永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(16)永瀬正敏、女性に「撮って」と迫られた 南仏の街角で

(16)永瀬正敏、女性に「撮って」と迫られた 南仏の街角で

© Masatoshi Nagase

行かなければ出会えなかった、カメラを持っていなければ出会えなかった、そういう出会いを紡いでいきたいと、いつも思っている。この女性は、まさにそういう方だった。南フランスのカンヌで街並みを撮っていた時のことだ。

実は、背後に写っている2人の女性を撮ろうと狙っていた。すると、この女性がずっと向こうから近づいてきて、僕に話しかけ始めた。フランス語で内容はわからないけれど、とても気さくで、怒りや否定的なニュアンスはまったく感じない。「ねえ、撮ってくれる?」だと、僕には思えた。

撮影中に街で出会った方に、これほど歓迎されることは、ほとんどない。カメラを構えると、引き込まれるように彼女を撮り続けた。彼女が語りかけているのは僕だけじゃなく、この写真をご覧になっているそれぞれの方でもある、そんな仕上がりになった。

よく見るとピントが甘いけれど、それを超える何かが、この方の内側からにじみ出ている。撮られて喜んでいることも含めて。僕も撮りながら、思わずうれしくなってしまったのを思い出す。これは、僕の気に入っている作品のひとつでもある。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(15)後光が差した、誰の像? 永瀬正敏が撮ったカンヌ

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この人から目が離せなかった 永瀬正敏、カンヌの路地裏で

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