京都ゆるり休日さんぽ

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

今回は、6月末の「夏越の祓(なごしのはらえ/はらい)」に京都人が必ずといっていいほど食べる「水無月(みなづき)」と夏の意匠の和菓子を求めて、和菓子店「甘楽 花子(かんらく はなご)」を訪ねました。

京菓子の神髄を伝えたい、作り続けたい

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

ミニマルな表現が凝縮されたようかん。左下の「水藻の花」に使われているのは、なんと洋菓子やジャムなどによく用いられるルバーブ

元は喫茶店だったという洋の空間と、ショーケースにつつましく並ぶ上生菓子。一見、和菓子屋には見えない不思議な店構えながら、菓子皿の上の端正な上生菓子と美しい菓銘を眺めるとすぐに、実直で知的な菓子作りの姿勢が伝わってきます。「水無月」「あぢさひ」といった定番の菓銘から、「緑蔭(りょくいん)」「水藻の花」など詩のような名を冠したひと切れまで。そのどれもがシンプルで抽象的な意匠ながら、季節の一瞬を切り取ったかのようにはかない美しさを秘めています。

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

元喫茶店の空間に、「甘楽 花子」ののれんがかかる

「上生菓子は、京菓子の華。小さい世界に季節があり、古典や芸術を踏まえた物語もあるでしょう。それだけを作り続けたくて独立しました。和菓子離れが進むなか、洋菓子のように気軽に和菓子を食べてもらえたらと思って、店内で食べられるようにしたんです」

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

店主の内藤豪剛さん。お茶会はもちろん、文化人との交流も広く多方面から呼び声がかかる

そう語るのは、1人で店を切り盛りする内藤豪剛さん。京菓子の名店「京華堂利保」の次男に生まれ、独立して約17年になります。多くのスタッフや製造の工場を持つ和菓子店のイートインはたくさんありますが、全ての和菓子を1人で作りながら、注文ごとに抹茶をたて、接客も行うというスタイルはまれ。「お客さんとお話しするのが楽しいんです。和菓子というのは、どんなささいなことも生かせる世界。茶道、華道だけやなくて、映画や芸能、世間話でも、菓子作りのヒントになるんです」と内藤さん。文化人との交流、菓銘をひらめいた時の話や何度もダメ出しされた失敗談など、朗らかに話すさまざまなエピソードに引き込まれます。

6月の風物詩「水無月」と、涼やかな夏の和菓子

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

「水無月と抹茶のセット」(800円・税込み)。飲み物は煎茶も選べる

「甘楽 花子」の「水無月」は、(くず)を入れたういろう生地に、ちりばめるようにのせた小豆の粒感が魅力。やや薄めの歯切れの良い生地が、小豆の食感を上品に引き立てます。「水無月」の三角形は、その昔暑気払いとして宮中で食べられていた氷を模したもの。庶民には氷が手に入りにくく、代わりに氷をイメージした「水無月」を食べる風習が定着しました。「節分の恵方巻きみたいなもんです」と内藤さんは笑います。

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

「上生菓子と抹茶のセット」(800円・税込み)。抹茶は一保堂茶舗のもの

また、目にも涼しげな寒天菓子・錦玉(きんぎょく)は、夏ならではの意匠。そぼろ状のあんをまとったきんとんに代わり、透明にきらめく質感で夏の暑さをねぎらいます。3色の白あんを錦玉で包んだ梅雨の時期の「あぢさひ」をはじめ、盛夏晩夏と季節を写すようにさまざまな景色が表現されていきます。

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

愛用の製餡機。「40年やっていても、これ以上ないくらいの最高のあんが炊けたのは7回。日々勉強です」と語る

「甘楽 花子」の和菓子は、すべて自家製のあん。つぶあん、こしあん、しろあんと、すべてのあんを内藤さん自身が製餡機を動かし作ります。製餡所から生あんを仕入れる和菓子店が多いなか、季節や素材の状態を自身で見極め、あん作りから手掛けるのは途方もない手間ひま。けれど、すべての和菓子の基本となるあん作りに惜しみない手をかけることで、きめ細かで口どけのよい「花子」の味ができあがります。口の中でパサつかず、みずみずしく溶けていく味わいは、美しい見た目とともに心深くに余韻を残します。

一年の折り返し地点となる6月。「水無月」を食べて厄払いをし、残り半年の無病息災を願うその日をきっかけに、さらに奥深い和菓子の世界にぜひふれてみてください。そこには、日本の季節へのまなざしや風習、そしてそれを作る菓子職人の技術と知恵が凝らされています。色で、言葉で、食感で美しさを愛でながら、そのうえおいしいなんて最高ではないですか。(撮影:津久井珠美)

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

丸太町で長らく愛された店舗から2018年現在の場所に移転。再スタートを切った

甘楽 花子
075-741-8817
京都市左京区聖護院山王町16-21
10:00~19:00(日曜~18:00)
水曜定休、不定休あり

BOOK

6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。& TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1,200円。

 

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

その日仕入れた素材で朝8時開店 京都のレストラン「バルマーネ」

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京都で現代工芸作家のうつわとシングルオリジンの日本茶を

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