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再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

バングラデシュ南部、ミャンマーとの国境に近いチョドリパラ村での暮らし。人口約500人の小さな村。1日のはじまりは、朝の庭掃除から。しかし村の人たちは、僕らを放っておいてはくれない。しだいに村の暮らしが見えてきた。

約30年前に発刊された『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)をなぞる旅の番外編。バングラデシュ南部をめざした。ミャンマーからのロヒンギャ難民が押し寄せる一帯だが、村の暮らしは平和に映った。

総費用は12万円である。家賃は10日間で5000タカ、約6550円。金があってもその使い道は限られるこの村で、はたしてその金額にどれほどの意味があるのか。そんな暮らしが続く。

【前回「バングラデシュ編4」はこちら】

(文:下川裕治、写真:阿部稔哉)

今回の旅のデータ

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

チョドリパラ村からダッカへ

チョドリパラ村での暮らしを終え、バスでコックスバザールへ。ダッカへは飛行機を利用した。USバングラ航空で、運賃は片道7400タカ、約9842円だった。

バングラデシュの国内線は、USバングラ航空以外にノボエア、リージェント・エアウェイズ、ビーマン・バングラデシュ航空などが就航している。コックスバザール-ダッカ間は1日数便。プロペラ機が多い。運賃は日々変わる。早い予約ほど安くなる傾向が強い。問題はなかなか日本から予約ができないこと。状況は不安定で、予約可能な時期とできない時期がある。

日程に余裕があれば、いったんダッカに入国し、航空会社や旅行会社で買ったほうがいい。ネット検索では表示されない便もある。所要時間は1時間ほど。近々、コックスバザール空港は国際空港になる予定。そうなれば予約も安定してくるかもしれない。

長編動画

チョドリパラ村の脇を流れるナフ川はミャンマー国境。海に近く干満の差が激しい。その眺めを1時間ほど。途中、鳥が飛び、青年が現れる。最後の5分間もお見逃しなく。村の人がカメラを回収してくれたので、夕方の村の様子が映っています。

短編動画

村の暮らしダイジェスト。水が満ちてきた川。一日中、水運びを続ける男性も。

チョドリパラ村からダッカへ「旅のフォト物語」

Scene01

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

朝焼けのナフ川。対岸にそびえるミャンマーの山から日が昇る。夜も早く寝るので、6時前には目が覚めてしまう。1日のはじまりの庭掃除の前にちょっとミャンマー見物。穏やかな風景だが、ロヒンギャ難民たちはこの川を渡ってきた人も多い。兵士の警備も厳しい。チョドリパラ村の人たちが、僕らを村に受け入れるとき、いちばん心配したのは兵士の反応だったという。幸いなにもなかったが。

Scene02

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

僕らが借りた家の家主のミーシンさんが、もち米を臼でつき、朝食をつくってくれた。高くあがる杵(きね)、しっかりとした腰使い。62歳とはとても思えない身のこなしだ。この後、僕もやってみたが、腕の力だけで振りおろし、腰が入らない。もち米が砕けていくスピードはミーシンさんの半分以下。ちょっと自己嫌悪。

Scene03

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

村の雑貨屋の品ぞろえはこんなもの……ではありません。欲しい物をいうと奥や布袋のなかからいろんなものが出てくる。この店で売っていたのはミャンマーのたばこ。バングラデシュのたばこより安かった。対岸のミャンマーから運ばれてくるのか? この店は脇でミルクティーも飲めるが、味はいまひとつだった。

Scene04

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

村には雑貨屋が4軒。それ以外の店はというと、この青空八百屋があるだけ。おじさんは朝からここで店を開き、夕方までぼーッと座っている。かけ声ひとつ発しない。やる気があるのか、ないのか……よくわからない。ダイコンは2本で5タカ、約7円。ニンジンは3本で10タカ、約13円。これってちょっと安すぎない?

Scene05

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

食材を買いにリキシャで20分ほどのニラ村にある市場によく出かけた。村ではじめて乗ったとき、目を疑った。リキシャのおじさんは、両足をフレームの上にあげ、スイッチを入れた。すると静かに発車。「ウソだろ?」。電動車だったのだ。バッテリーがこれ。コックスバザールのリキシャは足こぎスタイルだったのに。村の暮らし、侮れません。

Scene06

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

ニラの市場に向かった目的は鶏肉を買うことだった。ところが売られていたのは生きた鶏(前号)。諦めて魚市場へ。並ぶ魚は多いが、見たこともないものが多い。適当に選ぶしかない。できるだけとまっているハエが少ないものを選ぼうとしたのだが……どれも五十歩百歩で。これ、困っている顔です。

Scene07

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

チョドリパラ村に戻ると、僕らの世話をしてくれたチョーバーシンさんが、自宅の庭で鶏の羽をとっていた。こういうことが淡々とできないと、村では鶏肉を食べることができないんだなぁ。買った魚もチョーバーシンさんの奥さんが下ごしらえ。大変なところは、全部、村の人のお世話になった僕らの暮らしです。

Scene08

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

チョーバーシンさんは、ソフトシェルクラブの養殖業を営んでいた。ナフ川沿いに池をつくり、そこでカニを育てる。脱皮直後に出荷する。それをコックスバザールで冷凍にし、輸出しているのだ。ここが養殖池。灰色のケースのなかに、カニが1匹ずつ入っている。いつ脱皮するかわからないから毎日、チェック。根気のいる仕事。

Scene09

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

これが脱皮直後のカニ。まだ柔らかい。このまま冷凍されたカニは、タイや韓国、そして量こそ多くないが、日本にも輸出されているという。かつてこのあたりでは、ブラックタイガーというエビの養殖が盛んだった。しかしエビは病気に弱く、カニに方向転換。これで村の暮らしは少しだけ豊かになったというが。

Scene10

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

チョドリパラ村のチャンプルー寺では、毎日、ラカイン語の授業が開かれていた。まさに寺子屋。先生は僧侶だ。バングラデシュはベンガル語の国。村の学校ではベンガル語を習う。しかし彼らはラカイン人。民族の言葉を引き継ごうとしている。しかし子供たちの集中力は……。ラカイン人の将来がちょっと心配。

Scene11

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

村でいちばんの産業は金細工。村には10軒以上の工房がある。男たちの仕事だ。ベンガル人の女性がやってきて、ネックレスや指輪などをオーダーしていく。イスラム系の装飾品だから、基本的に派手で細かなデザインのものが多い。その作業は精密だった。ラカイン族という少数民族は、多数派のベンガル人に寄り添っていかないと生きていけない。これが現実。

Scene12

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

晩酌仲間のおじさん。僕らが借りた家の近くに住んでいた。もう孫がいる年齢。彼は以前、カツラの毛を集める仕事をしていた。髪の毛の長い女性から髪の毛を買い、長さをそろえ、ミャンマーに輸出。それが中国に送られ、カツラになり、日本にも。日本人がかぶるカツラの中には、バングラデシュ南部からのものがあると知った。感慨深い話ですな。

Scene13

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僕らの世話をしてくれたチョーバーシンさん一家。奥さんと3人の娘さんたち。本当に助かりました。長女と次女は大学生。両親の心配は娘さんたちの将来。イスラム教徒との結婚は娘さんたちに改宗を強いてしまう。それはラカイン人には許されないという不文律が横たわっている。イスラム社会の中で暮らす少数派の仏教徒たちの宿命だ。

Scene14

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

チョドリパラ村を離れ、コックスバザールへ。そこから飛行機でダッカに向かう。村から離れるにつれ、現実社会に戻っていく感覚はさみしい。乗客の半分近くが、難民キャンプで働く援助団体のスタッフだった。そんな需要を受け、コックスバザール空港の国際空港化が進んでいるようにみえた。これって発展? 悩みながら飛行機に乗った。

Scene15

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

ダッカに到着。やはり飛行機は早い。空港内の食堂は高いので、敷地の外に出た。大通りを越えようと歩道橋まで行くと、エスカレーターが動いていた。バングラデシュ経済は成長の軌道に乗ったかのようだ。チョドリパラ村を思う。いま頃、皆で集まって、もち寄った焼酎を飲んでいるのだろうか。

【次号予告】次回から台湾の超秘湯の旅がはじまります。

※取材期間:2019年2月14日~2月26日
※価格等はすべて取材時のものです。

■下川さんによるクラウドファンディング
「バングラデシュの小学校校舎の修繕プロジェクト」はこちら

 

■下川裕治インタビュー

#01 「読者が僕に求めているのはつらい目に遭うことだから……」

#02 相棒も共感できない特殊能力や癖とは?

#03 旅の一番のピンチ、それでも続ける原動力とは?

BOOK

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。
7月5日発売予定。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 阿部稔哉

    1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編4

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台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

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