あの街の素顔

タカの爪? いえオロチの爪です 伝説にちなむ巨大唐辛子 島根県雲南市

出雲空港からクルマで約30分進むと、窓の外には稜線を描く緑の山々を背景に棚田が広がる。おだやかな「日本の原風景」に、ホッと心がなごむ。

タカの爪? いえオロチの爪です 伝説にちなむ巨大唐辛子 島根県雲南市

鳥の声しか聞こえない、のどかな山里。農事組合法人「奥出雲マザーズ」は、ここ雲南市吉田町にある

島根県の県庁所在地である松江市と、出雲大社のある出雲市に隣接する雲南市。「ヤマタノオロチ伝説」の舞台となり、日本古来の伝統的製鉄法である「たたら製鉄」で栄えた町でもある。

のどかな風景が美しいこの町は、じつはとても「スパイシー」。雲南市は、特産である唐辛子や山椒(さんしょう)を使った加工品や料理を開発する「うんなんスパイスプロジェクト」に取り組み、市内ではさまざまなスパイスグルメが楽しめるのだ。

雲南市吉田町は国内でも有数の唐辛子の産地。水はけが良く唐辛子の栽培に適した土壌では、ブランド唐辛子「オロチの爪」が栽培されている。

タカの爪? いえオロチの爪です 伝説にちなむ巨大唐辛子 島根県雲南市

長さ15センチにもなる大型唐辛子「オロチの爪」。収穫は7月後半~11月。昨年、ローソンのから揚げにも使用され人気をよんだ

「長さが約15センチと通常の3倍もある巨大唐辛子です」。ホーホケキョとうぐいすが鳴くのんびりした風景のなかで語るのは、唐辛子栽培歴35年という農事組合法人「奥出雲マザーズ」の古居忠さん。ヤマタノオロチ伝説にちなんで名付けられた唐辛子は、辛みのなかにもうまみがあるのが特徴だ。「甘みがあってマイルド。わたしはみそ汁に必ずたっぷり粉を振ります。生は刻んで薬味にしてもおいしいですよ」

タカの爪? いえオロチの爪です 伝説にちなむ巨大唐辛子 島根県雲南市

「奥出雲マザーズ」の古居忠さん(左)は、地元で昔から作られていた「唐辛子味噌(みそ)」を開発。そのたまりを使った「たたらば醤油」を「紅梅しょうゆ」の松尾透さん(右)と作り上げた。ステーキや野菜炒めにぴったりのしょうゆだ。いずれも「道の駅 たたらば壱番地」で購入できる

オロチの爪をたっぷり使ったグルメが楽しめるという居酒屋「うんなん咲場 幸乃家」を訪ねた。「オロチの爪は、味に広がりがあります。最初にしっかり唐辛子そのものの風味があり、次に辛みがくるんです」とオーナーの吉岡幸浩さん。

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雲南の食材にこだわる「うんなん咲場 幸乃家」。木次ファームのたまごとチーズを使った「チーズだしまき」も人気。おしゃれな店内には女性客が多い

一番人気のメニューが目の前に運ばれてきた。「うんなんスパイスの骨付き鶏 火の鳥」。その名のとおり真っ赤である。

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「うんなんスパイスの骨付き鶏 火の鳥」。唐辛子などのスパイスを加えたタレに漬け込み、鶏をロースト。たっぷりかけたオロチの爪と、パリッと焼けた鶏はやみつきになる味わい

「オロチの爪の粉をこれでもかというほどかけた」(吉岡さん)という地鶏のローストを恐る恐るかじってみる。あれ? 感じるのは爽快な香り、ふわっとした甘み……と思った後にガツンと辛みがくる。慌ててハイボールを飲み、辛さが収まったと思ったら、あれ? また食べたくなる! 刺すような辛さだけではない、ハーモニーのある辛さ。これは危険な味わいだ。「ね、クセになるでしょう」と吉岡さんがニヤリと笑う。

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「道の駅 たたらば壱番地」には、オロチの爪商品がズラリ!

山椒は、奥出雲地方では用いられて1300年の歴史を誇る。『出雲國風土記』には「かわはじかみ」の名で、薬草として使われていたことが記されているのだ。

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「いずも八山椒」が栽培する「朝倉山椒」。鮮やかな緑色だ

雲南市木次町の「いずも八山椒」では、無農薬で山椒を栽培している、「育てている品種は朝倉山椒。美しい緑色、さわやかな香り、ほどよい辛みが特徴です」と社長の景山勲さん。その魅力をいかすために、同社ではあえて5月から6月、実が若いうちに収穫、加工している。「通常は完熟したものを加工品にすることが多いのですが、色と風味を楽しむなら熟す前のものがいちばんです」と景山さん。

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山椒の生産、加工、販売まで一貫して行う「いずも八山椒」の景山勲さん。建設業を営むかたわら、地元に貢献したいと山椒の栽培をはじめた

仕上がった粉末は、まるで抹茶のよう。そして、山椒がかんきつ類であることを思い出すフルーティな香り。あとからふんわり上品な辛みが口の中に広がる。

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景山家の古い倉庫をリノベーションした「&CAFE華羅」

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&CAFE華羅の内装は、なんと景山さん自身が手がけた。趣味で集めた骨董(こっとう)品をセンスよく配置した、くつろげる空間

「山椒はいろんな料理に使えます。肉、魚、スイーツ。素材のおいしさをバツグンに引き立ててくれるんですよ」と語る景山さん。ついに山椒の大いなる可能性を紹介するために、レストラン「&CAFE華羅」もオープンしてしまった。グラタン、ハンバーグ、カレー、コロッケ、カツサンド、シフォンケーキ、チーズケーキ……多彩なメニューにはいずれも、山椒が使われている。

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「&CAFE華羅」のメニュー。左上:山椒のシフォンケーキ、右上:山椒のクリームブリュレ、左下:奥出雲和牛のローストビーフ、右下:山椒のアイスクリーム

景山さんのお嬢さんであり、店長を務める長山美里さんは「うちの山椒は辛みがさわやかで料理に合わせやすいです。ハーブのように使えますね」と語る。ローストビーフに使えば、肉のうまみを引き出して華やかな風味を添え、ケーキに使えば甘みを軽やかに、そして引き締める。あとからピリッとくる辛みの効果で後味もすっきり。「山椒料理はたくさん食べても胃もたれしないですね。健胃整腸によいとして昔から使われてきた薬草ですし」と長山さんが笑う。山椒をブレンドした山椒コーヒーも、味わいに複雑な深みを生み出していた。

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「&CAFE華羅」の商品。左は「奥出雲のはじかみ~ミルボトル入り~」「奥出雲のはじかみ粉山椒~缶入り~」「奥出雲の山椒オリーブオイル」。右上は「ジャコのり」、右下は山椒コーヒー

神話の里のスパイスは、たんに「辛い」だけではない、彩りのある「魔法の粉」だった。

■うんなん咲場 幸乃家
https://www.facebook.com/sachinoya.felice2018/

■いずも八山椒
https://www.izumo8sansho.com/

■&CAFE 華羅
http://kara.co.jp/about/index.html

<「1個100円!のたまご リッチな味わいのプリンにも 島根県雲南市」に続く>

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、葛西亜理沙

池田 陽子

薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。
宮崎生まれ、大阪育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは?という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。著書に『​ゆる薬膳。』(日本文芸社)、『缶詰deゆる薬膳。』(宝島社)、『サバが好き』(山と渓谷社)、『「サバ薬膳」簡単レシピ』(青春出版社)など。

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