京都ゆるり休日さんぽ

空間が丸ごとアート。エネルギッシュな抽象画の世界に飛び込む「京都府立 堂本印象美術館」

書を思わせるダイナミックな漆黒の筆致と、さまざまな色が踊るようにほとばしる絵。一度見たら忘れられない鮮烈なイメージをまぶたに残す、日本画家・堂本印象の美術館が、京都・衣笠にあります。外観から内装まですべて印象自身がデザインを手がけた「京都府立 堂本印象美術館」は、画家の創造の世界に入り込むような空間。

京都府内の寺院の障壁画などで出合うことも多い印象の作品ですが、画家としての変遷と彫刻や室内装飾にまで及ぶ才能の多彩さ、豊かさを、一度に体感できるのは美術館ならではです。

(メイン写真=画像提供:京都府立 堂本印象美術館)

空間が丸ごとアート。エネルギッシュな抽象画の世界に飛び込む「京都府立 堂本印象美術館」

外壁を塗り直し、開館時の意匠をよみがえらせた。バスの駅とひと続きになり、無料で利用できるスペースも多い(画像提供:京都府立 堂本印象美術館)

創立50周年を機に改修し、2018年にリニューアルオープンした京都府立 堂本印象美術館。金閣寺や龍安寺など人気のスポットにも近いので、散策の途中や移動中のバスの車窓からインパクト抜群の外観を見つけて立ち寄る人も少なくありません。

美術館前のバス停「立命館大学前」は、美術館の敷地とひと続きになり、ゆったりとした待合スペースのある「バスの駅」。途中下車して立ち寄るのはもちろん、バスを待つ間に建築や庭園を鑑賞することができます。

空間が丸ごとアート。エネルギッシュな抽象画の世界に飛び込む「京都府立 堂本印象美術館」

空間全体が印象ワールド。ロビーにはカフェ「藤野茶房」がありドリンクやスイーツをテイクアウトできる(画像提供:京都府立 堂本印象美術館)

館内に一歩足を踏み入れると、そこに広がるのは巨大な絵筆のタッチに包みこまれるかのような空間。壁のレリーフや壁画、ステンドグラス、ガラス絵、窓や取っ手の装飾に至るまで、のびやかな筆致が生きもののようにあちこちに踊ります。

印象は、京都に生まれ、西陣織の図案画家として従事した後、日本画家として才能を開花した人物。戦後は抽象表現へと傾倒しますが、書のような筆致や金彩を用いた画風には、どこか着物の図案や日本画の面影を感じさせます。

空間が丸ごとアート。エネルギッシュな抽象画の世界に飛び込む「京都府立 堂本印象美術館」

2階展示室。印象以外の日本画家や、収蔵作品から1つのテーマにフォーカスした企画展を開催(画像提供:京都府立 堂本印象美術館)

「花鳥や風景、人物、神仏など多様なモチーフを描いて活躍した堂本印象は、生涯多岐にわたる表現を展開し、常に新しい創造を試みた芸術家です。なかでも、初期の作品に見られる日本画の伝統を生かした繊細な人物表現、そして昭和30年代以降の墨や金を大胆に用いた独自の抽象画は印象の作風を代表するもの。時代によって描き方が変化するので、いくつか見比べながら鑑賞すると楽しいと思います」

空間が丸ごとアート。エネルギッシュな抽象画の世界に飛び込む「京都府立 堂本印象美術館」

館内に約30点ある木彫の椅子、壁に掛けられたタペストリーも印象のデザイン(画像提供:京都府立 堂本印象美術館)

そう語るのは広報担当の森麻紀子さん。確かに、「木華開耶媛(このはなさくやひめ)」(1929年)に代表されるような優美でたおやかな人物画と、この美術館の内装や晩年の作品を見比べると、同一人物が描いたとは思えないほどの違いがあります。

時代の変遷や画家の人生と合わせて初期と後期の間にある作品をたどると、さまざまな気づきや共感を得られるはず。智積院や東福寺、法然院などの障壁画で印象の作品を知っていた人も、系譜の中でそれらを位置付けると新たな発見があります。

空間が丸ごとアート。エネルギッシュな抽象画の世界に飛び込む「京都府立 堂本印象美術館」

前衛的なオブジェのベンチ。庭園は無料で開放されている(画像提供:京都府立 堂本印象美術館)

1965(昭和40)年、74歳で自邸の隣に美術館を創立した印象にとって、ここは画家人生の集大成ともいえる場所。晩年は絵画にとどまらず、染織や陶芸、漆芸、木彫などの工芸デザインや美術館の空間デザインにも表現の場を広げました。そのあふれる創作意欲は、50年以上経った今も生き生きと躍動しているように感じられます。

空間が丸ごとアート。エネルギッシュな抽象画の世界に飛び込む「京都府立 堂本印象美術館」

3階のサロンには印象の年譜や愛用の画材を展示(画像提供:京都府立 堂本印象美術館)

「京都で生まれ育った印象にとって、京都とは自然風景だけでなく、歴史や文化の集積を身近に感じられる場所だったと思われます。制作の合間に東山周辺、祇園、嵐山、八瀬、鞍馬などに出かけ、季節とともに景色を楽しんでいたようです」と森さん。3階のサロンからは、印象の暮らした衣笠の眺望を眺めることもできます。

工芸から日本画へ、抽象画へ、そしてジャンルを超えたあらゆる芸術へと、創作の心血を注いだ一人の画家。そのエネルギーは、京都のさまざまな寺院の一室やこの美術館の中に息づき、自らが京都の歴史と文化の一部となって受け継がれています。

京都府立 堂本印象美術館
http://insho-domoto.com

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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