魅せられて 必見のヨーロッパ

独立戦争で虐殺の舞台に マスティハの産地 ギリシャ・ヒオス島を訪ねて

ツアーの行き先としてはあまりメジャーではないけれど、足を運べばとりこになってしまう。そんなヨーロッパの街を、ヨーロッパを知り尽くした作家・写真家の相原恭子さんが訪ねました。今回は、ドラクロアが描いた虐殺のあった島で、最古のガムとも呼ばれるマスティハの産地、ギリシャ・ヒオス島です。

トルコは目と鼻の先、佐渡島ほどの大きさ

ギリシャのアテネから50分ほどのフライトでヒオス島に到着。飛行機の窓からは、青い海とたくさんの島々がくっきりと美しく見えました。ヒオス島は、日本の佐渡島より少し小さい島です。港へ出ると、目の前にトルコアナトリア半島が影のように見えます。

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対岸はトルコ

ヒオス島からトルコのチェシュメまでフェリーが毎日出ており、所要時間は約30分。今は平和に両国間を観光客や地元の人たちが行き来していますが、ギリシャ独立戦争の際には悲劇の舞台となりました。

虐殺の記憶、今も残る

ギリシャの軍船がトルコ艦隊を撃沈し、トルコ軍はその報復として1822年、ヒオス島で虐殺を行いました。画家ドラクロアは「ヒオス島の虐殺」を描き、この地域への関心が薄かったヨーロッパ諸国でも反トルコ世論が高まっていきました。

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世界遺産に登録されているネア・モニ修道院

世界遺産に登録されているネア・モニ修道院の礼拝堂には虐殺の犠牲となった人々の遺骨が納められています。剣で刺されて穴のあいた頭蓋骨(ずがいこつ)もあり、虐殺の様子が生々しく伝わってきます。

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モザイクが施されたネア・モニ修道院内部

ネア・モニ修道院は11世紀に建てられ、建築も内部の装飾もビザンティン時代を代表するものとして美術史の観点からも評価されています。

不思議な風味 マスティハの産地を歩く

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(左)マスティハの木。流れ出る樹液が真珠の粒のように固まります(右)マスティハを使った清涼飲料水。爽快な味わいです

島を南下してメスタとピルギを散策しました。この二つの村はマスティハの産地として知られています。樹液にはさまざまな効能があるとされ、歯磨きやガム、化粧品などに製品化されています。村の小さな店では収穫したままの樹液の塊を売っています。ガムのようにかむのですが、スーッとする樹木の香りがあり不思議な味。何となくやみつきになって、かんでいると、胃や腸が殺菌されるような気がしてきます。

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中世の石造りの建物や要塞(ようさい)が残るメスタ

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人々がくつろぐメスタの広場のカフェ。涼しい風が吹き抜けます

メスタの広場にあるカフェで年配の夫妻に話しかけられました。ご主人は若い頃は船乗りで、その後55歳までニューヨークでギリシャレストランを経営していたそうです。私が横浜生まれだと言うと、「ヨコハマ! コウベ! 日本へも何度も行ったよ」と懐かしそうです。今はアテネに本宅、故郷のヒオス島に別宅を持ち毎月何回か行き来すると言います。そうしたぜいたくな生活をしている人は島には何人もいるそうです。

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地元の人おすすめの、甘いシロップがかかっている揚げ菓子。暑い日には、この甘さが快く感じます

「今は気楽だ。母も安心して喜んでいるよ」と、ご主人は黒い服を着たお母さんを指さしました。80代以上の女性たちは、夫を亡くすとずっと喪に服するという伝統を守っているそうです。

小さな島を出て世界を股にかけ、老後はまた故郷でのどかな生活。奥様は「今は満足してるわ」と微笑みます。ヒオス島で横浜港の話をするとは、世界は狭いです。

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ピルギには、クシスタと呼ばれる幾何学模様を施された家々が並んでいます

路線バスに乗って、島の北の方へ行ってみました。ひっそりとした砂浜や、岩山の間の小さな集落を車窓から眺めながら、日ごろのストレスはどこへやら。心が穏やかになっていくのを感じました。

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観光客とは無縁の小さな海岸

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小さな港も見つけた

ヒオス地域観光局(外国語サイト)
https://www.chios.gr/en/

ネア・モニ修道院(外国語サイト)
http://www.neamoni.gr/

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PROFILE

相原恭子(文・写真)

慶應大学卒業。ドイツ政府観光局勤務を経て、作家&写真家。「ドイツ地ビール夢の旅」(東京書籍)、「ドイツビールの愉しみ」(岩波書店)、「ベルギー美味しい旅」(小学館)、「京都 舞妓と芸妓の奥座敷」(文春新書)、「京都 花街ファッションの美と心」(淡交社)、英語の著書「Geisha – A living tradition」(フランス語、ハンガリー語、ポーランド語版も各国で刊行)など著書多数。国内はもちろん、国際交流基金・日本大使館の主催でスペイン、ハンガリー、エストニアで講演会や写真展多数。NHK「知る楽」「美の壺」、ラジオ深夜便「明日へのことば」「ないとエッセー」、ハンガリーTV2、エストニア国営放送など出演多数。
https://blog.goo.ne.jp/goethekyoko

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