クリックディープ旅

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去「12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。6回目は、嘎拉賀(ガラホ)野渓温泉から台北を目指します。

はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「梵梵野渓温泉から嘎拉賀野渓温泉へ、台湾の超秘湯旅5」はこちら

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

超秘境を目指すつらい旅はまだ続く

どうして僕の旅はこういうことになってしまうのだろう。

超秘湯とはいえ、温泉である。それも台湾。ヒマラヤ山中にある温泉とは違う。この話がもちあがったとき、口では、「少しは難易度が高い温泉がないとこの連載にならないでしょ」などといいながら、「今回は楽ができる」と心のなかでつぶやいていた。たまにはのんびり旅がしたい。

台湾の全温泉に入ることを目標とする案内役の廣橋(ひろはし)賢蔵さんも、「少し歩く温泉はありますが、ほとんどは車で横づけですよ。ハッハッハ」と笑っていた。しかし、1時間も急な坂道をくだるなどとは聞いていない。「少しとは1時間のことなのか」と嘎拉賀野渓温泉でつぶやいた。車に戻るには、またあの坂道をのぼらなくてはならない。

今回の旅のデータ

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

嘎拉賀(ガラホ)野渓温泉から秀巒(シウルァン)温泉、錦屏(チンピン)温泉、台北へ

野渓温泉を管理している村は、客家、そして先住民が暮らしていることが多い。そして民宿が一軒ということが少なくない。民宿は1泊600元、約2100円前後。これには必ず朝食代が含まれている。食堂すらない小さな村でも、必ず用意してくれる。

基本的に満室になることはないので、予約の必要はない。ただし週末は別。ネットで予約できるところは多くない。事前に電話で予約を。

長編動画

台北に戻る途中の宇老観景台(ユーラオグアンジンタイ)から玉峰渓という川が刻んだ谷筋を1時間。朝の小鳥の声が響きます。

短編動画

最後に寄った錦屏(チンピン)の温泉。つくられた温泉ランド風。台北に近づいたことを教えられる。

嘎拉賀野渓温泉から台北へ「旅のフォト物語」

Scene01

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

嘎拉賀野渓温泉にはつからなかった。ここから嘎拉賀の村まで、きつい坂道にたっぷり汗をかくかと思うと気分もなえる。首をうなだれて帰路を歩く。再び崖を越え、石段を30分ほどのぼっただろうか。舗装路がはじまるところにこの看板。バイクが迎えにきてくれるらしい。呼ぼうか……。真剣に悩んだ。

Scene02

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

急な坂道。汗だくになりながらのぼっていく。滴る汗を拭い、皆、嘎拉賀野渓温泉に行ったことを後悔しているのに違いない……などと苦言をつぶやきながら、ふと足元を見るとヘビ。くだりで目にした糞虫といい、台湾の山にはいろんなものがいますなぁと笑う余裕もなく、忍び足でヘビの後ろ側を歩いた。

Scene03

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

1時間半かかって嘎拉賀の村についた。「次は秀巒(シウルァン)村に進みましょう。そこにも野渓温泉があるらしいので」と廣橋さん。「また歩く?」。「いや、それは行ってみないと」。悪い予感がした。超秘湯にどんどん入り込んでいる。秀巒村に行く途中、キャンプ地に寄った。村には売店がないかもしれず、ここでカップ麺を買う。またしても嫌な予感。

Scene04

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

秀巒村は先住民族のタイヤル族の村だった。食堂もあった。聞くとおかずも売ってくれるという。隣の売店にはビールや安い怪しげな酒も売っていた。先住民がよく飲む酒だという。村は全戸に温泉が引かれ、100元、約350円で入浴できる共同温泉もあるという。なんだかよさそうな村。少し気分が軽くなる。

Scene05

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

昨夜に続いてカップ麺。超秘湯を目指して山に入っていく旅のお供はカップ麺ということになってくるらしい。泊まったのは秀巒村の原舞曲民宿。1泊600元、約2100円。1階の食堂にはドラムセットが置かれていた。ここで演奏しながら、先住民が踊るらしい。台湾の民宿はいろんな顔をもっている。

Scene06

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

原舞曲民宿にも温泉が引かれていた。家庭の風呂のような浴室だったが、湯に入ると温泉。さっぱりとした湯だった。ドアはあるので、そこを閉めると裸になって入ることができる。なんだか日本の温泉につかっているような気分になってくる。これは秘湯ではないのだが。

Scene07

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

朝の6時に目が覚めた。食堂に行くと、宿の主人の劉奕淇さんが待っていた。「行きましょう」。日本語だった。聞くと、前妻が沖縄の人だったという。で、どこへ行くかというと、野渓温泉だった。前夜、廣橋さんと打ち合わせたらしい。身構えてしまう。また歩くのか……。

Scene08

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

秀巒村の野渓温泉はこれでした。嘎拉賀野渓温泉はきつい坂道が続いたが、道はあった。ところが秀巒村の野渓温泉は道がない。車道から入り、背の高い草のなかに突入していく感じで進んでいく。皆、進んでいるとは思うのだが姿は見えない。この先に温泉があるというのだろうか。

Scene09

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

やみくもに10分ぐらい歩いただろうか。突然、視界が開けた。目の前に川が流れていた。かなりの勢いだ。泰崗(タイガン)渓という川だった。しかし水際まで20メートルほど距離がある。大きな岩の割れ目や突起に足をかけ、そろそろ進む。はたしてこの先に温泉がある? 不安を胸に岩の間を下りて行った。

Scene10

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

「このあたりだったんだけどなぁ」と劉さんが腕を組んだ。つい最近まで、ここに野渓温泉があったのだという。梅雨に入り、雨が続いている。川の水量が増してしまったようだ。いつの間にか温泉が流されてしまったらしい。水に手を入れてみた。ほのかに温かい。しかしここでつかったらおぼれてしまいそうだった。

Scene11

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

台湾の野渓温泉は幻のようだ。あるとき姿を見せたり、突然、消えてしまったり。台湾の全温泉につかることを目指す廣橋さんは、出口のないラビリンスに入っているのではないか。台北に戻ることにした。宇老観景台を経由し、内湾方向に向かう。途中にあった錦屏でひと風呂。日本でいう温泉ランド。なんだかほっとした。

Scene12

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

内湾に出た。ここは日本風の街並みが残っていた。ゆっくりカーブする道も日本時代のまま。これは戦前、映画館だった建物。日本でも数少なくなってしまったレトロ映画館は土産物屋になっていた。この日は日曜日。台北から2時間ほどの内湾は、かなり混みあっていた。

Scene13

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

高速道路を走って台北の街へ。急に増えたバイク。足早に横断歩道を渡る人たち。山深い先住民の村に泊まり、河原の野渓温泉につかってきた身には、なんだか別世界のように映ってしまう。しかし超秘湯の旅は終わっていない。まだ東海岸や南部の温泉が残っている。また歩くのか……。草を押しのけて進むのか。

Scene14

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

台北駅前の宿に泊まった。最近、ここが定宿になりつつある。1泊900元、約3150円。台北では安宿のランクに入る。以前、台北駅の北側には、この種の宿が20~30軒あった。ところが次々に建て替えられ、中級ホテルやゲストハウスになってしまった。ここは残り少ない昔風の安宿。妙に落ち着きます。

Scene15

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

東京へはLCCで戻った。日本と台湾を結ぶLCCはかなりの数。便数も多い。その競争に支えられて、運賃は片道1万円前後。キャンペーン中はさらに安くなる。気楽に行くことができる海外だが、秘湯は気楽ではない。かなりきつい。この先、どんな秘湯が待っているのだろうか。

【次号予告】次回は台湾南部、高雄からの秘湯旅がはじまります。

※取材期間:2019年5月11日~12日
※価格等はすべて取材時のものです。

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

■下川さんによるクラウドファンディング
「バングラデシュの小学校校舎の修繕プロジェクト」はこちら

 

BOOK

嘎拉賀野渓温泉から台北へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅6

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

梵梵野渓温泉から嘎拉賀野渓温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅5

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