永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(8)駆けだした笑顔

(8)駆けだした笑顔

© Masatoshi Nagase

青森を撮影しにいった時、たくさん祭りを回ろうと思った。観光客が大勢くる大規模なものより、地元の人々の間でずっと受け継がれているようなものを。これは、五所川原市の飯詰稲荷神社裸参りの時だと思う。

会場へ向かう人々を眺めていたら、すぐそばで子供が突然走り出した。その姿がかわいらしくて、急いでシャッターを切った。女の子は、お父さんのそばから、お母さんとおばあちゃんを目指して駆けているところだろうか。

偶然起きた出来事は、撮影が間に合わないことも多いけれど、この時は、走り出したばかりの女の子の躍動感と、見守る男性の穏やかな表情、女の子を待つ女性の笑顔まで想像できそうな後ろ姿を、収めることができた。

狙ったのは女の子だけれども、僕からは少し距離があったから、奥へ奥へと続く人の列の一番手前で、流れに反する出来事を撮った形に。映画で言う「引きの絵」のような、不思議な味わいのある1枚となった。

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> (7)思いを包む手
> (6)心を解き放て
> (5)音をまとった男
> (4)廃屋と生命
> (3)風が止まる

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(7)思いを包む手

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(9)何を待つのか

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