にっぽんの逸品を訪ねて

歴史のまち「奈良県桜井市」に旧建築を生かした宿やレストランがオープン

歴史のまち「奈良県桜井市」に旧建築を生かした宿やレストランがオープン

旧材木商の邸宅を改装した「蔵の宿 櫻林亭」(画像提供:桜井まちづくり株式会社)

新元号が「令和」に決まり、『万葉集』など日本の古代の歴史が注目されている。奈良県中央部の桜井市も古代からの史跡が多いまちの一つ。ここは飛鳥時代以前のヤマト王権の中心地だったと考えられている。

市内には、『万葉集』に記載された名所が数多くある「山の辺の道」や、最初の元号「大化」の時代を開いた立役者である中臣鎌足をまつる談山神社、さらにアメリカの哲学者で日本美術の評価や紹介に尽力したことでも知られるアーネスト・フェノロサが絶賛した十一面観音立像(国宝)を所蔵する聖林寺など、歴史的な見どころに事欠かない。

その桜井市では旅人にもうれしい魅力的な町づくりが進んでいる。市街の旧建築が宿やレストランに生まれ変わり、より歴史散策がゆっくりと楽しめるようになった。今回はリノベーションされた宿、レストラン、カフェの3軒を訪ねた。

■泊まるならここ! 数寄屋造りの「蔵の宿 櫻林亭」

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「蔵の宿 櫻林亭」の入り口は洋風建築

JR桜井駅から南へ3分ほど歩いて現れるモダンな洋館は、材木商を営んでいた富田家のかつての迎賓オフィスだ。洋館の奥に立つ日本家屋や蔵を改修し、昨年「蔵の宿 櫻林亭」としてオープン。明治から大正にかけて、材木商が粋を凝らした数寄屋造りの迎賓邸宅に泊まれると話題になっている。

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チェックインルームもクラシカルな雰囲気

桜井市は明治時代に鉄道が通ると、吉野杉と吉野桧(ヒノキ)の集積地として栄えた。
「かつては駅前に50軒とも100軒ともいわれる材木商が軒を連ね、木材のすがすがしい香りが漂っていたそうです」と話してくださったのは、オーナー家の1人である喜多野和子さん。

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喜多野和子さん(右)とコンシェルジュの柏木静さん

敷石を踏んで庭を進むと、2階建ての「松風(しょうふう)」と「清風」の2棟が背中合わせで立っている。宿泊は1棟をそのまま貸し切るスタイル。現在、宿泊は1日1組限定なので別荘にいるようなプライベート感覚で過ごせる。

「松風」では1階に6畳と8畳間の和室が並ぶ。回廊のようにめぐらせた縁側には大正ガラスを使った一面の大きな窓が続き、窓の向こうの日本庭園の眺めを際立たせている。手入れの行き届いた室内には心豊かな暮らしのぬくもりが今も息づいているようだ。

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回廊のような縁側がめぐる「松風」1階

「清風」は、茶室「櫻柏」や蔵を改装した寝室を備えている。書院造りの居室は、床の間や違い棚を設けた風格漂う造りだ。網代天井や組子細工を施した障子窓、精密な欄間彫刻など、細部まで趣向を凝らしている。大切な客人を迎えるもてなしの心を感じる。純和風建築でありながら、戸袋にはピラミッドなどのエジプト柄が描かれるハイカラな一面も。

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「清風」の居室は網代天井など凝った造りが随所に

「祖父の日記には、当時の名工とうたわれた棟梁(とうりょう)と、毎日のように打ち合わせをしながら建てたと書いてあります。多くの方に日本の木の文化に触れていただきたい」と喜多野さんは話す。

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アメニティー入れもこんなに素敵

■木造の回廊が残る元銀行のレストラン

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今見てもモダンな造り

夕食は、櫻林亭から歩いてすぐの「ル・フルドヌマン~櫻町 吟(ぎん)~」へ。昭和初期に建築された旧吉野銀行桜井支店を改装したフレンチレストランだ。外壁の1階は石張り、2階はれんが張り、モールディングとよばれる縁取りも施されている。洗練された美しい建物から、当時の町の繁栄ぶりに思いをはせる。

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2階の回廊が銀行だった歴史を伝える

店内は高さ約7メートルの吹き抜けの空間が広がり、開放感にあふれる。銀行時代の面影を残す2階の回廊をはじめ、天井や窓なども建築当時のままだという。木造建築のぬくもりとやわらかな照明に、心が安らぐ。

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やわらかな照明に心和む店内

料理には、自家農園や契約農家から届く野菜やフルーツ、大和牛や大和ポーク、和歌山県由良直送の海の幸など、旬の食材を使う。ランチは2000円~、ディナーコースは4320円~。

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前菜とスパークリングワインで楽しいディナーのはじまり

この日のコースの前菜は、自家農園の野菜のマリネや、パテ・ド・カンパーニュなど4種が並ぶ。色彩豊かで、どこかのびのびとした盛り付けが、楽しい食事の時間を予感させる。

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この日の魚料理は「ホタテと水ダコのスフレ仕立て 海藻ソース」

2層仕立ての「アサリのフランと菜の花のスープ」に続いて「ホタテと水ダコのスフレ仕立て 海藻ソース」が登場。ホタテのうまみたっぷりのスフレに上品な海藻ソースがよく合う。カリカリに揚げた玉ネギの甘みがほどよいアクセントになっている。

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「大和牛イチボのグリル ヴィネーグルソース」

「大和牛イチボのグリル ヴィネーグルソース」は、炭火で外は香ばしく、中はやわらかく焼き上げている。ヴィネーグルソースでさっぱりといただける。デザートまで大満足のコースだった。

■コーヒーの香りに包まれる古民家カフェ

櫻林亭の近くには、昭和初期建築の青果店を修景したカフェ「櫻町珈琲店」もある。吉野杉を生かした店内は初めて訪れてもどこか懐かしい。

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旧伊勢街道に面した「櫻町珈琲店」

自慢のコーヒーは、丁寧にハンドピックした豆を自家焙煎(ばいせん)し、光サイフォンで淹(い)れる。

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この道20年のマスター自慢のコーヒーが味わえる

櫻林亭の宿泊には、櫻町珈琲店での朝食が付き、トーストかワッフルが選べる。ワッフルには桜井市内の旭製粉製国産ミックス粉を使用するなど地元の素材にこだわっている。コーヒーの豊かな香りとともに、朝から優雅なひと時が過ごせた。

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朝食のワッフルセット

【問い合わせ】
蔵の宿 櫻林亭
https://sakurai-sakuramachi.com/ourintei/

ル・フルドヌマン~櫻町 吟~
https://sakuramachi-gin.gorp.jp/

櫻町珈琲店
http://www.shokokai.or.jp/29/292061S0074/index.htm

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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