にっぽんの逸品を訪ねて

千葉県の絶景スポット鋸山「地獄のぞき」「ラピュタの壁」、金谷を満喫する一日

日本各地の逸品を訪ね、それを育んだ町の歴史や風土を紹介する連載「にっぽんの逸品を訪ねて」。

今回は、千葉県の絶景スポット鋸山(のこぎりやま)を散策。金谷名物のアジフライとこだわりのコーヒー店などを巡ります。ぜひこの通りに旅をしていただきたい、おすすめのコースです。

鋸山とは?

空中に岩場がせり出した「地獄のぞき」(メイン写真)やそそり立つ「ラピュタの壁」など、圧倒的なスケールの景観で知られるのが、房総半島の海沿いにそびえる鋸山だ。壮大な岩場の風景は、江戸時代から昭和にかけて、建築資材の房州石が盛んに切り出されたことでできたという。

千葉県の絶景スポット鋸山「地獄のぞき」「ラピュタの壁」、金谷を満喫する一日

山上は迫力ある岩場の風景が続く

鋸山は、景観の美しさに加え、日本最大級といわれる石切り場跡や、切った石を運んだ「車力道(しゃりきみち)」など歴史的にも貴重な遺跡が残る。ふもとの富津(ふっつ)市と鋸南(きょなん)町は協力して、鋸山の日本遺産認定へ向けて活動を進めている。

日本の近代化を建築面から支えた絶景の山を訪ねた。

東京湾フェリーから鋸山の姿を望む

鋸山観光の拠点である富津市へは、神奈川県の久里浜港から東京湾フェリーで渡るのも便利だ。富津市の金谷港までは約40分。港に近づくにつれて、名前の通りノコギリの刃のようにギザギザとした山容がはっきりと見えてくる。

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金谷港と鋸山。かつては港から多くの房州石が船で出荷されていた

鋸山へは、今回は鋸山ロープウェーで上り、登山道の「車力道コース」を下る。

山へ上る前にぜひ立ち寄りたいのが、港の近くにある金谷美術館だ。石蔵を利用した別館では、房州石を運んだ車力道の歴史をビデオ映像で詳しく紹介。見ておくと山歩きが何倍も楽しくなる。

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“石と芸術のまち金谷”を紹介する金谷美術館

鋸山ロープウェーに乗れば山頂駅までわずか4分ほど。

山頂駅の構内には、房州石の展示コーナーがあり、切り出した石や石切りの道具、歴史、使用された建築物などを紹介している。加工がしやすく耐火性に優れた房州石は京浜地区で広く用いられ、早稲田大学の石塀や横浜市の外国人墓地、港の見える丘公園など数多く使用されていることが分かった。

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山頂駅にある房州石の展示コーナーは必見

山上に広がる日本寺の境内には、有名な「地獄のぞき」がある。近くの「百尺観音」周辺も昔は石切り場だった。岩壁に石を切り出した刃物の規則正しい削り跡が残り、それを覆うコケに長い年月を感じる。

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百尺観音付近から「地獄のぞき」を望む

日本寺の北口を出てしばらく山道を進むと高さ50メートルを超える石切り場跡がいくつも現れた。

「岩舞台」は旧芳家(よしけ)石材店の石切り場跡だ。芳家石材店は安政時代から「総元締め」とよばれた最も有力な石材業者だった。近くには、横に掘り進めた穴が窓のように見える「万忠丁場」もある。

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石切り場跡の「岩舞台」。左側の岩肌に「安全第一」の文字が彫ってある

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マンションのようにも見える「万忠丁場」

「岩舞台」には、かつて使用されていたショベルカーや、切った石をワイヤーケーブルを使って運び下ろした「索道」の跡も残り、活気にあふれた時代がしのばれる。房州石は江戸時代の横浜港開港に伴って護岸工事などに使用され、明治時代にはさらに需要が増えた。最盛期には住民の約8割が石に関する仕事に従事していたという。

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石切り場跡に残るショベルカー

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石を吊り下ろしたワイヤーケーブルの跡

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細い切り通しは「ズリ」とよばれた細かなくず石を横穴から運び出した道だという

1日3往復 女性たちが石を運んだ車力道

下山は車力道を歩いた。切り出した石を、かつて車力たちが「ねこ車(猫車)」という木製の手押し車で運んだ道だ。1本80キロほどもある房州石を山から運び下ろすのは大変な重労働だった。山上から丸太や石を使ってスベリ台のようにした樋道(といみち)で引き下ろし、中腹からは車力が運ぶ。車力は主に石切り職人の妻たちで、ねこ車に石を3本、合計約240キロをのせて日に3往復したそうだ。

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石を敷き詰めた車力道。風情がある

ねこ車の後部には、金具を付け、地面に擦り付けることでブレーキの役目をさせた。車力道には、ねこ車のわだちや金具が擦れたブレーキ痕が残り、石を運んだ女性たちの足跡を伝えている。時代とともに、樋道は索道に、車力はトロッコや自動車に変わったが、車力の仕事は昭和35年ころまで一部で続いていたという。

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わだちの深さが石の重さを物語る

昼食は金谷名物「黄金アジ」のアジフライ

下山後の楽しみは、金谷名物のアジフライだ。金谷沖のアジは肉厚で脂のりが良く、特別に「黄金(おうごん)アジ」とよばれる。メディアでも取り上げられ、アジフライの有名店は朝から行列ができるほどの人気ぶり。

並ばずにすむ穴場の名店が、金谷港の東京湾フェリー乗り場にある「波留菜(はるな)亭」だ。アジフライには、板前さんたち3人が自ら釣り上げる「釣りアジ」を使用した。座席数が多いので待つことはほとんどない。

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生け簀を備え、鮮魚料理も自慢の「波留菜亭」

「金谷のアジは特別です。隣りの浜に行っただけで味が違う。回遊ではなく根付きのアジなのでエサが豊富で脂ののりがいいのでしょう」とお店の方。

自慢のアジフライのおいしいこと。片手ほどの大きさがあり、ふっくらとした肉厚の身は肉質もきめ細やか。アジの脂とサクサクの衣がご飯によく合う。

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大ぶりのフライ2枚に上質な刺し身も付く「鯵フライ定食(1620円)」

地元の人が待ちわびたコーヒー店ついにオープン

食後は「香豆珈琲(kou’s coffee)」へ。カフェカーで販売していたころから金谷で大人気だったコーヒー店が満を持して店舗を構え、今年5月にオープンした。

ヨーロッパの田舎を思わせるかわいらしい建物は、築130年ほどの古民家を解体し、古材を活用して建築。内装工事などほとんどオーナー夫妻の手づくりだという。

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玄関前に古民家の礎石だった房州石が敷いてある

オーナーのこうさんは、会社勤めをしながら、もともと店舗を持たないコーヒーマスターとして活動していた。数年前たまたま鋸山ハイキングとともに訪れたこの町のカフェのマスターと意気投合し、コーヒーでの地域おこしの一端を担いたいと金谷に店を構えたという。

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やさしく対話するようにお湯を注ぐ

この日いただいた一杯はルワンダ。カウンターのこうさんは、自家焙煎の豆を挽き、丁寧に微粉(びふん)を取り除いて、ネルにゆっくりとお湯を注いでいく。

おいしい。これほどしっかりとした味わいとまろやかさを併せ持つコーヒーを飲んだのは初めて。旅の締めくくりに豊かな時間が過ごせた。

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味わい深い至福の一杯

【問い合わせ】

・金谷ステーション

・NATURE MUSEUMノコギリ山

・波留菜亭

・香豆珈琲‐kou’s coffee

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PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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