にっぽんの逸品を訪ねて

ローカル線に乗って“名水と城のまち”久留里へ そばや古民家カフェをめぐる

日本各地の逸品を訪ね、それを育んだ町の歴史や風土を紹介する連載「にっぽんの逸品を訪ねて」。

今回は千葉県君津市の久留里(くるり)です。旧城下町には世界でもめずらしいという自噴する井戸が点在。名水を使ったそばやコーヒーを味わいながらのどかな歴史散歩が楽しめます。

戦国時代を今に伝える町のシンボル「久留里城」

「久しく留まりたい里」と書く久留里。房総半島の中央部にあるこの町を訪れるなら、ぜひ乗車したいのが久留里線だ。1912(大正元)年に県営鉄道として開業してから100年以上の歴史がある。住宅街や田園風景を抜けてのんびりと進むディーゼルカーは、心豊かな旅の一日を期待させる。木更津駅から約45分で久留里駅に到着する。

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“のんびり旅”を演出してくれる久留里線

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小さな駅舎もかわいらしい

最初に向かったのは町のシンボルともいえる久留里城だ。久留里駅から約2キロメートル離れた高台に本丸跡がある。小櫃(おびつ)川を見下ろす丘陵地一帯がかつては山城であり、戦国時代は、滝沢馬琴が記した『南総里見八犬伝』で有名な里見氏の居城だった。現在は、本丸跡の隣に観光シンボルとして模擬の天守閣が、二の丸跡には久留里城址資料館が建っている。

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本丸跡に建つ模擬の天守閣

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二の丸跡からはかつての城内が見晴らせる

資料館の展示も充実している。模型を見ると久留里城が天然の要塞(ようさい)であることがよくわかる。

「里見氏は、当時、関東一円に勢力を伸ばしていた北条氏と懸命に戦っていました」と、学芸員の方が説明してくれた。城跡には、戦いに備えた工夫が各所に残り、戦国時代の面影を伝える貴重な山城として多くの城ファンが訪れているという。

里見氏ののちは大須賀氏土屋氏黒田氏と城主が変わり、城は明治維新まで存続した。

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甲冑(かっちゅう)や古文書など見ごたえがある展示室

久留里の名水が「生きた水」と言われるのは?

久留里駅に戻って、ボランティアガイドさんと旧城下町を歩いた。

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この日案内してくださった田畑典子さん。ボランティアガイドの詳細は久留里観光交流センターへ

「普通の井戸は水をくみ上げるでしょう? けれど、久留里の名水は地下水が温泉のように噴きあがって自然に流れ出ます」とガイドさん。地下水の自噴は世界でもめずらしく、地形の影響と考えられているという。

久留里には、文政年間(1818年~1830年)にこの地方で開発された「上総(かずさ)掘り」とよばれる方式で掘った自噴井戸が点在するという。

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久留里の井戸は水が流れ出てくる

実際、町なかには数多くの井戸が見られた。井戸ごとに水の味や匂いが異なる。久留里の名水は溶融成分が多い軟水で、微生物も含むので時間によって味が変化することもある。そのため「生きた水」ともよばれる。

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味の違いを試してみよう

久留里街道沿いには、歴史のある商店が並んでいた。ガイドさんによれば「久留里は内房外房の中間地にある交通の要所として、また城下を流れる小櫃(おびつ)川の舟運でも古くから栄えてきました」。小櫃川の河岸から舟に積んだ木材や炭、酒などは木更津港まで運ばれ、回船で広く出荷されていった。鉄道ができてからも輸送力のある町として発展した。

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街道沿いには目を引く古建築が多い

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風情ある旧城下町の町並み

由緒ある寺社も久留里の長い歴史を伝えている。

鎌倉時代創建と伝わる正源寺は里見氏とゆかりが深く、境内には里見家代々の戦勝祈願仏であった「加勢観世音菩薩(かせいかんぜおんぼさつ)」を安置した観音堂もある。

真勝寺は、里見氏以前に久留里城主だった勝真勝(すぐろまさかつ)が開基したと伝わっている。勝真勝が武田一族だったため、お堂の破風武田菱の文様があり、周りにはみごとな彫刻が施されている。

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荘厳な趣が漂う真勝寺

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真勝寺にある看板

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武田菱の上の透かし彫りの龍が見ごと

名水をこだわりのそばで味わう「安万支」

昼食は久留里街道に面したそば屋「安万支(あまき)」へ。酒蔵の経営者だったご主人は「酒とそばが好き」で食べ歩いたが、なかなか気に入ったそばに出会えず、ついには自分で打って商うようになった。

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店名の「安万支」は久留里以前のこの地方の地名だという

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「天せいろ」(1450円)

二八そばだというが、まるで十割そばのような豊かな香り。そしてコシが強く、のど越しもいい。そば打ちには久留里の名水をアルカリ性にして用い、そば粉は北海道と山形、茨城県産をブレンドしている。

つゆのおいしさにも驚く。だしに使うカツオ節は自ら削り、しょうゆもまろやかな再仕込みしょうゆを使用。天ぷらは自家製の薄い衣がエビや野菜の味を引き立て、極細に切った薬味のネギや締めのそば湯まで、細心の心配りが行き届く。「おいしい」を追求した一膳だ。

名水で仕込む県内最古の酒蔵「吉崎酒造」

名水の里らしく、久留里周辺には狭い範囲に5軒もの酒蔵がある。その1軒である吉崎酒造は1624(寛永元)年創業の酒蔵だ。

「城下町という大消費地だった久留里では、江戸時代から酒もたくさん造られ、小櫃川の舟運で各地にも出荷されました」。そう話してくださったのは、17代目の吉崎明夫さんだ。

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明治時代建築の仕込み蔵とハイカラな洋館が並ぶ

特別に敷地内を見せていただくと、煙突の向こうに明治時代に建築した2棟の蔵が並んでいる。当時の最新の建築工法で造られたもので、今も日本酒の醸造が行われている。向かって左側の洋館は昭和初期の建築で、窓枠はヨーロッパからの輸入品だという。

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常滑焼(とこなめやき)の土管2本が、上総掘りの井戸。この高さまで噴きあがってくる

敷地内には、井戸が3本あり、うち2本が上総掘りだ。自噴井戸なので、一度高く水が噴きあがり、そこから管で蔵内に分配。酒造りや道具を洗うのに使用している。

久留里の名水で仕込む酒は口当たりがやわらかく、やさしい味わいだという。

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夏にぴったりの「吉壽(きちじゅ)」の発泡清酒やめずらしい竹酒も販売

旅館を改装した趣のある古民家カフェ

町歩きの最後に立ち寄ったのが、久留里町家珈琲(コーヒー)。かつての旅館をリノベーションしたカフェで、コーヒーや手づくりのお菓子、ナポリタンスパゲティが味わえる。自家焙煎(ばいせん)した豆を使い、丁寧にハンドドリップしたコーヒーは、香り高くふくよかな味わいだ。

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レトロなタイル張りの流しやステンドグラスがある店内の見学も楽しい

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店主の真室武士さんが丁寧にドリップ

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この日の一杯は果実のような華やかな味わいのグアテマラ。手作りラスクとともに

【問い合わせ】

久留里観光交流センター
http://www.city-kimitsu.jp/kanko/spot/manabu/annai-kururi.html

久留里城・久留里城址資料館
https://www.city.kimitsu.lg.jp/site/kanko/2189.html

安万支
電話0439-27-2878
11:30~15:00(売り切れ時終了)/木曜休

久留里町家珈琲
https://www.facebook.com/machiyacoffee/

吉崎酒造株式会社
http://kichiju-gekka.com/

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PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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