京都ゆるり休日さんぽ

美しく奥深きお茶の世界へ。街の片すみに息づく京町家カフェ「aotake」

「小さい頃から、お茶が身近にありました。父が、コーヒーをいれるのと同じ感覚で抹茶をたててくれたりして。上等な抹茶碗(まっちゃわん)や茶室があったわけではなく、普通のダイニングで気軽に飲んでいたんです」

そう語るのは、日本茶・紅茶・中国茶と3種のお茶に特化したカフェ「aotake(アオタケ)」の店主・田中貴子さん。日々の暮らしとともにお茶があった田中さんにとって、国や文化、品種によって味わいや飲み方の異なる、多様なお茶の世界にのめり込んでいったのは自然なことでした。

美しく奥深きお茶の世界へ。街の片すみに息づく京町家カフェ「aotake」

元の土壁を生かし、古い建具や床材でリノベーションした空間

「aotake」があるのは、京都駅からほど近い築100年になろうかという京町家。昨年の夏に、京都府南部ののどかな郊外エリア・木津から移転してきました。10年近く営んだ木津の店は、竹林に囲まれた一軒家のカフェとして人気を呼び、里山の借景と古民家の空間を目指して訪れる人が多かったといいます。「自然に囲まれたロケーションは良かったけれど、もっとお茶に集中して向き合える場所を作りたくて」。めぐりあったのは、20年空き家だったという古いこの家でした。

美しく奥深きお茶の世界へ。街の片すみに息づく京町家カフェ「aotake」

背の高い人なら少し身をかがめてくぐる門構え。玄関までのアプローチにささやかな庭がある

京都駅周辺は再開発が進み、駅から七条通付近には町家らしき建物はほとんど残っていません。田中さんは、所属していた「古材文化の会」を通してこの家の大家さんとつながり、町家の再生と保存を共通目的に、昔ながらの間取りを生かしたカフェとして再スタートをきりました。侘(わ)びた表情が味わい深い土壁など建物特有の財産はそのままに、床に古材を張り、縁側や厨房(ちゅうぼう)との仕切りには古い建具を用いるなど、自らの手でリノベーション。小さな通り庭を抜けて玄関を入ると、ここが京都駅界隈(かいわい)とはとても思えないほど、風情ある空間が広がります。

美しく奥深きお茶の世界へ。街の片すみに息づく京町家カフェ「aotake」

さりげなく飾られた花や石のたたずまいに目を奪われる

aotakeで扱うお茶は、田中さんが信頼を寄せる茶師から仕入れる日本茶、毎年農園別にセレクトするフルリーフタイプの紅茶、初心者でも飲みやすい台湾を中心とした中国茶の3ジャンル。どれも1煎目は田中さんがいれてくださるので、運ばれてきた茶器とともに、茶葉の形や香りも楽しみます。茶葉を入れる、湯を注ぐといった美しい所作を通して伝わるのは、丁寧にお茶を味わうことの豊かさ。また、日本茶に付く「豆腐白玉」は、ふんわり・もちもちとした食感がクセになる一品。黒ごまペースト、くるみペーストのちょこんとのった様も愛らしく、凛(りん)とした茶器のたたずまいと並べてしばし見とれてしまいます。

美しく奥深きお茶の世界へ。街の片すみに息づく京町家カフェ「aotake」

「茶葉も見ていただきたくて」と、まず茶葉の香りを楽しみ、急須に入れるところから実演してもらえる。「煎茶 和束茶」(小菓子付き1,080円・税込み)

「お茶のおいしさを最大限に引き出すためには、お湯の温度や茶葉の量など、一つひとつの要素が大切です。1煎目を私がいれているのは、それらを踏まえ、一番おいしい状態で飲んでいただきたいから。『いれてもらったお茶はおいしい』と言いますが、きっともてなす側の気持ちが入っているからではないでしょうか」

美しく奥深きお茶の世界へ。街の片すみに息づく京町家カフェ「aotake」

お茶の最後の一滴はうまみの結晶

お茶は2煎、3煎と何度も飲むことができるので、味や香りの変化を楽しみながら、何時間でも過ごしていたくなります。床の間のしつらえや庭にさす光、茶器の繊細な口当たりに、立ち上る茶葉の香り……。五感を満たす一つひとつを丁寧に味わえば、お茶がのどをうるおすためだけのものではなく、知的な遊びのようにも感じられます。

美しく奥深きお茶の世界へ。街の片すみに息づく京町家カフェ「aotake」

収納棚があった場所を床の間やつり棚に。掛け軸や骨董(こっとう)などが飾られている

商業施設やホテルが立ち並ぶ街の片すみに、訪れた人だけが眺められる小さな庭と、時間をかけて楽しむ香り高いお茶に出合える隠れ家喫茶。秘密にしておきたくなるようなつつましい扉の奥には、誰かに伝えずにはいられない心豊かなお茶の時間が待ち受けています。(撮影:津久井珠美)

aotake(アオタケ)
京都市下京区七条通高倉材木町485
070-2287-6866
11:30~18:30
火曜・水曜定休

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

いつ訪れても心落ち着く。パリの学生街のような喫茶店「進々堂京大北門前」

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