永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(17) この人から目が離せなかった 永瀬正敏、カンヌの路地裏で

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。南仏カンヌで永瀬さんは、この男性から目が離せなくなりました。なぜでしょう?

(17) この人から目が離せなかった 永瀬正敏、カンヌの路地裏で

© Masatoshi Nagase

人や出来事に、突然くぎ付けになってしまうことが、僕にはある。この写真を撮った時が、まさにその瞬間だった。人生が表情に現れているような、とても哲学的な雰囲気を持つ、この男性に出会ったから。

少し離れた所では、盛装した男女が大勢集い、カンヌ国際映画祭が開催されていた。華やかな場所から一歩路地に入れば、街はまったく別の装いを見せる。日本のテレビ局が僕のドキュメンタリー番組を収録している最中のことだった。

ずっと向こうの大通りから、足元の少し先を見つめたまま、ゆっくり歩いてこられるこの方が偶然目に入った。僕はひきつけられて目が離せなくなり、テレビ局の方にお願いして収録を一時中断してもらい、カメラを構えた。

今までの人生に何があったんだろう、これからどうしていかれるのだろう、笑顔も見たい……。まるで1本の映画が頭を巡るかのように、いろいろなことを一瞬のうちに感じた。夢中でシャッターを切り続けた中にあった、ほおに手を添えたこのカットは、「物語」を強く感じさせる1枚だった。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、公開中の甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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