永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(15) 後光が差した、誰の像? 永瀬正敏が撮ったカンヌ

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。国際映画祭で訪れたカンヌで撮ったこの像、誰に見えますか?

(15) 後光が差した、誰の像? 永瀬正敏が撮ったカンヌ

© Masatoshi Nagase

僕はカメラを持っていると、つい歩いた時間を忘れてしまう。南フランスのカンヌを訪れた時、高台にある教会を目指して歩いていったら、まるで眼下の街並みを包み込むようにそびえ立つ聖母マリア像を見つけた。すると、絶妙なタイミングで雲間から光が差し、像を照らした。

ふつう、このような素晴らしい像は顔側を入れて撮るものだろうけれど、逆光のほうが、なぜか写真に思いがこもる気がした。頭部にかかる枝葉が気になり、重ならないアングルを探るうち、撮ろうとしているマリア像が、いばらの冠をかぶったキリスト像に見えてきた。

マリア像だけれどキリスト像にも見える。それを撮る、と思った瞬間、構図が固まった。横写真にすれば、もっと、眼下に広がる美しい街並みがしっかりと写り込むカットになるとわかっていたけれど、この時は、縦写真以外ありえなかった。

光に触発されたこの写真を撮った2年後、河瀨直美監督の映画『光』で、再びカンヌ国際映画祭に参加したことも、不思議な縁だった。映画の中では、僕の演じた写真家の部屋に飾ってある作品の中に、この1枚がさりげなく交ざっている。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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