テーマは「80年代の伝説」イタリアの花祭りの山車にあの日本の人気者

ご夫婦でイタリア在住のライター、大矢麻里さんと大矢アキオさんが訪ねた“ルチニャーノの花祭り”をご紹介します。

壁に囲まれた楕円(だえん)形の小さな村で繰り広げられる、仮装行列や花で作られた山車など見どころいっぱいです。今年の山車は「1980年代の伝説」というテーマで作られました。おなじみのあれやこれも!?

ルチニャーノはここ!

イタリア中部アレッツォ県のルチニャーノ。雄大なキアーナ渓谷を望むこの地には、古代ローマ以前のエトルリア時代から人々が住んでいたとされる。今日約3500人が暮らすこの場所は、毎年5月に『マッジョラータ・ルチニャネーゼ』と呼ばれるイベントが開催されている。「maggiolata」とはイタリア語で5月の祭りのことだ。

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上空から撮影したルチニャーノ。楕円(だえん)形をした村は、14世紀のシエナ共和国統治下に建設された市壁に囲まれている。写真=Comune di Lucignano

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祭りの当日は、市壁の門でチケットを購入し、旧市街の会場へ入る。聖ジュスト門に今も掲げられたメディチ家の紋章は、シエナによる支配後のフィレンツェ統治時代を物語る

春を祝う仮装行列

祭りの始まりは第2次大戦前の1937年にさかのぼる。一帯では農業を生業とする人々が暮らしていた。地元の人によれば、標高約400mの丘の上にあるルチニャーノの冬は寒く厳しいものだという。長い冬がようやく過ぎ、木々が芽吹き、花ほころぶ春の到来に、農民たちが心を躍らせたことは想像に難くない。

彼らは農耕を開始できる喜びと一年の充実を願いながら、家畜の牛をリボンで飾り、トスカーナの野山に自生する黄色いエニシダの花で牛車を彩った。その傍らで歌ったり踊ったりしながら解放的に楽しんだのが、この祭りのルーツ。中世の衣装を身にまとった、仮装行列が行われる。

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ルチニャーノが位置するキアーナ渓谷は、ブランド牛「キアニーナ」を飼育する地域として知られる。かつて農民たちは、こうして家畜を飾って春の訪れを祝った

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キアニーナ牛を扱う地元精肉店のブルスキさん。トスカーナを代表する料理のひとつ、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナはキアニーナ牛をステーキにしたもの

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山車登場の前に行われる中世パレード。祭りの開始を告げる太鼓の音が街に響くと、一瞬にしていにしえにタイムスリップしたような錯覚に襲われる

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旗振りは、中世の戦闘において重要な情報伝達手段であった。その伝統を継いだ隊列が、太鼓に合わせてパフォーマンスを披露する

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仮装行列に参加した地元の人々。歩き方もあいさつの仕方も中世貴族のごとくエレガントに

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仮装行列は村をゆっくりと4周する。小さな子どもたちも神妙な面持ちで列に続く

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豪華な中世装束の制作や手入れも、地元の人々の大切な仕事だという

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毎年、防衛隊長役を務めるリーノさん(左)。今年は孫のゲラルドくんと共に行列に加わった

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フォークロア(民族調)スタイルに身を包んだ人々が、アコーディオンやギターの演奏に合わせて踊る

巨大な山車が主役、今年のテーマは「1980年代の伝説」

1984年からは巨大な山車が主役となった。毎年掲げられるテーマに沿って各町内会が工夫を凝らした張り子を作り、トラクターで牽引(けんいん)する。1997年からは、山車の出来栄えを競うコンテストも始められた。

第82回を迎えた2019年は、5月19日、6月2日と4日の計3日間で開催された。今年のテーマは「1980年代の伝説」。

参考までに、1987年までイタリアのGDP(国内総生産)は、日本を上回っていた(参照=OECD)。華やかな時代を、人々は今も誇らしげに記憶しているのだ。

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“ルチニャーノの花祭り”は、四つの町内会が制作した山車が街を練り歩く。2019年のテーマは「1980年代の伝説」とあって日本でおなじみのキャラクターも登場した

80年代の象徴として四つの町内会が選んだ山車は、6面立体パズル、イタリア民放テレビ局のバラエティー番組、さらに「スーパーマリオ」、カセット用携帯音楽プレイヤーとローラースケートなどをイメージさせるものであった。

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山車コンテストで優勝したポルタ・ムラータ町内会は、1980年代をあの6面立体パズルで表現した。張り子は無数のカーネーションで飾られている

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6面立体パズルの裏側には、同様に当時イタリアではやったゲーム「シャンガイ(またはミカド)」の棒も添えられた

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イタリア民放テレビ局による懐かしいバラエティー番組を題材にした山車。巨大ルーレットの脇には、これまた1980年代風レオタード姿の女性も

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同じく民放テレビ局が1980年代に放送していたコメディー番組のセット&出演者を再現

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「スーパーマリオ」をイメージさせる山車。ゲームファンには懐かしい電子メロディーと共に登場して会場を盛り上げた

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「SONY」と記載された、カセット用携帯音楽プレイヤーも登場。「ホンモノは見たことがありませんが、祖父母や両親から日本製品のすばらしさを聞いています」と語る若者も

ただし今日も張り子を飾るのは、牛車時代と同様に色とりどりの花々だ。近年では日持ちの良さからカーネーションが採用されている。その数は4町内会合わせてなんと10万本。最終日には、それらの花のすべてが観客に向かって次々と放り投げられるのが恒例だ。美しい季節を共に分かち合おうという思いが込められているという。

長雨にたたられた5月のイタリア半島だったが、花祭りの女神は、穏やかな太陽の光を連れてルチニャーノの丘に舞い降りた。

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花冠をかぶった少女。その姿はまさに春の妖精のごとく

(文:大矢麻里 Mari OYA/写真:大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、Comune di Lucignano)

※開催日は原則として毎年5月の最終日曜とその前週の日曜。加えて、夜祭りの日が設定されている(天候などによる変更あり)。

インフォメーション: Maggiolata Lucignanese
取材協力:Comune di Lucignano

PROFILE

  • 大矢麻里

    イタリアコラムニスト。東京生まれ。短大卒業後、幼稚園教諭、大手総合商社勤務を経て1996年からトスカーナ州シエナ在住。現地料理学校での通訳・アシスタント経験をもとに執筆活動を開始。NHKテキスト『まいにちイタリア語』など連載多数。NHK『マイあさラジオ』をはじめラジオでも活躍中。著書に『イタリアの小さな工房めぐり』(新潮社)、『意大利工坊』(馬云雷訳 華中科技大学出版社)、『ガイドブックでは分からない 現地発!イタリア「街グルメ」美味しい話』(世界文化社)がある。

  • 大矢アキオ

    イタリア文化コメンテーター。東京生まれ、国立音大卒(ヴァイオリン専攻)。二玄社『SUPER CAR GRAPHIC』編集記者を経て独立、イタリア・シエナに渡る。雑誌、webに連載多数。実際の生活者ならではの視点によるライフスタイル、クルマ、デザインに関する語り口には、根強いファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』レギュラーレポーター。訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、著書に『イタリア発シアワセの秘密』(二玄社)など。

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