鎌倉の風に吹かれて

「小説ともエッセーとも童話ともいえないもの」 芥川賞作家・大道珠貴さん、&TRAVELの新連載を語る

鎌倉在住の芥川賞作家・大道珠貴(だいどう・たまき)さんによる新連載「鎌倉の風に吹かれて」が、7月25日から始まります。鎌倉を舞台に旅や人間模様を描く各回読み切りの超短編小説と、写真家・猪俣博史さんの写真とのコラボレーションです。連載開始に先立ち、作品にかける思いを大道さんに聞きました。
(聞き手:&TRAVEL副編集長・星野学)

人間関係の変化、鎌倉で感じ続けて

――鎌倉にはいつからお住まいですか。

「2009年からなので、11年目に入りました。私は福岡市の出身で、鎌倉に縁はなかったけれど、あこがれの作家・川端康成さんゆかりの土地だったこともあって。今住んでいる家は古い空き家だったのですが、使われている木材がよくて味があるな、と思って決めました。下見に来た時は床が抜けていて雨漏りもひどかったのですが、リフォームして住んでいます」

――生活はいかがですか。

「ここに住むようになった頃から、いろいろな意味で、世の中や人々の考え方が変わったと感じます。最初の頃は、東京から編集者が来てくれて自宅で打ち合わせをしていたんですが、今は来ることもほとんどなくなりました。だいたいはメールでのやりとりですね。携帯電話を持ち始めてからみんなどんどん忙しくなり、出版社も人が減ってわざわざ鎌倉まで会いにくる時代じゃなくなって」

「あと、人の怖さが、昔と違ってきたと思います。濃密な人間関係にあった人が、急に消えてしまう怖さが出てきた。私たちのようなもの書きは、最終的には人情を書いている気がするんです。関係が断絶するとしても、そこに至るまでの愛憎とかを。そこがまったくないまま、さよならも言わずに、さらっと消滅する人間関係になっている。嫌だ、と思った瞬間に断ち切れるというか。そういう人が、何事もなかったかのようにSNSで明るく発信していることにも驚きます」

「小説ともエッセーとも童話ともいえないもの」 芥川賞作家・大道珠貴さん、&TRAVELの新連載を語る

――人情が書きにくい時代になったのでしょうか。

「たとえばサスペンスものなら、人が犯罪に至った理由を、幼時にさかのぼって解明していくようなものが読み応えがある、と評価されます。冷たい人には冷たいなりの理由がある、という前提で。今はどちらかといえば、人間はもともと冷たくてあたりまえ、こんなに人が大勢いれば関係を切っていくのもあたりまえ、という感じです。私は人間関係の濃密さが嫌で、生まれた土地から逃げてきました。でも、今よく見かける人間関係は、私がかつてあこがれた、さっぱりしているけれどお互いのことは尊重する、というのとはまったく違う」

――物語が成立しにくくなった時代、ということですか。

「うーん……。ひとりひとりが、自分の中に自分の物語を持つようになったんじゃないでしょうか。私たちと違い、『右へ倣え』をしなくていい時代に生まれた人たちは、自分が確立している、という印象を受けます」

小説ともエッセーとも童話ともいえない新連載

「小説ともエッセーとも童話ともいえないもの」 芥川賞作家・大道珠貴さん、&TRAVELの新連載を語る

――今回、&TRAVELで始めていただく新連載「鎌倉の風に吹かれて」は、どんな作品にするお考えですか。

「小説ともエッセーとも童話ともいえないものにしたいと思っています。人間観察をしていることがわかりやすいから、主人公はもの書きにしました。鎌倉のいろいろな場所を各回に冠して、その場所から思い出すことや、時間や記憶や人間の命とか、そういうものを回想したり絡めたりしながら書いていこうと。読んだ方が何らかの慰めを感じるものにしたいと思っています」

――2003年に芥川賞を受賞した小説「しょっぱいドライブ」も、旅要素のある、ロードムービー風の作品でした。60代の男と30代の女の、一風変わった同居生活。

「そうでしたね。私は、どうにかしたいのに解決のしようがないとか、不器用や不確実で完全さには欠けた者同士とか、そういう人と人のつきあいを書いてきました。結婚とは、男と女とは、ということを、みんなが使う言葉を使わずに書きたかったんです」

生と死と性を書き続け、時間にも関心が

「小説ともエッセーとも童話ともいえないもの」 芥川賞作家・大道珠貴さん、&TRAVELの新連載を語る

――作家として、一貫して追い続けているテーマはありますか。

「生と死と性、最近はそれに加えて、時間かな。記憶とか時間という視点から人間の生命を考えると、また違った世界になるんです」

――いま、関心を持っているテーマは?

「介護や高齢化社会は、書かないともうどうしようもないですよね。なかなか書けませんけれど。でも、人と会うと、そういうのを書いてよって、よく言われます。書き方によっては陰惨になってしまいますけれど、小説は物語だから、いろんな人やいろんな視点を入れることで、一つの救いが出せるように思います」

――大道さんにとって、旅とは何ですか。

「気づいた時にはもう始まっているし、終わらないもの。歩いているけど行き着かないもの。人生や本も一緒でしょうか。たとえ定住してもどこかに行こうとはしているんですよね、気分の上では。でも、どこへ行っても私は同じなんです」

PROFILE

大道珠貴

作家
1966年福岡市生まれ。2003年、『しょっぱいドライブ』で第128回芥川賞。2005年、『傷口にはウオッカ』で第15回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。小説に『ケセランパサラン』『ショッキングピンク』『煩悩の子』など多数。エッセーに『東京居酒屋探訪』。神奈川県鎌倉市在住。

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