永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(6)心を解き放て

(6)心を解き放て

© Masatoshi Nagase

湖でバレリーナを撮りたい。そう思って、青森県の小川原湖へ行った。僕がまったく踊れないからだと思うけれど、ダンサーのように身体表現にたけた方たちを、つい撮りたくなってしまう。

バレリーナは、地元に住んでいる方に来ていただいた。なんとなくこんな感じで、と僕がポーズだけ示して、あとは彼女のイメージに任せた。湖が舞台とは、いかにもバレエっぽい。黒い衣装だから、白鳥ではなく黒鳥か。

実はこの写真は、3枚連作の3枚目だ。最初の2枚には、どこか不安な様子で足元の水面を見つめるバレリーナが写っている。その彼女が3枚目で見せた飛躍。心に傷や闇を抱えた人がそれを解き放つパワー、というイメージに仕上がった。

狙ったわけではないけれど、シャッタースピードを変えて撮るうちに、振り上げた彼女の足から滴る水の軌跡をうまくとらえることができた。この水の流れが持つ美しさやエネルギーは、彼女が持っている何かだろう。

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> (5)音をまとった男
> (4)廃屋と生命
> (3)風が止まる
> (2)見つめる先は
> (1)雪にハネト

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(5)音をまとった男

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(7)思いを包む手

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