クリックディープ旅

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。1回目は、台湾桃園国際空港から清泉温泉北埔(ベイプー)冷泉を目指します。はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

台湾は温泉天国?

台湾は、通常の温泉、冷泉、河原に出現した野渓温泉とその種類も豊か。通常の温泉も、日本式に裸になって入るものと、水着着用に分かれる。これまでもいくつかの温泉に入ってきたが、それはほんの入り口。先には超のつくような秘湯が、谷の奥や山中に隠れるようにあるのだという。

そう教えてくれたのは、台湾在住の日本人、廣橋(ひろはし)賢蔵さん。彼は、台湾の全温泉につかることをめざしている温泉フリーク。彼の温泉旅につきあいつつ、台湾の超秘湯をめざすことになった。それは想像以上に過酷な温泉旅。天国どころか、温泉地獄? まずは台北近郊の秘湯に向かった。

今回の旅のデータ

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

台湾桃園国際空港→清泉温泉→北埔冷泉

日本と台湾の間はLCCが充実している。日本のピーチ・アビエーションバニラ・エア、台湾のタイガーエア台湾、シンガポールのスクートなどが就航。片道1万円を切る運賃が打ち出されている。便数も多く、時間帯の選択肢も多い。

羽田空港を早朝に発つタイガーエア台湾を利用した。台湾桃園国際空港には8時台に着く。その日を有効に使うことができるが、羽田空港で夜明かしというか、仮眠。体はつらい。

長編動画

台湾桃園国際空港から高速道路を南下。深い山に向かっていく。車のフロントからの眺めを。

短編動画

ここから先は車道がない、といわれる谷の奥にある清泉温泉へ。足湯では先住民の人たちが昼から酒を飲んでいた。

台北から北埔冷泉へ「旅のフォト物語」

Scene01

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

台湾の温泉通の廣橋さんが、台湾桃園国際空港に車で出迎え。いつもは列車やバスを乗り継ぐ旅だが、今回はそういうわけにはいかない。路線バスすら通っていないところも多い。乗ってみてわかったが、廣橋さんの運転は台湾流。つまり荒い。20年以上無事故というのだが。

Scene02

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5月の台湾。梅雨に入りかけているようだった。空は厚い雲。今日向かう超秘湯は、正面の山を分け入った先。濃い緑の山にかかる雲が動いていく。「あのなかに温泉があるのか」。どんな世界なのか想像もできない。「関西服務區」というサービスエリアで朝食をとりながら、ただ刻々と動く雲を眺めていた。

Scene03

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

台湾の高速道路には料金所がない。フロントガラスに貼ってある、この小さな「eTag(イータグ)」と呼ばれるシールのようなものを、かつて料金所があったあたりに設置されたカメラで読みとり、チャージしたお金が引き落とされていく。日本のETCのはるか先を行っている? このシステムは2014年に世界初導入されたとか。

Scene04

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

サービスエリアにeTag入金カウンターがあった。料金所がないので、いったいどこが高速道路か一般道かの区別がつきにくい。道路にある程度詳しくないと、知らないうちに高速道路を走っていてチャージ切れ、ということも。そんなドライバーのために、このカウンター? 慣れない日本人の僕はそんなことを考える。

Scene05

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途中のガソリンスタンドで給油。「満タンにしておかないと危ないですから」と廣橋さん。なんでも秘湯エリアはガソリンスタンドがほとんどないのだという。いったい僕らは、どんな山奥に分け入っていくのだろうか。台湾の超秘湯旅は、なかなかハード。その意味をやがて嫌というほど味わうことになる。

Scene06

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高速道路を離れ、122号線に入っていく。上坪渓という川に沿った道を進んでいく。レンガづくりの家が並ぶ。聞くと客家の村だという。台湾の客家は、中国・福建省の山のなかに暮らしていた人が多い。台湾に移り住んでも、山の暮らし。

Scene07

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

上坪渓に沿った道をのぼっていく。山がしだいに近づいてくる。この道は、先にある標高3000メートルを超える山塊に阻まれる、行き止まり道。「秘湯はだいたい、行き止まりの終点近くにあるんですよ」と廣橋さんが説明してくれる。交通量も少ない。ガソリンスタンドがない理由がわかってくる。

Scene08

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

五峰という村についた。先住民族のサイシヤット族が住んでいるという。秘湯は先住民族エリアにある。これから僕らは、先住民族の村を渡り歩いていくことになる。村のなかを歩くと、「林代書」の看板。先住民族は漢字を書くことが苦手。代書という仕事が成り立つのだろう。

Scene09

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

ひとつ目の秘湯、清泉温泉についた。車道の終点に近い。秘湯というには立派な建物が川の向こうに見えた。「これが秘湯?」。「まずは初級者向け秘湯です」と廣橋さんの説明を受け、タオルを手につり橋を渡った。初級者向けといっても、今回の旅の初温泉。少し胸が高鳴ったのだが……。

Scene10

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

しかしシャッターは閉まっていた。貼り紙を見ると、改修中。6カ月後にはシャッターが開けられるようなのだが。秘湯旅は一発目から振られてしまった。しかし台湾の秘湯では、こんなことは珍しくないことをやがて教えられる。水害、地震、土砂崩れ……。険しい地形なのだ。隣にある将軍湯は?

Scene11

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

将軍湯は改修中の清泉温泉会館のすぐ近く。仕入れた情報では土砂崩れで閉鎖中とあったが……。行ってみると、こちらは足湯が開放されていた。しかし湯の調整がうまくいっていないのか、すごく熱い。じっと我慢の10秒。脇では先住民族が酒盛りをしていた。つまみは山の小動物を焼いたもの。ネズミに似ている。

Scene12

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将軍湯の由来は張学良西安事件を起こした張学良はその後、10年の禁錮刑に。釈放後も長い軟禁生活を強いられた。第2次大戦後の1949年に台湾に送られ、この温泉地に。正式に軟禁が解かれたのは1990年。足湯の先に彼が住んでいた建物が修復され張学良故居として開放されていた。まったくの日本風家屋だった。

Scene13

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

清泉温泉から曲がりくねった山道を1時間近く走り、北埔冷泉に寄った。冷泉というのは日本でいう鉱泉。日本では加熱して入浴することが多いが、暑い台湾はそのまま。プールに入るような感覚で浸りにくる。鉄分、イオウ分などを含んでいて、飲むと胃腸病に効くと案内板に。飲んでみました。味? ただの水でしたが。

Scene14

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北埔冷泉の色はやや緑っぽい灰色。悪くいえばドブのような色。とても入る気にはなれない。しかし全温泉に入ることめざす廣橋さんは根性が違います。水着姿になって、どぼんとつかる。温度は約15度。その冷たさをものともせずに肩まで。ついていけない……この旅を少し後悔した。

Scene15

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

北埔冷泉の底はぬるぬるしているという。これだけ濁っているのだから、いろいろなものがたまっているのだろう。「ほらッ」と廣橋さんがすくうと、鉄分がたっぷりとされる堆積(たいせき)物。これが体にいいといわれても、やはり入る気にはなれなかった。またしても温泉にはつからず、次をめざす。これが秘湯の旅? 温泉は次回でたっぷりと。

【次号予告】次回は北埔冷泉から泰安温泉への旅。

※取材期間:2019年5月8日
※価格等はすべて取材時のものです。

■下川さんによるクラウドファンディング
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BOOK

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。
7月5日発売予定。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

再び「12万円で世界を歩く」バングラデシュ編5

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