魅せられて 必見のヨーロッパ

美しい街に残る東ドイツ時代の遺産 壁と自由 ドイツ・エアフルト

美しい街に残る東ドイツ時代の遺産 壁と自由 ドイツ・エアフルト

クレーマー橋。橋の上の木骨組の家々は、住居やお店になっています

ドイツ・チューリンゲン州の州都、エアフルト。橋の上が住居やお店となっているクレーマー橋の周辺は、地元の人々の憩いの場になっており、観光客にも人気のスポットです。

美しい街に残る東ドイツ時代の遺産 壁と自由 ドイツ・エアフルト

聖マリア大聖堂とセヴェリ教会

堂々とした聖マリア大聖堂とセヴェリ教会。街には25の教区教会、15の修道院、10もの礼拝堂の塔がそびえ、マルティン・ルターが「塔多きエアフルト」とたたえたとされます。

この平和で美しい旧市街に「アンドレアス通りの記念館と教育館」があります。旧東ドイツ時代の負の歴史を今に伝え、未来に警告を発するために基金を立ち上げ運営されています。

美しい街に残る東ドイツ時代の遺産 壁と自由 ドイツ・エアフルト

「アンドレアス通りの記念館と教育館」

旧東ドイツ時代(社会主義時代)、国家保安省を人々はシュタージと呼んで恐れていました。市民は言論の自由はもちろん、反体制的と疑われるような行為、反体制的とされる人との接触、政治的な意味合いを持つ発言など様々な面から24時間体制で厳しく監視されました。さらに、市民間でもお互いに監視させ、「シュタージ・アクテン」と通称される書類で疑わしい行為などを密告させました。家族や隣人さえも信用できない事もあり、まさに「壁に耳あり、障子に目あり」。誰もが言動はもちろん、立ち話する相手にも注意を払わなければなりませんでした。

美しい街に残る東ドイツ時代の遺産 壁と自由 ドイツ・エアフルト

展示より。SEDとは、旧東ドイツの政党「ドイツ社会主義統一党」。事実上の一党独裁でした

「アンドレアス通りの記念館と教育館」には、当時の牢獄や資料が残り、誰でも見学して当時の状況を学ぶことができます。ドイツ国内から来た社会見学の生徒や、外国からの観光客が熱心に見学していました。

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「適合か、人としての個性か、そのはざまにある生きる道」。この言葉は私の心に響きました。自由と人間の尊厳を求めた者たちが1945年~1989年ここに収容された、と建物の外壁に書かれています

ボランティアで館内を案内している55歳の男性は、18歳の時ここに収容されたそうです。「自分でもわけがわからなかったが、思えば政治色のある本を書いた教師と個人的に何度か会ったことがあった。そのためでしょうね」と言います。「投獄されたと言えば、今の人は『えっ、人を殺したの?』と思うでしょう。でも当時は、嫌疑をかけられただけで即投獄ですよ」

美しい街に残る東ドイツ時代の遺産 壁と自由 ドイツ・エアフルト

独房などが並ぶ館内。案内の男性の説明によれば、監視員がドアにある小さな穴から昼は5~8分ごとに、夜間は20分ごとに、収容者に気づかれぬように監視し、盗聴もしていました

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「国外へ自由に旅する人間の権利を要求する!」と書かれています

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チューリンゲン州における「ドイツ社会主義統一党の独裁体制」についての展示

1989年のベルリンの壁崩直後、私はドレスデン、ワイマール、エアフルトなどの旧東ドイツ各地を、ツテを頼って住民の家に泊めてもらいながら回りました。新聞には「シュタージ・アクテン」を公開しろという市民の声と、社会主義者の名前がついたバス停や通りの名前を変更する膨大なリストが毎日掲載されました。統一後の生活がどう変わるのかわからないままの地元の人たちと共に、3週間近く動乱の中で暮らしたことはまたとない貴重な経験でした。

今、美しい街並みを眺めると胸にこみ上げるものがあります。旅とは、人生のかけがえのない一コマかもしれません。

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歴史を飲み込んで、美しい街並みが残る

「ドイツ歴史古都17都市 /Historic Highlights of Germany」
http://www.historicgermany.travel/ja/

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PROFILE

相原恭子(文・写真)

慶應大学卒業。ドイツ政府観光局勤務を経て、作家&写真家。「ドイツ地ビール夢の旅」(東京書籍)、「ドイツビールの愉しみ」(岩波書店)、「ベルギー美味しい旅」(小学館)、「京都 舞妓と芸妓の奥座敷」(文春新書)、「京都 花街ファッションの美と心」(淡交社)、英語の著書「Geisha – A living tradition」(フランス語、ハンガリー語、ポーランド語版も各国で刊行)など著書多数。国内はもちろん、国際交流基金・日本大使館の主催でスペイン、ハンガリー、エストニアで講演会や写真展多数。NHK「知る楽」「美の壺」、ラジオ深夜便「明日へのことば」「ないとエッセー」、ハンガリーTV2、エストニア国営放送など出演多数。
https://blog.goo.ne.jp/goethekyoko

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