クリックディープ旅

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去「12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。7回目で知本温泉まで来た下川さん。8回目は、近くの富岡港からフェリーで緑島(りょくとう)の朝日温泉を目指します。

はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「高雄から知本温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅7」はこちら

台東の富岡港から緑島。波打ち際にあるという温泉をめざす

台湾はひとつの島だが、その周りにはいくつかの島がある。そのなかのひとつ、緑島に渡ることにした。台湾では4番目の広さ。日本統治時代の名前は火焼島。政治犯が送られたことから監獄島とも呼ばれていた。そこから想像できる通り、太平洋上の火山島。ということは温泉……。島には唯一、朝日温泉があった。深い山のなかの超秘湯をめぐってきた僕らは気分転換。フェリーに乗って島の温泉に向かうことにした。

今回の旅のデータ

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

富岡港からフェリーで緑島の朝日温泉へ

台東の富岡港から緑島の南寮港までは50分~1時間。「凱旋」「緑島之星」「天王星」「金星」などと名づけられたフェリーが就航している。時間帯にもよるが、ほぼ30分間隔で運航している。

ルートは富岡港―緑島―蘭嶼(らんしょ)が基本だが、混みあう時期は富岡港―緑島往復になってしまうなど、かなり流動的。事前に確認した方がいい。ネット予約も可能だ。フェリーによる運賃差はあまりないから時間帯で決めることになる。

僕らは往復、「凱旋」に乗った。運賃は往復割引を効かせて920元、約3404円だった。小型機だが台東から飛行機も就航している。

長編動画

台東の富岡港から緑島の南寮港までの船旅をノーカットで1時間。後部甲板からの撮影です。

短編動画

ダイビングのパッケージツアーで緑島に来た人は、レンタルバイクでポイントへ。ツアー会社は、人数に合わせた車を用意する必要がない。バイク天国、台湾のツアーです。

富岡港からフェリーで緑島の朝日温泉へ「旅のフォト物語」

Scene01

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

前日、ネットでフェリーの予約状況をチェックすると、朝の8時~10時台はすべて満席になっていた。電話をしてみると、「朝、窓口で聞いてください」という返事。午後の船になることを覚悟して、朝、知本温泉から富岡港へ。ところが9時30分発で緑島に向かう「凱旋2號」の切符が簡単に手に入ってしまった。ネットの予約サイトはあまり信じないほうがいい?

Scene02

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

「凱旋2號」に乗り込んだ。船内はすべて椅子席。冷房はしっかり効いている。乗り込むと席はほぼ埋まっていた。僕らは通路に立つしかなかった。入り口脇には、席がない人用のプラスチック椅子も。僕らがすんなり切符をゲットできた理由がわかった気がした。

Scene03

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

海は穏やかだった。「凱旋2號」は順調に進んだ。潮の流れが速く、船酔い止め薬が必携の航路だと聞いていたが……。それは杞憂(きゆう)だった。途中、「凱旋2號」は、10分後に出航した「緑島之星」にあっさり抜かれてしまった。そもそも船の性能が違うのか。あるいは人を乗せすぎたのか……。甲板で少し悩む。

Scene04

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

フェリーが混みあう理由? 夏休みだった。台湾の学校は7月と8月が夏休み。島に渡ったのは土曜日。子供にせがまれて、緑島の海に出かける家族連れが多かった。ちょっと寝不足ぎみのお父さん。甲板を走りまわる子供たち。日本の夏休みを思い出してしまう。旅ばかりを続けている身には、ちょっとうらやましかった。

Scene05

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

フェリーは緑島の南寮港に到着した。そのとたん、アジアの喧騒(けんそう)に巻き込まれる。民宿の呼び込み、レンタルバイクやレンタカーの客引き……。それをかき分けるように進まなくてはならない。パッケージツアー組はレンタルバイクの利用が多い。添乗員がバイクに旗を立てて先頭を走る。その様子は動画でも。

Scene06

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

朝日温泉をめざして、島一周道路を南に向かう。奇岩が次々に現れ、山側は断崖。切り通しもいくつかある。やはりこの島は火山島。風景は荒々しい。島の最高地点は火焼山で標高約281メートル。人を寄せつけないようなこの地形が、政治犯を収容する島になっていった理由にも映る。いまはインスタ映えですが。

Scene07

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

台湾の若者は緑島の温泉など興味がないようだ。もっぱらシュノーケリング。磯の間の小さなビーチに彼らが集まる。聞くと彼らの大半は泳ぎが苦手……、というか学校で泳ぎを教わらなかったようだ。まずはライフジャケットをつけてシュノーケリングということらしい。

Scene08

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

ほどなくして朝日温泉に着いた。ここは宿泊施設がなく、ただ温泉だけ。入場料は200元、約740円だが、65歳以上は100元。そういうと、証明書も確認せずにシニア料金になった。磯の間から温泉が湧出(ゆうしゅつ)し、それを使った浴槽が並ぶ。営業は朝5時から。波打ち際の露天風呂につかって太平洋の日の出という趣向。だから朝日温泉。ちょっと安易。

Scene09

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

波打ち際の露天風呂に入った。お湯はイオウ泉というがにおいはしない。なめてみるとかなりしょっぱい。満潮になると、海水が流れ込んで湯を冷ます構造。入ったのは干潮時。湯はかなり熱く、空からは強い太陽光にジリジリ攻められ、そちらも暑い。気温はおそらく35度を超えている。苦行のような露天風呂でした。

Scene10

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

温泉の周りには台湾人観光客がかなりいた。温泉卵を食べながら、浴槽の周りに座っている。皆、湯に入る気配もない。「どうして入らないの?」と聞くと、「熱いから」。しごく納得してしまったが、じゃあなぜ、200元も払って温泉に? ……この謎を解くのは、結局暑くてやめました。

Scene11

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

太平洋戦争が終わり大陸から中国国民党が台湾にやってきた。国民党は台湾に戒厳令を敷き、反体制派を弾圧していった。台湾で白色テロといわれる時代だ。そのなかで、多くの台湾人が政治犯として緑島に送られた。ここは死刑を免れた人たちの思想改造の施設。この台湾の若者はこういうことをしてますが。

Scene12

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

緑島に政治犯が送られた時代、一般の人々は島に渡ることはできなかった。台湾では監獄といわれる刑務所の近くには、緑島に送られた政治犯の名前を刻んだ人権記念碑がある。元台湾副総統の呂秀蓮、元高雄市長の陳菊、作家の柯旗化柏楊などの著名人の名前もみつかる。監獄は1987年まで設置されていた。

Scene13

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

監獄跡から南寮港に戻る途中、この食堂に足が止まった。どこかで見たことがある……。沖縄だった。家の建て方や色使いがそっくりなのだ。考えてみれば、沖縄はそう遠くない。店内は冷房もなく、扇風機がまわるだけ。炒麺(チャーメン)が80元、約296円。優しい味も沖縄に通じていた。

Scene14

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

いまの緑島には通常の刑務所もある。島をバイクで一周する観光客が訪れていた。見ていると、受刑者が刑務所前で飼っている鹿に餌をあげていた。なんだかのんびりとした光景に少し戸惑う。職員は「模範囚です」と笑顔で答えてくれたが……。港に急いだ。帰りのフェリーが出る時間だった。

Scene15

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

南寮港は混乱していた。「天王星」が欠航になってしまい、その乗客をほかのフェリーに振り分ける手続きが続いていた。台東に戻るフェリーで、コトッと寝入ってしまった。朝日温泉に入って以来、なんだか頭が痛かった。炎天下の波打ち際露天風呂は入らない方がいい。温泉に入って熱中症……。誰も同情してくれない。

【次号予告】次回は紅葉温泉から栗松温泉へ。

※取材期間:2019年7月28日
※価格等はすべて取材時のものです。

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

■下川さんによるクラウドファンディング
「バングラデシュのこどもたちに安全な教育環境を コックス・バザールの校舎修繕プロジェクト

」はこちら

 

BOOK

緑島の朝日温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅8

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

高雄から知本温泉へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅7

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