永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(18) 自由が飛んできた! 永瀬正敏が撮った! 南仏アンティーブ

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。道に迷った南仏アンティーブで、目の前に飛び込んできた「自由」とは?

(18) 自由が飛んできた! 永瀬正敏が撮った! 南仏アンティーブ

© Masatoshi Nagase

建物に囲まれて、空が小さく見える。圧迫感すら感じさせる空間だ。そこへカモメが飛んできた。抑圧された場所に飛んできた自由のように。こんなカットを、よく撮らせてくれたなと、しみじみ思う。

カモメが写っているのは、写真上部の少し左寄り。あえて中央には置かなかった。南仏の特徴ある家々や、個性的な形をした雲に埋もれて、ぱっと見ただけでは気づかないかもしれない。よく見ないとわからない1羽の自由、という仕上がりが、自分でも気に入っている。

自由が撮りたかったわけでも、自由になりたかったわけでもない。でも、カモメが写真の隅に写り込んでいるさまは、誰にでもわかる場所に転がっているものではないという、社会の中における自由のあり方を示しているようでもある。

この写真は、アンティーブの街で道に迷っている時に撮ったものだ。行きたい場所へ向かうという目的に照らせば、迷うことは無駄だろう。しかし、迷わなければこの写真を撮ることはできなかった。無駄なことなど、実はないのかもしれない。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(17) この人から目が離せなかった 永瀬正敏、カンヌの路地裏で

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(19) 永瀬正敏、光の魔術師を切り取った 映画「パターソン」ロケ地で

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