永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(9)何を待つのか

(9)何を待つのか

© Masatoshi Nagase

ものすごく郷愁を誘う場所だった。青森県弘前市の、弘南鉄道中央弘前駅。僕が幼かった頃の駅舎を思い出し、いいなあと思って入っていったら、写っていらっしゃる方以外にも、年配の方が3、4人座っておられた。全員、女性だった。

冬の日のその様子を撮りながら、僕が頭の中で勝手に作ったストーリーは、みなさん、出稼ぎに行った夫を待っている、というもの。今は昔に比べれば、除雪の仕事などがあって、出稼ぎに行かず地元にとどまる方も多いと聞いたけれど。

考えてみれば、僕が子供の頃から今までの間に、随分世の中は変わった。新しいものがどんどん現れ、漫画の中だけの話だった携帯電話も電気自動車も現実化した。あと10年もすれば、何もかも近代的な装いになってしまうかもしれない。

一方で、まだ古いものも残っている。「変わり目の時代」を写真に切り取って残しておきたい――。青森を撮った「Aの記憶」、宮崎を撮った「Mの記憶」と、僕が日本を撮る「Jの記憶」を続ける原点は、そんな思いにある。

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> (8)駆けだした笑顔
> (7)思いを包む手
> (6)心を解き放て
> (5)音をまとった男
> (4)廃屋と生命

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(8)駆けだした笑顔

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(10)雪を抱いた舟

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