あの街の素顔

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

滋賀県の琵琶湖は、そこにしか生息しない固有魚の宝庫です。近辺の魚料理といえば「鮒寿司(ふなずし)」が有名ですが、料理人やお店が知恵を絞って、おしゃれな「ふなずしサンド」など、新たな食べ方も開発しています。食文化ジャーナリストの池田陽子さんが、日々進化する「湖魚メニュー」を体験してきました。

(トップ写真は上から琵琶湖産のビワマス、ニゴイ、コアユ)

固有魚16種類 フナは泥抜き不要で造りに

日本最大の湖・琵琶湖。そこには個性豊かな味わいが楽しめる「湖魚」が泳ぐ。

「琵琶湖は400万年の歴史を有する湖。独自に進化した固有魚が16種類もいます」と語るのは、滋賀県高島市マキノ町で漁業を営む中村清作さん。滋賀県漁業協同組合連合青年会会長として、琵琶湖の魚の魅力を発信する活動にも精力的に取り組む。

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

中村清作さん。20歳から家業を受け継ぎ、コアユ、ニゴイ、フナ、シジミ、ビワマスなどの漁を行う。また、徹底的に鮮度管理した高品質な湖魚の直送も行っている(撮影・オザキマサキ氏)

「淡水魚というとクセがある、と思われがち。けれど琵琶湖の魚は、川にいる魚とは違います」と中村さん。

たとえば、地元では食卓の定番というフナの刺し身。「インターネットで『フナ』『食べる』と検索すると、たいてい「1週間かけて、きれいな水で泥を抜く」と書いてあります」と中村さん。「でも、僕らは朝水揚げしたものをそのまま造りにして食べます。酢みそではなく、わさびじょうゆでね」

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

琵琶湖で捕れたコアユ(撮影・オザキマサキ氏)

琵琶湖を代表する魚の一つがコアユだ。琵琶湖で一生を過ごすアユは成魚でも体長10センチ程度と小さいため、その名がついている。「皮が柔らかくてぬめりがなく、うろこがなめらかで口当たりがよいのが特徴です」

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コアユ漁は夜0時ごろ出船、6時に港に戻る。12月ごろから8月末まで行われる(9~11月は禁漁)。旬は3~8月(撮影・オザキマサキ氏)

コアユは成長段階にあわせて五つの漁法を駆使して捕る。また、100種類以上もの網を使い分けるのだという。網の糸は極めて細い。「海の漁師には驚かれますが、魚に気づかれにくいので、かかりやすい。でも長靴にひっかかったらすぐちぎれるほど耐久性がありません」。よって、つねに修繕が必要となる。琵琶湖の漁業は「伝統工芸品」を作るように、繊細な作業の連続だ。

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網にかかったコアユを振り落とす。コアユの鮮度を落とさないようにすばやく、ていねいに行う(撮影・オザキマサキ氏)

これからまさに、旬を迎えるのは「琵琶湖の宝石」ともよばれるビワマス。サケ科の琵琶湖固有種で、トロにも負けない上質な脂が魅力だ。「品のよい濃厚な味わいの脂、刺し身が最高にうまいです」と中村さん。2016年、水産物のPRイベント『Fish-1グランプリ』の「プライドフィッシュ料理コンテスト」で、「天然ビワマスの親子丼」は居並ぶ「海の強敵」を抑えてグランプリになったほどだ。

そしていま、注目されているのがニゴイ。鮒寿司の材料となる琵琶湖固有種ニゴロブナなどを漁獲する際に網にかかる、いわば「邪魔者」で、漁師たちは食べていたものの一般的ではなく、鮮度落ちも早いため、市場では価値が認められていなかった。「川でとれると泥臭いけれど、琵琶湖の沖獲(おきど)れは、とてもおいしいんですよ」。価値を高めようと神経締めにするなど鮮度管理を徹底したニゴイの刺し身は、京都や大阪の料亭で大好評だ。「高品質な『琵琶湖産』の魚をもっと多くの人に楽しんでほしいですね」

造りでいただくビワマスやニゴイ

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「大通寺」の表参道に位置する「住茂登」

長浜市の住茂登は創業130年を誇る滋賀郷土料理店。4代目の藤林空也さんは、琵琶湖の魚を使った料理に力を入れている。「たんなる淡水魚ではなく『湖魚』というジャンルとして滋賀が誇る食文化の素晴らしさを伝えたいと思っています」

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住茂登の藤林空也さん。「琵琶湖の魚は、海の魚にまったくひけをとらない味わいだと伝えたい」と意欲を燃やす

ビワマス、ニゴイは造りで提供する。「焼いてもおいしいけれど、あえてシンプルな調理法にしています。手を加えすぎると『調理技術で臭みを消している』と思われてしまうのがなんだか悔しくて」。とはいえ、湖魚のおいしさを引き出すためのテクニックは駆使する。ビワマスは塩をしてきっちりと下処理し、ニゴイは甘みを引き出すために皮を薄造りにしてあぶり、焼き霜に仕立てる。

ビワマスはコリッ、プルッとした複雑な食感、上品な味わいの脂に驚く。ニゴイは、タイにねっとりとしたうまみが加わったような味わい。絶品だ。

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

(左上)ニゴイのお造り。「骨切りをして食べたらおいしさに感動しました」と藤林さん(右上)鮒寿司。発酵した米はチーズのようなまろやかさ、身はアンチョビのようなコク、卵はからすみのように濃厚(右下)天然ウナギの白焼き。鮮烈な味わい(左下)ビワマスのお造り

住茂登の看板料理は「鮒寿司」だ。4代にわたって受け継がれた伝統の技で、ニゴロブナのメスを塩漬けしてから、最高級の近江米コシヒカリとともに、木おけで漬け込む。隠し味は「蔵に住み着く乳酸菌」。毎日目と鼻で確認し、醸し出されたその味わいはクセがなく上品。シャンパンやワインにもぴったりだ。

年間で約2トンしかとれないという貴重な天然ウナギも、今が旬。バツグンの脂のりと強いうまみを楽しんでほしい、とあえて「白焼き」のみで提供する。むっちりと肉厚、一口かむと力強く弾力のある身、ほとばしる脂。「生命力」が伝わるような味わいにうなった。

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コアユの塩焼き。コアユとしては最大サイズのものを、香ばしく焼き上げる。川の大きなアユよりも香りよく、苦みもマイルド

コアユは塩焼きで提供。頭も骨もやわらかいため、まるごとかぶりつくことができる。香ばしくしっとりした身と、ほろっとやわらかな苦みがひとつになって口の中を駆け抜ける。

新感覚 ふなずしサンドやビワマスのピザ

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

ビワコ・ドーターズ。野洲市菖蒲(あやめ)地区に位置し、琵琶湖はすぐそば。JR野洲駅からクルマで20分の距離にもかかわらず、HPやSNSで見たという人が多く訪れる

最近では新しい感覚で、琵琶湖の魚を提供する店も登場している。野洲市の「BIWAKO DAUGHTERS」(ビワコ・ドーターズ)は、まるでカフェのようなおしゃれな外観。ジャズが流れる店内で「コーヒー飲めますか、と入ってくるお客さんが多いです」と笑うのは、店主の中川知美さん。漁業と水産加工販売を営む「あやめ水産」の3代目だ。

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

中川知美さん。もっと琵琶湖の魚の魅力を知ってもらいたいと、琵琶湖の漁体験も実施している

「最近、琵琶湖の魚を日常的に食べるのは、年配層ばかり。若い人たちにもっと食べてもらいたい」と昨年オープンしたお店のコンセプトは「海外の港町にある魚屋」。祖母の代から受け継いだレシピで作られたコアユの佃煮(つくだに)やスジエビのふりかけは、スタイリッシュなロゴ入りのボトル入り。郷土料理のえび豆やホンモロコのしょうゆ煮もまるでセレクトショップにあるようなパッケージに詰め込まれ、船をかたどった什器(じゅうき)に並べられている。

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「琵琶湖のアソート」。スジエビと大豆を炊いた「えび豆」と「スジエビのふりかけ」入り

そして、「古きよき郷土料理」とともに並ぶのは「淡水魚になじみがない人も、洋風のアレンジなら食べやすいのでは」と工夫した料理。それは淡水魚のイメージを覆す「おしゃれでカラフル」なものばかりだ。一番人気はなんと自家製の鮒寿司をサンドイッチにした「ふなずしサンド」。食べてみると、ふかふかのパン、チーズ、ふなずしは何の違和感もなく、一体となって思わず白ワインがほしくなる味わい。「鮒寿司が初めて、という女の子がこれを食べて、鮒寿司そのものをお土産に買っていきました。海外のお客様にも好評です」

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

(左上)「琵琶湖のピッツァ」。スジエビとシジミをトッピングし、みそを使ったソースで(右上)スジエビをたっぷり使った「えびパン」。スジエビ入りの生地で、スジエビのかき揚げをサンド(右下)「ふなずしサンド」。近江八幡市の人気店「壱製パン所」に特注したパンに、チーズと鮒寿司をサンド(左下)「ビワマスのペスカトーレ」。スジエビの粉末がアンチョビ的な隠し味に

旬のビワマスは、ピザ仕立てに。スジエビの粉末、モッツァレラチーズ、オリーブなどをのせた彩り豊かな「ビワマスのペスカトーレ」は、上品なビワマスの味わいをワクワク楽しめる一品だ。

中川さんは、鮒寿司の発酵した米の部分「飯(いい)」を応用したレシピも編み出した。「飯が好きな人って多いんです。お店に来た子どもがまるでアイスクリームみたいにスプーンですくって『おいしい、おいしい』って食べ続けていたこともあります」と中川さん。確かに食べてみると、ヨーグルトのよう。飯を使ったポテトサラダや、生地に練りこんだパン、なんとジェラートも! どれもうまみが増し、さわやかな風味が楽しめる。

ふなずしサンドにビワマスの造り 新旧相和す琵琶湖の魚料理

(左上)鮒寿司の「飯」を使ったポテトサラダと、飯に漬け込んで焼いた蒸しチキン(右上)伝統的な「コイの筒炊き」もおしゃれな木のボウルに入れて提供(右下)ポケットのようなパッケージに琵琶湖の幸を詰め込んだ、その名も「ポケットの中の魚」シリーズ。「少しずついろいろな味を楽しんでほしい」という思いから、少量ずつの個包装(左下)ショウガとゴマの風味が豊かな「大人のえびふりかけ」はおつまみにぴったり

「新しいメニューを食べて、あ、琵琶湖の魚っておいしいんだ、と佃煮や煮つけを買って帰る方が増えてうれしいです」と中川さん。作戦成功、である。

ビワコ・ドーターズで購入した「コアユの佃煮」を自宅で食べてみた。炊いてもなお、どこか澄み切った味。「透明感のある佃煮」は食べだしたらとまらなくなった。400万年の時間が生んだ味わい。佃煮が入ったボトルが「琵琶湖のタイムカプセル」に見えてきた。

【問い合わせ】

住茂登
ビワコ・ドーターズ

PROFILE

「あの街の素顔」ライター陣

こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

池田 陽子

薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。
宮崎生まれ、大阪育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは?という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。著書に『​ゆる薬膳。』(日本文芸社)、『缶詰deゆる薬膳。』(宝島社)、『サバが好き』(山と渓谷社)、『「サバ薬膳」簡単レシピ』(青春出版社)など。

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