構造になっている

シグネチャーワインはピノ・ノワールとシャルドネ。ワイナリーには、アラカルト料理を提供する「ポイント・レオ・レストラン」、コース料理のみの「ローラ」の二つのレストランが併設され、外に広がる自然とアートを眺めながらワインと美食を楽しめる。メルボルンを象徴する文化が集まる、何ともぜいたくな空間だった。

冷涼な気候が特徴のモーニントン半島で定評があるのはシャルドネとピノ・ノワール。ポイント・レオ・エステートでは1杯6豪ドルでテイスティングできる

冷涼な気候が特徴のモーニントン半島で定評があるのはシャルドネとピノ・ノワール。ポイント・レオ・エステートでは1杯6豪ドルでテイスティングできる

この日のメインディッシュは牛フィレ肉。ポイント・レオ・エステートには近年多くの美食家たちが詰めかける

この日のメインディッシュは牛フィレ肉。ポイント・レオ・エステートには近年多くの美食家たちが詰めかける

◇◇◇

英エコノミスト誌の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」が発表する「世界で最も住みやすい都市ランキング」で、メルボルンは2011年から7年連続で首位を獲得した。

滞在中、各種の文化に触れながら、その理由について思いを巡らした。なぜメルボルンは過ごしやすいのか? 結論。街のどこかに“自分の居場所”と思えるところが見つかるからだろう。

チャイナタウン(リトル・バーグ・ストリート)、ギリシャ人街(ロンズデール・ストリート)、リトルイタリー(ライゴン・ストリート)をはじめ、フレンチ、スパニッシュ、アジアンなどメルボルンには120カ国3000軒ものレストランが存在する。カフェも公園もマーケットも多様で、どこかに居心地の良さを感じる場所がある。

世界中から移民が集まり発展した歴史がそうさせるのだろうか。メルボルニアンは寛容性にあふれ、その空気が街全体に広がっている。旅の4日間、自分をよそ者と感じることはなかった。

夕暮れ時のカールトン庭園。ライトアップされ独特の哀愁が漂う

夕暮れ時のカールトン庭園。ライトアップされ独特の哀愁が漂う

帰国前日の夕方、もう1度カールトン庭園を訪れ、沿道を歩いた。短い間に何度も来たいと思える場所に出合えるのは幸せなことだ。

私がメルボルンを好きになったのは土地の魅力に加え、この旅に同伴した現地在住の日本人ガイドの影響も大きい。彼女は知的誠実さとメルボルン愛にあふれる人で、血の通った言葉で街の魅力を丁寧に説明してくれた。その一つひとつが新鮮に響き、私の目に映る景色を鮮やかに変えていった。

(文・写真 &編集部 下元陽)

【取材協力】
オーストラリア政府観光局
www.australia.jp
ビクトリア州政府観光局
jp.visitmelbourne.com

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