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再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

前号までのアメリカ編で長距離バスに乗り続けた反動だろうか。眠れない夜、バスの車窓に映るシカゴの夜景を眺めながら、アジアの静かな村を思っていた。バスの旅にへきえきとしていた。スマホの画面に映し出される100ドルを超えるバス運賃を確認するのにも疲れてきた。

脳裏(のうり)に浮かんできたのは、バングラデシュの村だった。12万円で10日間ぐらい暮らすことができないだろうか……。

バングラデシュ南部のコックスバザールで小学校の運営にかかわってきた。もう30年近く続いている。学校を支えてくれている現地の人や先生とは長いつきあいになる。彼らに頼めば、村の一軒家を探してくれるかもしれない。

約30年前に発刊された『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)をなぞる旅の番外編は、『12万円で暮らす旅』。現地と連絡をとりながら、バングラデシュに向かった。

今回の旅のデータ

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

ダッカからコックスバザールへ

バングラデシュの首都ダッカまでの直行便はない。香港、クアラルンプール、バンコク、上海などで乗り換えになる。選択肢は多いが、乗り換え空港からの便があまり多くないため、思った以上に時間がかかる。乗り継ぎがスムーズで、運賃がリーズナブル……といったら、キャセイパシフィック航空。到着時間が深夜になってしまうが。

僕らはクアラルンプール乗り換えのLCCを選んだ。往復で8万7432円だった。ダッカからコックスバザールまでは、飛行機とバスがある。飛行機は検索サイトに出てこないものもある。現地の知人に調べてもらうと片道8000円近くになり、2000タカ、約2660円のバスを選んだ。

長編動画

バングラデシュの首都ダッカの街並みを。ダッカは渋滞だらけ。動画は夕方のラッシュのちょっと前といった時間帯。あと1時間もすると、道は人と車で埋まります。

短編動画

コックスバザールはちょっと雨が降ると……。水路が詰まる原因はゴミ。年々ひどくなってきている。そして結婚式のパレードを。

ダッカからコックスバザールへ「旅のフォト物語」

Scene01

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

ダッカのシャージャラル国際空港に着いた。かつては出迎えなのか、ただそこにいるだけなのか、わからない人々がターミナル内に入らないようつくられたこの柵に鈴なりになっていた。最近はだいぶ落ち着いてきた。寄ってくるタクシーの客引きも減った。この場所で身構える癖がついている僕は気が抜けてしまう。

Scene02

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バングラデシュ政府が発表した人口は、2018年時点で約1億6365万人。これだけの人が、北海道の広さの1.8倍弱の土地に暮らしている。首都ダッカへの人口集中も激しく、その数は聞きたくもない。道路は車で埋まり、中古の2階建てバスもすし詰め状態。そこに自転車リキシャやバイクが入り込み……カオスとはこのこと?

Scene03

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

写真中央の警官の手先を見てほしい。手にしているのは、千枚通しのような工具。これで客待ち停車を禁止している場所にいる自転車リキシャのタイヤに穴をあけていく。手荒な交通違反対策だ。逃げる自転車リキシャ。それを追う警官。これ、毎日、繰り返されるダッカの日常風景です。

Scene04

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

混みあう歩道橋を渡る。と、階段をこういう物売りがあがってくる。鶏、もちろん生きてます。はじめはギョッとするが、ダッカの街を歩いていると、日常に溶け込んでいってしまう。どうして鶏はおとなしくしているんだろう……と考え込んでいると、生きた魚を頭に載せた人が迫ってくる。疲れる街です。

Scene05

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

ダッカからコックスバザールへ。アメリカをバスで1周した旅を終え、もうバス旅は……の舌の根が乾かぬうちに、また夜行バス。飛行機に乗りたかったのだが、片道8000円弱。結局、バスになってしまった。このバスに約9時間揺られなくてはならない。そういう星のもとに生まれたってこと?

Scene06

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

コックスバザールまで乗ったのは、グリーンラインという高級バス。バングラデシュの夜行バスはいま、そのサービスを競い合っている。冷房付きの、3列ゆったりシート。背もたれもかなり倒れる。そして夜食はバイキング……。はっきりいって、アメリカのグレイハウンドバスよりレベルが高い。難点は道の悪さ。

Scene07

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

朝7時。予定より早くコックスバザールに到着した。この街はバングラデシュ有数のビーチリゾート。世界最長といわれる砂浜の長さは125キロにもなるとか。海沿いにはリゾートホテルが並び、ダッカから富裕層が遊びにくる。しかしこのビーチ、世界的な知名度は低い。その理由? 次の写真を見るとわかります。

Scene08

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

ビーチリゾートといっても……。この人の多さ。人前で肌を晒(さら)すことなどもってのほか、というイスラム教徒の多い国のなかでは、ビーチに人が集まっても、ただ立っているだけ。このなかで、日本人が水着姿になったら、とんでもないことに。知名度が低い理由、わかると思います。

Scene09

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

かつてこの一帯にはラカイン族の仏教王国があった。近隣勢力との戦乱、植民地時代を経て、彼らはいま、ミャンマーとバングラデシュに分かれて暮らしている。西側から迫るイスラムの勢いと直に接するなかで、仏教を守り続けている。イスラム教徒が丘の中腹に違法に家を建て、このパゴダも崩壊が危ぶまれている。

Scene10

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ラカイン族の結婚式があった。女性たちは派手な民族衣装でその文化を誇示するかのように街を行進し、会場へ向かう。バングラデシュに暮らすラカイン族は、人口は2万人強という少数民族。頑張らないとイスラムの勢いに負けてしまう。結婚式は、その宿命をはね返すかのように延々と続く。

Scene11

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

ラカイン族経営の唯一のゲストハウスに泊まる。2食付きで2000タカ、約2660円。リゾートだが、1年の宿泊客は5人以下。看板もなく、ホームページは英語と日本語のみだから、ベンガル人に知られていない。理由を聞くと「うちはラカイン料理。ときには豚肉も提供します。そういった私たちの習慣に対し、イスラム教のベンガル人がなにをいうかわからないから」とオーナーのラジョさん。

Scene12

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

コックスバザールとのつきあいは30年ほどになる。知人のフリージャーナリスト、森智章氏の死がきっかけだった。ミャンマーの民主化運動に参加した学生が、軍に追われ、隣国バングラデシュに逃げた。その取材で国境地帯に入った彼は熱帯熱マラリアに。彼の墓を街の仏教寺院のなかにつくった。墓碑の日本語は彼の娘さんが書いた。

Scene13

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

森氏の遺志を継ぎ、貧しいラカイン族の子供向けの小学校運営がはじまった。資金は森氏の友人を中心にしたグループの寄付が頼りだった。それから28年。日本の経済停滞や友人の高齢化で寄付が心細くなってくる。追い打ちをかけるように校舎の老朽化問題。修繕費用はない。そこでクラウドファンディングを試みることにした。

Scene14

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

小学校の生徒数は現在140名。先生は9名。学費は貧しいラカイン族の現状をふまえて原則、無料。僕らは28年間、先生の給料を送り続けてきた。しかしバングラデシュの物価があがり、先生たちの給料は実質的には目減り。それでも先生たちは辞めずに続けてくれている。学校運営という援助にゴールはない?

Scene15

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

小学校に出向くと、必ず先生たちが集まって会議。さまざまな要求が浴びせられる。給料の増額、英語の勉強のサブテキストを買いたい、2階の廊下が壊れかけている……。支援者の代表である僕はいつも針のむしろ? これが僕の困ったときの顔です。支援というのは実はかなりつらいことを教えられた28年。

【次号予告】次回はコックスバザールからクトゥパロンの難民キャンプへ。

※取材期間:2019年2月11日~2月25日
※価格等はすべて取材時のものです。

■クラウドファンディング
「バングラデシュの小学校校舎の修繕プロジェクト」はこちら

 

■下川裕治インタビュー

#01 「読者が僕に求めているのはつらい目に遭うことだから……」

#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

#03 旅の一番のピンチ、それでも続ける原動力とは?

BOOK

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編1

ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅

このコーナーで長く連載が続いた「玄奘三蔵が歩いた道」が1冊の本にまとまりました。「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)。西安からスタートし、シルクロードを西に。中央アジアからパキスタン、インドへ。さらにそこから西安まで戻る長い旅。玄奘三蔵の歩いたルートを辿る現代版・西遊記です。

 

PROFILE

下川裕治

1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

フォトグラファー

阿部稔哉(あべ・としや)
1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

再び「12万円で世界を歩く」アメリカ編5

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再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編2

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