にっぽんの逸品を訪ねて

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

日本各地の逸品を訪ね、それを育んだ町の歴史や風土を紹介する連載「にっぽんの逸品を訪ねて」。

今回のテーマは富山県の名物「ます寿(ず)し」。駅弁としても愛され、筆者の大好きな旅のお供です。富山市にある「ますのすしミュージアム」でその魅力を探りました。民謡行事「おわら風の盆」で有名な市内の八尾(やつお)地区にも足を延ばしています。

富山県の郷土料理「ます寿し」とは?

富山県の最も有名な郷土料理といっても過言ではない「ます寿し」。塩漬けしたマスを使う押しずしの一種で、木製のわっぱにササを敷き、酢めしとマスを詰め、重しをのせて作る。

香りもすがすがしい若笹(わかさ)の緑、薄紅色のマス、純白の酢飯。色合いの美しさに加え、ササや酢の抗菌作用を生かした「ます寿し」は、冷蔵庫などない時代に人間の知恵が生み出した優れた保存食です。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

歴史は古く、江戸時代には将軍徳川吉宗に称賛され、以来、「鮎(アユ)寿司」とともに富山藩の献上品になったという。現在、県内のメーカーは約50社。「ます寿し」「鱒(マス)の寿司」「鱒寿司」など呼び方が違っても同じものを指している。

ちなみに、今回訪れた「ますのすし本舗 源」では「食品なので濁音がない方がいい」と、商品名は「ますのすし」だ。

「ますのすし」工場見学。品質を保つ努力とは?

富山市郊外にある「ますのすし本舗 源」の本社工場では、歴史や製法を紹介する「ますのすしミュージアム」を併設している。工場見学や手作り体験ができるほか、伝統の手仕事が見られる「ますのすし伝承館」、旅情を誘う「旅と食の文化史コレクション」、さらにレストランや販売コーナーもある。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

「この場所を本社工場に選んだのは、水がいいからです」と話してくれたのは広報の入江健さん。立山連峰から流れる地下水を地下約1500メートルからくみ上げて使用している。「ますのすし」はシンプルなだけに、素材一つひとつの質が味に大きく作用する。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

まずは工場見学

ますのすしの消費期限は製造から48時間。1日約2万5000個を製造することもあるという工場は整然として、従業員の方たちの手早いこと。あまりに早いので、「ますのすし伝承館」に移動して、伝統の製法を見ながら工程を解説していただいた。ここでは、約100年受け継がれる職人の手仕事をガラス越しで見学者に披露している。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

伝統の製法が見られる「ますのすし伝承館」

伝承館に入れる職人は、選ばれたわずか数人のみ。なかでもマスの身を切り出す「柵とり」をここで行うことを許されているのは現在たった2人。技術だけでなく、包丁の手入れを怠らないなど、職人としての心構えも選ばれる基準だという。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

同じ厚さで切っていく

マスは身がやわらかいのでさばくのが難しい。それを切り分け、丁寧に骨を抜き、包丁でそぐように均等に切り分ける。塩や酢の効き具合など、身の厚さは味に大きく影響する。

並べた身には塩をふる。淡泊で上品なマスの味と香りを生かすには塩加減がきわめて重要で、“塩ふり3年”といわれるそうだ。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

塩ふりも熟練がいる作業

マスを寝かせて準備ができたら、わっぱにササを並べる「笹(ささ)つけ」の作業。1枚1枚形の違う自然の葉っぱを組み合わせて並べるので、機械化できない工程の一つだという。

思えば、ササは年間を通して大量に使用するにもかかわらず、常に新鮮で青々としている。

「6月初旬から7月までの約2カ月間に採れる若葉だけ、しかも手摘みした国産のクマザサとチマキグサだけを冷凍保存して使用しています」と入江さん。さらに「材料だけでなく、容器に使用する竹やササの保護活動にも力を入れています」とのことだ。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

熟練者は5分ほどで20個の笹つけを行うそうだ

ササの上に酢飯を入れて、酢洗いしたマスを並べる。米は富山県産のコシヒカリを中心に、毎日、精米したてのものを、翌日に使う分だけ仕入れる。マスは、放射状に切った時に一口めにコクがあるよう中心部に脂ののった部位をのせ、端は脂が少なめの身をのせてさっぱり後味よく食べられるようにしている。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

酢洗いしたマスを並べていく

年に4回、季節によって合わせ酢の配合を微妙に変えているそうだが、変えた節目には必ずお客さんから「味を変えましたか?」と問い合わせがくるそうだ。それだけ頻繁に食べている愛好者がいるということだろう。

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こまやかな心配りで作られる

触って実感。「ますのすし」作りの楽しさと難しさ

手づくり体験では、商品と同じ材料を使って、ますのすしが作れる。「笹つけ」がいかに難しいか、マスがいかに均等の厚さに切られているかなどが実感できる。

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老若男女問わず楽しめる

酢めしにマスを並べていると、「マスを多く入れすぎても味のバランスが悪くなってしまいますよ」と講師の方。欲張りは禁物。最後の押しも大切な工程で、うまみがぎゅっと凝縮されるという。

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酢めしとマスのバランスも大切

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最後の「押し」まで講師が指導してくれる

源や駅弁の歴史を紹介するコーナーも

源の創業家は江戸時代に現在の富山市で料亭を営み、1900(明治33)年に料理旅館の富山ホテルを開業。やがて富山駅構内で駅弁を販売するようになった。「旅人の心を郷土の味でいやしたい」と、ますのすしも作るようになったという。

「旅と食の文化史コレクション」では、壁面に全国から集めた駅弁のかけ紙が日本地図状に貼ってある。北海道の「かにめし」、関東の「シウマイ御弁当」などのかけ紙を見ていると、全国を旅している気分になる。

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壁一面の駅弁のかけ紙

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土地柄が表れていて興味深い

江戸時代から昭和にいたるめずらしい弁当箱なども展示している。大名が野遊びに携えた豪華な蒔絵(まきえ)の重箱や、ひょうたん型、飯ごう型などの弁当箱など、どれも機能的で美しく、いつの時代も旅の食事を楽しもうとした工夫が伝わってくる。

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いろいろな弁当箱があって、これを持って旅に出たくなる

季節と郷土の食材を取り入れたランチメニュー

ランチは、館内の食事処「さくら亭」で「夏の季節御膳」を味わった。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

富山の食材を取り入れた「季節御膳」。これを含めてメニューは3種類ある

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庭の緑を望む「さくら亭」

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江戸時代の料亭の名を付けた販売コーナーもある

足を延ばして「蚕都(さんと)」八尾地区へ

「ますのすしミュージアム」から南西へ車で走って八尾地区へ入ると、格子戸や黒塀、白壁の土蔵など重厚な町並みが現れる。八尾は飛驒(ひだ)と富山を結ぶ物流の拠点として古くから発展し、江戸時代からは養蚕業の中でも特にカイコの卵「蚕種(さんしゅ)」の生産や取引で栄えた。

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石垣の上に造られた八尾の町並み

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江戸時代にさかのぼったような光景が表れる

「全国に養蚕で栄えた町は多いですが、八尾は生糸だけでなく、蚕種も販売していたので、大いに繁栄しました」と説明してくれたのは越中八尾観光協会の楠純太さんだ。最盛期には、全国の蚕種の4分の1の生産を、八尾の商人たちが掌握していたという。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

越中八尾観光会館では、蚕種紙のレプリカなどめずらしい展示が見られる

八尾を訪れたらぜひ立ち寄りたいのが、越中八尾観光会館(曳山〈ひきやま〉展示館)だ。「蚕都」といわれるほど隆盛を誇った町の歴史を詳しく紹介し、町歩きが何倍も楽しめる。

館内に展示された山車の「八尾曳山」からは、当時の豊かな経済力が伝わってくる。江戸時代から続く「曳山祭」(毎年5月3日開催)で引く八尾曳山は、井波彫刻、城端塗、高岡の彫金など、周辺地域の高度な工芸技術を結集して作られている。立体的な彫刻や精密な金細工など、目を見張る美しさだ。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

「八尾曳山」は6台のうち3台が展示されている

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

どこを見ても細密な細工に驚く

粋(いき)を好む豪商の旦那衆は浄瑠璃や長唄など芸能の文化も採り入れ、町人文化として八尾の地に根付いた。八尾では当たり前のように三味線や笛、長唄などを習得する人が多かったという。

その風土が毎年9月1日~3日に行われる「おわら風の盆」を生み出した。三味線や胡弓(こきゅう)に合わせて哀調を帯びた歌声が流れ、優美に踊る。見るものをとりこにする行事として全国にファンが多い。

祭りは年に1回だが、越中八尾観光会館では毎月第2・4土曜日に「風の盆ステージ」が行われ、踊りや演奏はもちろん、所作の解説なども聞ける。

富山名物「ます寿し」が愛される理由、「ますのすしミュージアム」で発見

幻想的な「おわら風の盆」(画像提供:とやま観光推進機構)

【問い合わせ】

ますのすしミュージアム
越中八尾観光協会

PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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