クリックディープ旅

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去「12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。2回目は、北埔(ベイプー)冷泉から虎山温泉、泰安温泉を目指します。

はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「台北から北埔冷泉へ、台湾の超秘湯旅1」はこちら】

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

秘湯は車道の行き止まりにある?

前回訪ねた温泉宿は改装中、立ち寄った冷泉はドブのような色で入浴する気になれなかった。台湾の秘湯をめざす旅は、なかなか温泉につかれない……。

今回は、まず北埔冷泉から北埔へ。そこから南下し、汶水渓(ウェンシュイシー)という川に沿った道に入っていく。中州にある虎山温泉でようやく温泉につかり、さらに上流へのぼっていく。もうこれ以上、車が進入できない行き止まりまで辿(たど)り着くと、目の前に温泉の建物が現れた。

先住民が暮らす一帯。そして行き止まりの道。これが台湾の秘湯のキーワードであることを教えられる。しかしこの建物、どこかで見たような気がする……。そこに日本が姿を見せていた。

今回の旅のデータ

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

北埔冷泉→泰安温泉

台湾の道路は、鉄道同様、幹線は南北にのびている。しかし秘湯はその沿線にはない。その道が長い橋を渡る手前や、渡り終えたところから、川に沿った道を山に向けて進んでいくことになる。

そして次の秘湯に行くときは、いったん幹線に出なくてはならない。川に沿った道の多くは、その先にある3000メートルを超える山に阻まれ、行き止まりになってしまうからだ。秘湯をめぐる旅は効率が悪い。

長編動画


北埔から苗栗県を南北にのびる道を南下していく。その風景を車のフロントから。弱い雨が降り続いていた。

短編動画


泰安温泉にある「警光山荘」。入り口から浴室まで。なんだか日本の温泉の浴室に向かうときのような気分に。

北埔冷泉から泰安温泉へ「旅のフォト物語」

Scene01

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

北埔冷泉から山道をくだり、北埔に出た。6年ほど前、北埔を訪ねたことがあった。竹東からバスに揺られた。山のなかの客家の村というイメージだったが、こうして山からくだると立派な街に映る。いやその間に人気の観光地として発展したらしい。増えた土産物屋や集団でやってきた小学生がそう教えてくれる。

Scene02

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

北埔で遅い昼食。通りに面した客家料理店に。男の店員が注文を受けたかと思うと、さっときびすを返して厨房(ちゅうぼう)に入り、テーブルに並んだのがこれ。手前の客家小炒と、平麺を炒めた客家板條。客家料理は素朴。悪くいうと質素。山の暮らしが生んだ料理だ。なぜかこういう料理は飽きない。料理のひとつの定理?

Scene03

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

南下を開始する。今晩は泰安温泉に泊まるつもりだった。「この虎山温泉って、川の中州にある?」、途中で休んだ獅潭郷のとある廟(びょう)で、グーグルマップを見ていた旅の同行者、温泉フリークの廣橋(ひろはし)さんが声をあげた。泰安温泉の一部にも見えるが……。台湾の全温泉につかるという彼の制覇魂が刺激されてしまった? 中州の温泉? 水害が怖くない? フリークは聞く耳をもたない。

Scene04

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

本当に中州だった。虎山温泉に行くには、汶水渓という川に架かるこのつり橋を渡らなくてはならない。不思議な地形だった。川の中央に小山がある。温泉はそこにあった。上空から見れば確かに中州。揺れるつり橋を渡ると、そこには秘湯とは思えないこぎれいな温泉宿が建っていた。

Scene05

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

このフロントで聞くと、虎山温泉は泰安温泉とは違う源泉で独立した温泉だ、と主張する。このあたりが難しいところだが、今日は疲れた。ほとんど徹夜状態で秘湯をめざしたが、閉鎖、そして一見、泥水のような冷泉……。今晩は温泉に入って、ビールを飲んで──。結局、この日は僕への「いたわり泊」に落ち着いた。

Scene06

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

いや、温泉はいいです。入り口に炭酸泉と書かれていた湯は、さらさらとしているが、しっかり体に熱が伝わってくる。部屋にも風呂があったが、やはり大浴場じゃなくちゃ。その外には露天風呂もつくられていた。日本の温泉宿を意識したわけではないだろうが。

Scene07

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

この日の宿代は夕飯と朝飯がついて、ひとり1333元、約4666円。スタイルは違うが、日本の温泉宿と比べるとだいぶ安い。で、夕飯を食べに食堂に行くと、客は僕らだけ。聞くと、夕食をつけると高くなるため、近くの食堂へいくか、コンビニで弁当などを買って部屋で食べるのだとか。台湾人は温泉にきても財布のひもは緩まないらしい。

Scene08

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

翌朝、レストランに入ると、こんなに泊まり客がいたのか……と思うほど混みあっていた。朝食はおかゆのバイキング。これは中田カメラマンのチョイス。色味まで考えているところは、やはりカメラマン。具はキノコ、卵、ゴボウ……。台湾式の山の幸料理ということだろうか。新鮮な味だった。

Scene09

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

虎山温泉から上流に向かう。途中の温泉宿の壁に、先住民族が描かれていた。この一帯はタイヤル族が多いところだという。前日の将軍湯を思い出す。足湯の周りで酒を飲んでいたのは先住民族だった。台湾で秘湯をめざす。それは先住民の世界に入ること。しかしこの温泉郷では、この先に日本が待っていた。

Scene10

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

台湾は猫が多い。アジアのなかでいちばん多いエリアではないかと思う。ほとんどが飼われているのだが、自由に家に出入りできる状態の猫が多いから、勝手に温泉地帯で暮らしている感が伝わってくる。暑いせいか、日本の猫以上にだれている? この猫の顔を見ると、たしかに……。

Scene11

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

急な坂道をぐんぐんのぼっていく。廣橋さんの車はパワーがある。グーグルマップでは、もうこの先に道はない……というあたりで泰安温泉の案内? 虎山温泉の上流に何軒もの温泉宿が連なっていて、泰安温泉と表示されていた。まだ先に? そこで「日本」に出合うことになる。

Scene12

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

日本の温泉宿? それも歴史のある老舗旅館……。そんな思いで見あげてしまった。近づくと泰安警光山荘という看板があった。台湾を統治した日本は、日本人の警察官の保養所として温泉宿をつくっていった。太平洋戦争終結後、台湾の警察がそれを引き継いで警光山荘に。ここは誰でも入浴できる共同浴場になっていた。

Scene13

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

館内も日本風だった。当時の建物を修理しつつ使っているのだろう。おそらく左右にあったのは宴会場。通路の奥に、「男湯」「女湯」という文字が見えた。これも日本風。ということは、裸になって入る日本スタイルかもしれない。入浴料は100元、約350円だった。台湾ではかなり安い料金であることを後から知ることになる。

Scene14

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

通路に沿った壁には、日本統治時代の写真が何枚も展示してあった。日本は谷に沿っていくつもの警察の駐在所をつくっていった。その地図もあった。日向駐在所、モギリ駐在所……。日本に反発する先住民を監視するためだった。警察官の柔道大会も開かれた。その記念写真も掲げられていた。

Scene15

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

温泉は完全に日本風だった。皆、裸。しかし僕ら以外全員が地元の台湾人だった。浴室は別のところにもあったらしい。そんな話で住民は盛りあがる。中年男性が多かったが、日本の統治時代は知らない。もちろん僕らが日本人であることはわかっている。お湯はかなり熱かった。それも日本時代から?

【次号予告】次回は泰安温泉から廬山(ろざん)温泉への旅。

※取材期間:2019年5月8日~9日
※価格等はすべて取材時のものです。

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

■下川さんによるクラウドファンディング
「バングラデシュの小学校校舎の修繕プロジェクト」はこちら

 

BOOK

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。
7月5日発売予定。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

台北から北埔冷泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅1

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