京都ゆるり休日さんぽ

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

7月の京都は祇園祭一色。宵山山鉾巡行と合わせて、この時期楽しみたいのがハモ料理です。祇園祭は別名「鱧(ハモ)祭」とも呼ばれるほど、夏の京都とハモは切ってもきれない関係。今回は、季節の味覚を一皿ひと皿に鮮やかに映す京料理店、「ごだん 宮ざわ」ののれんをくぐりました。

空間、しつらえ、季節を五感で感じる、京都の食文化

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

目の前で仕上がる料理を眺めながら食事を待つのも楽しみ。個室もあり

一枚板の見事なカウンターに、茶室を思わせる端正な網代天井。掛け軸の前の花には、夜露のような水滴がにじみます。一歩足を踏み入れると自然に背筋が伸びるような、凜(りん)とした空間に出迎えられる「ごだん 宮ざわ」は、正統にして「今」の感性にもフィットした京割烹(かっぽう)。京都の食通の間で知られる「じき 宮ざわ」の2号店として2014年にオープンし、たちまち人気店となりました。

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

祇園祭の幕開けとともに、盛夏、晩夏と季節に合わせたハモ料理が登場。椀(わん)ものは1万4580円(税込み・サービス料別)のコースから

京都で夏に料亭や割烹を訪ねれば、コースに必ず登場するのがハモの料理。「ごだん 宮ざわ」でも、夏の歩みと旬の野菜と対話するように、多彩な調理方法で供されます。この日は、ふわりと豆の青い香りが漂う「牡丹(ボタン)ハモのうすい豆すり流し」が。口の中でほろり、ほどけるようなハモの身にうすい豆(うすいえんどう)のさわやかな甘みがからみ、いつまでも余韻を残すひと椀です。

京都に魅了され、やがて京都を伝える人に

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

亭主の宮澤政人さん。現在は「じき 宮ざわ」を弟子に任せ、「ごだん」の板場に立つ

カウンターに立つのは、亭主の宮澤政人さん。神奈川で寿司(すし)割烹を営む家に生まれ、料理人修行をしながら、18歳の時たまたま訪れた京都でそこに息づく食文化に衝撃を受けたと話します。それ以来、恋い焦がれるかのように京都に通いつめたのだそう。

「祇園の街を見た瞬間、『僕は京都に来なければいけない』という衝動に駆られました。その後包丁一本で再び京都に向かい、料理屋さんの大将に『何でもします!』とお願いしたのですがばっさりと断られてしまって……(笑)。誰かの紹介があるとか、そういう信用が大事だと教わりました。いったん神奈川に戻って修行を続け、深夜バスにのって何度も京都を訪ねました。当時、高級料亭で食事をするようなお金もなかったので、祇園や先斗町の店先に出ている献立を必死にメモして……」

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

木工作家・佃眞吾氏の重箱には、酒器がぎっしり。好みの一客を選ぶことができる

それでも、京都が好きで吸収することすべてがおもしろく、全く苦にならなかったと言います。いつか京都で料理人になるという夢が宮澤さんを突き動かし、紹介者を得て、20歳で念願の京都で働きはじめました。京都ホテルオークラ「京料理  入舟」、茶懐石を専門とする「柿傳(かきでん)」などの名店を経て独立。

旬の素材をシンプルに味わうことを基本としながらも、季節を写しとるようなみずみずしい感性と、空間やうつわに漂う美意識、意外性やサプライズをひとさじ料理に組み込むセンスは、瞬く間に評判となりました。

相手を思う気持ちが料理のアイデアを生み出す

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

夜の食事は1万800円〜(税込み・サービス料別)。「からすみ蕎麦」はどのコースにも付く

名物の一つ、「からすみ蕎麦(そば)」は湯がいた蕎麦をかえしでサッとあえ、自家製のからすみをたっぷり削りかけたもの。目の前で削っていただけるので、からすみが黄色い花のように降り積もっていく様子を眺めるのも眼福です。

また「じき 宮ざわ」の定番「焼胡麻(ごま)豆腐」をアレンジした「焼とうもろこし豆腐」も、この店の夏のおすすめ料理。大粒のとうもろこしのてんぷら、山椒(さんしょう)のしょうゆ漬けがちりばめられ、とうもろこしの香ばしい風味を鮮やかに引き立てます。

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

名物の「焼胡麻豆腐」を「ごだん」では季節に合わせてアレンジ

奇をてらうことなく、シンプルに素材を生かしながらも驚きや感動がある。そんな料理の発想の源について、宮澤さんはこう話します。

「新しいものを作ろうと意気込んでしまうと、どこかあざとさが出る。ご縁があって作り手の思いのこもった食材を使わせていただけることになったとか、常連さんにこれを食べていただきたいとか、そういう自然な流れで思いついたものが結果的に喜んでいただける料理になっている気がします」

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

床の間に見立てたカウンター後ろの空間には、四季折々のしつらえが

京都に憧れ、京都の食文化と美意識を表現する担い手となった、宮澤さん。人気店の亭主となった今も、食材の生産者やうつわの作り手に対する敬意、おもてなしの心の根底には、若き日の宮澤さんが抱いたままの京都へのひたむきな敬愛が感じられます。京都を愛する料理人による、京都の夏の味覚。コースを食べ終えるころには、京都の食文化の奥深さと美しさに、こちらも魅了されるに違いありません。(撮影:津久井珠美)

ごだん 宮ざわ
http://www.jiki-miyazawa.com/godan-index.html

BOOK

季節と文化をひと皿に。京都の夏の味覚を楽しむ「ごだん 宮ざわ」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

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