クリックディープ旅

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。3回目は、泰安温泉から廬山(ろざん)温泉を目指します。はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「台北から北埔冷泉へ、台湾の超秘湯旅2」はこちら

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

台湾の温泉は一期一会

前回、泰安温泉の行き止まりにあった警光山荘で湯につかった。ここは日本の統治時代に建てられた温泉施設だった。今回は、ここから行きに通ってきた汶水渓(ウェンシュイシー)という川に沿った道をくだり、台中の秘湯をめざして南下していく。その途中にもいくつかの温泉があった。湯が湧きでていたら、「とりあえず入っていこう」というのりで南下していく。

台湾の温泉は地震や水害の影響で、温泉が枯渇したり、突然、湧出(ゆうしゅつ)したりすることもよくあるという。どうも台湾の温泉は一期一会の感がある。台中への道沿いにも、休業状態になった温泉が二つあった。そして台中から、再び山中に分け入っていく。

今回の旅のデータ

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

泰安温泉→廬山温泉

幹線道路に沿った温泉は、泊まり客より、日本の温泉ランドのように利用されることが多い。それぞれ、趣向を凝らした浴室や温泉プールをつくり、1日のんびりできる施設になっている。料金は350元、約1225円というところが多かった。

日本でいう「ご休憩」で使うカップルも多いらしい。そんな客向けなのか、ホテルのような個室も用意されている。部屋には温泉もある。食堂を充実させ、ビアガーデン風の施設をつくったところもある。台湾の温泉も客集めに苦労している。

長編動画

つり橋と渓流は、台湾の温泉地のお約束。廬山温泉のつり橋で1時間。それにしても人がすくないなぁ。その理由は「旅のフォト物語」で。

短編動画

廬山温泉の宿街にある食堂に入った。彼女がつくってくれたもの? 最後の写真で。

泰安温泉から廬山温泉へ「旅のフォト物語」

Scene01

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

台中への街道沿いにいくつかの温泉がある。そのなかの麒麟(きりん)峰温泉旅館に寄ってみることにした。台中から車で30分ほどの距離。日帰り利用が多い温泉だった。近くに日光温泉もある。「あそこよりうちの方が泉質がいい」と麒麟峰温泉旅館のオーナー。商売敵の悪口を必ずいうのは、台湾の温泉オーナーの特徴。

Scene02

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

温泉ランドのように利用されることが多いから、さまざまなタイプの浴室がある。屋外の温泉プール、個室、露天風呂スタイル……そのなかに必ずあるのが“日式”(=日本式)。裸で入ることができる温泉だ。見ていると、ここがいちばん人気。台湾人も裸入浴が好きらしい。僕も日式へ。温泉の温度は42度。少しぬるっとした泉質。

Scene03

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

台中手前にある道沿いの食堂で昼食。メインのおかずを1品注文すると、あとは定食のようにしてくれる庶民食堂。このあたりの名物だという鶏肉のカツを指さすと、野菜を4種類ほどとご飯とスープを添えてくれて70元、約245円。かなりのボリューム。鶏肉は脂身が多い。名物といっても安食堂になると味は……。

Scene04

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

台中をかすめるように進み、埔里(プーリー)に出た。埔里といえば紹興酒。その工場がある埔里酒廠(ジウチャン)の店に寄った。大陸からの中国人を乗せたバスが何台も止まっていた。ここで酒づくりが盛んになった理由は水がいいから。その水は台湾の中央の山から流れ下ってくる。その流れに沿って秘湯を求め、山に分け入っていくことになる。

Scene05

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

店の裏手に鳥居があった。見ると和服姿の女性たちが。わざわざ埔里まで和服でやってくる日本人女性? 違いました。この鳥居脇に和服のレンタルショップがあるのだという。そして鳥居をバックに、日本にいるかのような写真を撮ってインスタにアップ。台湾や韓国ではつい鳥居に神経を使ってしまう僕は、ちょっと複雑。

Scene06

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

埔里から眉渓(メイシー)に沿って山に向かっていくと、突然、埔里箱根。「これって温泉?」「箱根ですよ」。聞くと温泉だった。オーナーの息子の林原毅さんが説明してくれた。20年ほど前、地震の後で、温泉が湧出したのだという。いま周辺に温泉は3軒。ただ温泉としての名前はない。「埔里温泉にしましょう」。勝手な日本人だと林さんにあきれられた。

Scene07

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

「温泉となれば入らなくてはいけない」と今回の旅の案内人で温泉フリークの廣橋(ひろはし)さん。僕はそのつもりはないが、台湾の全温泉制覇を目指す彼につられて、やはりつかってしまう。前回紹介した泰安温泉と合わせ、今日、3回目の入湯。さすがに疲れた。気分を変えようと打たせ湯の下に立ってスイッチを入れると、とんでもない湯の圧力。台湾人はこういう湯が好きなの?

Scene08

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

一気に山をのぼっていく。頂に近いあたりに碑があった。霧社事件のものだった。日本統治時代、2回にわたって事件が起きた。1回目は日本に反発する先住民の一部が駐在所や学校の運動会を襲ったことがきっかけだった。134人の日本人が犠牲になった。日本軍や警察は鎮圧するが、1000人以上の先住民族が死亡したといわれる。

Scene09

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2回目の霧社事件は先住民同士の争いに発展してしまった。1回目の事件では、霧社公学校での運動会に参加していた人々が襲われた。和服を着た日本人が標的になった。先住民には首を狩る習慣があった。霧社の中心に記念公園がつくられていた。

Scene10

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霧社から廬山温泉をめざして坂道を下っていく。廬山温泉──。台湾中部では有名な温泉地だった。しかし2008年、台風による増水で多くの宿が水没。2012年、政府は廬山温泉の廃止を伝えた。しかし営業している宿もあるらしい。これも秘湯? はたして廬山温泉で温泉につかることはできるのだろうか。

Scene11

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廬山温泉はまだあった。政府は埔里近くに移転地をつくったが、深い山に囲まれた温泉の雰囲気は消えてしまう。移転を拒む宿も多いようだった。温泉街の入り口には客引きまでいた。「まだ200軒以上が残っている。廬山温泉はもうないっていうのは風評」。客引きのおじさんは声を荒らげるのだが。

Scene12

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しかし温泉街は寂しかった。人通りが圧倒的に少ない。土産物や食堂が連なる通りでは、猫が寝ていた。長編動画を見てほしい。温泉街の中心でもあるつり橋。朝とはいえ、渡る人もまばらなのだ。さて、今晩はどうしようか。泊めてくれる宿はそこにあるのだろうか。坂道を行ったり来たりするしかなかった。

Scene13

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

温泉街をゆっくり歩くと、やはり廃業した宿や食堂、土産物屋が次々に現れた。彼らはいったいどこへ行ったのだろう。政府が用意した土地には、まだ温泉街はできていないという。「向かいの宿は安いよ。なにしろこういう状態だからね」。食堂の中年女性が教えてくれた。泊まることができるってこと?

Scene14

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

結局、正揚大飯店という宿に。ひとり朝食付きで600元、約2100円。民宿並みの値段ではないか。「いや~、足元を見るようなことになってしまってすいません」と申し訳なさそうな顔をつくるが、心のなかでは、「やった!」と叫んでいた。貧乏派旅行者ですいません。と、いいながら、本日4回目の温泉は部屋で入った。

Scene15

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

「宿を教えてくれた女性の店に行かないとまずいんじゃない?」と中田カメラマンと廣橋さんに促して、閑古鳥が鳴く食堂へ。女性は待ち構えていました。彼女がつくってくれたのは炒山羌肉。山鹿肉の炒めものだった。これで200元、約700円。ほかに名物だという高原キャベツの炒め物。誰も客がいない静かな店内。秘湯旅はまだ続く。

【次号予告】次回は廬山温泉から梵梵野渓温泉への旅。

※取材期間:2019年5月9日~10日
※価格等はすべて取材時のものです。

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

■下川さんによるクラウドファンディング
「バングラデシュの小学校校舎の修繕プロジェクト」はこちら

 

BOOK

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。
7月5日発売予定。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

北埔冷泉から泰安温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅2

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