永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(11) この男女、始まり?終わり? 永瀬正敏が撮ったカンヌ

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。国際映画祭で訪れた南仏カンヌで撮ったこの男女。始まり? それとも終わり? 

(11) この男女、始まり?終わり? 永瀬正敏が撮ったカンヌ

© Masatoshi Nagase

ただ道を聞いているわけではないだろう。ここから何かが始まりそうであるし、映画の場面のようでもある。フランスのカンヌ国際映画祭に、僕も出演した河瀨直美監督の『光』が出品された2017年、僕らの作品関係者が控室のように使っていた部屋から撮った。

公式上映だったか記者会見だったかを待っている間、ぼうっと街行く人を見ていた時のことだった。映画祭に出かけると、24時間映画漬けの毎日になる。そんな中でも、まるでドキュメンタリーのような場面に遭遇することはあって、思わずカメラを取り出してしまう。

2人の表情は、ほとんど写っていない。だからこそ、どういう関係なのか、ここからどう物語が展開していくのか、いろいろ想像できる。映画にたとえるなら、ファーストシーンという感じもするし、ラストシーンという感じもする。

ある写真家の方に、「前後を想像できるのがいい写真だ」と教わったことがある。映画でも僕は、この後どうなるんだろう、と考えさせられる作品は好きだ。すべてを完結させない、不完全の美学を持ったものが。

バックナンバー

>> 連載一覧へ

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(10) 緒形拳さんを思い出した 永瀬正敏が撮った雪と漁船

一覧へ戻る

(12) 「眠れない街」に放っておかれて 永瀬正敏が撮ったカンヌ 

RECOMMENDおすすめの記事