クリックディープ旅

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。4回目は、廬山(ろざん)温泉から春陽温泉、梵梵野渓温泉を目指します。はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「泰安温泉から廬山温泉へ、台湾の超秘湯旅3」はこちら】

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

秘湯をめざして約3275メートルの峠を越える

水害に遭い、政府から廃止を伝えられた廬山温泉の朝は静かだった。源泉にも行ってみたのだが……。そこから温泉があるのか、ないのか、はっきりしない春陽温泉を目指す。

さらに、この日は、北東に向かい、中央山脈を越えていく。途中、台湾の国道のなかでは最も高い峠、武嶺(ウーリン)を越えていく。標高は約3275メートル。日本の北アルプスの最高峰、奥穂高岳より高い。そこから一気に茶畑の道をくだっていく。その先にある秘湯、梵梵野渓温泉まで辿(たど)り着けるのだろうか。

今回の旅のデータ

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

廬山温泉→梵梵野渓温泉

武嶺を通る道は国道14号線。峠を越えたところから8号線を進んだ。3000メートルを超えるルートだが、訪ねる人が多く、日本でいうドライブイン、ガソリンスタンドは適度にある。

この一帯は、合歓山へのトレッキングにやってくる人も多く、路線バスも運行している。通年、通行は可能だが、冬は道が凍ることがあり、チェーンが必要なこともあるという。途中、宿泊施設は少ない。宿は埔里(プーリー)や廬山温泉、峠を越えた梨山にはある。

長編動画

台湾の国道の最高地点、武嶺を越える前後の1時間を。山岳路は霧に包まれていたが、天気がよければ、気持ちのいいドライブルートのはず。

短編動画

春陽温泉でオーナーが浴槽に湯をためてくれた。周囲は農村。ひなびた秘湯。源泉は約94度の高温だという。

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ「旅のフォト物語」

Scene01

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

廬山温泉の朝。宿泊客も少なく、梅雨を思わせる雨のなかで、温泉街は静まり返っていた。以前、この温泉に泊まった人たちは、天然温泉頭といわれる源泉地帯まで歩き、そこで温泉の湯でゆでた卵を食べるのがお決まりだったとか。僕もそれに倣って、源泉地帯まで渓流沿いの道を進んでみたのだが……。そこで見たものは次の写真で。

Scene02

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

廃虚だった。天然煮蛋池、つまり卵をゆでる温泉。表示を見て階段をのぼってみたが、10段ほどで行き止まり。ここには入浴施設もあったようだが、そこも閉鎖。谷側には休憩所もあったが、そこはもう屋根が崩れ落ちていた。見てはいけないものに出くわしてしまったような世界が広がっていた。

Scene03

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

廬山温泉から春陽温泉をめざす。地図には温泉の名前があるのだが、その入り口がなかなかわからない。2008年の水害の後も、小規模な氾濫(はんらん)や土砂崩れが散発的に続いているようで、その工事区間の途中が春陽温泉への降り口だった。工事のおじさんに教えてもらった。はたして春陽温泉はあるのだろうか。

Scene04

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

急な坂道をくだると濁水渓という川に出た。増水した水が廬山温泉を襲った塔羅灣(タロワン)渓の下流である。橋を渡ると、河岸段丘のような土地に農地が広がり、家が点在している。温泉マークを掲げた民宿もある。「一個投資大自然&環境友善的快楽農夫」という看板があった。なんとなく意味がわかる。そこをのぞいてみた。

Scene05

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

出てきたのは農作業姿の呉国賓さん。彼が快楽農夫か……。彰化で花屋を営んでいるという。しかし店は家人に任せ、10年ほど前からここで有機栽培の農業をはじめたらしい。農作物はネットで販売している。農場の一部にキャンプ場もつくった。今年、温泉も……。「温泉?」。それを早くいってください。

Scene06

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

ここも春陽温泉だった。キャンプ場の反対側に浴槽があった。湯と水のふたつの栓を開けてくれる。源泉は約94度。水で冷やさないと入浴できない。ひと風呂200元、約700円。少し粘り気がある湯だった。廬山温泉より泉質はいいという。春陽温泉は政府から温泉の営業はできないという通知は受けていないそうだ。

Scene07

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

春陽温泉を後にし、霧社を経由して、武嶺に向かい山岳路をのぼる。標高約2050メートル。道沿いの雲南料理店が並んでいた。中国の雲南省からやってきた人たちの店だ。彼らの多くはミャンマーで生まれた。軍事政権を嫌って中国の雲南省に越境。そこから台湾に。その数は3万人近くにもなるという。その理由は次の写真で。

Scene08

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

なぜ彼らが台湾に? 背景にあるのはアジアの混乱だった。第2次大戦後、彼らは国民党とともにミャンマーへ。しかしミャンマーの情勢が悪化し、雲南省に戻る。台湾の情報を中国に流すことを条件に台湾への移住が許されたとも。雲南省と同じような気候を求めてこの一帯に暮らしはじめたとか。傣味米麺、雲南椒麻鶏……、雲南料理が並ぶ。

Scene09

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

台湾の国道の最高地点、武嶺に着いた。約3275メートル。車から降りると、10度を切る冷気に、思わずジャンパーを着こんだ。ここで休憩をしていたのは、マレーシアからやってきたサイクリスト。坂のぼり好き日本人は、自らを、「坂バカ」と呼ぶことがある。マレーシア人にも同じようなサイクリストがいるようだ。いったいどこからのぼってきたのかは知らないが、この標高、手応えありそう。

Scene10

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

雨があがり、霧も晴れてきた。すると茶畑の緑に包まれていた。武嶺からくだり、標高が2000メートルを切ったあたり。この一帯は梨山と呼ばれる。梨山高山茶は、標高の高いところでつくられる高山茶のトップブランドである。しかし茶畑の傾斜はきつい。かなりの重労働。若いベトナム人が汗を流して働いていた。

Scene11

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

斜面を覆う茶畑の道をくだりきり、平坦(へいたん)な道に出ると、今度はキャベツの淡い緑色が風景を染めはじめた。再び霧が出てきたが、見渡す限りのキャベツである。そこをすぎると、道は蘭陽(ランヤン)渓という川に沿うようになってきた。この風景になってから、なんだかにおってくるのだ。そう、温泉のにおい?

Scene12

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

見えてきました。温泉のマーク。蘭陽渓の支流、梵梵渓に沿った道に入ったところだった。英士社という集落の入り口だった。ここに梵梵野渓温泉があるという。集落の雑貨屋で道を聞いてみた。日本語のうまい中年女性が教えてくれる。近くまでいってみたが、日が暮れてしまった。温泉は明朝に。

Scene13

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

英士社に一軒の民宿があったが休業中。雑貨屋の女性が隣の集落の民宿に連絡をとってくれた。松羅社という、先住民・タイヤル族の集落。そこの村長さんが経営する巴杜の家民宿という宿だった。部屋に入ると広い会議室。部屋はその奥。なんだか無駄に広い応接間の奥にベッド。不思議なつくりの民宿はひとり600元、約2100円。

Scene14

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

村には一軒の食堂もなかった。道沿いに雑貨屋が一軒。反対側にドライバー向けの揚げ物屋があるという。そこで買った夕食。鶏のから揚げ、エビ味のスナック、ビールに即席麺……。山深い先住民村の民宿に泊まる旅がはじまることになる。秘湯旅は即席麺がお供ということか。

Scene15

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

英士社、そしてこの松羅社には、立派な教会があった。台湾の先住民はキリスト教徒が多い。第2次大戦後、欧米人の宣教師が村で布教活動を続けたためだという。そういえば、夕飯に買った鶏のから揚げは、アメリカ風だった。民宿の部屋にあった、あかすりにはなぜかロシア語。先住民の村で困惑。

【次号予告】次回は梵梵野渓温泉から嘎拉賀(ガラホ)野渓温泉への旅。

※取材期間:2019年5月10日
※価格等はすべて取材時のものです。

■下川さんによるクラウドファンディング
「バングラデシュの小学校校舎の修繕プロジェクト」はこちら

 

BOOK

廬山温泉から梵梵野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅4

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

泰安温泉から廬山温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅3

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