永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(21) 抱かれても、クールにスマホ? 永瀬正敏が撮ったニューヨーク

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回はニューヨークの街角。熱い抱擁を交わすカップルの手に、ある物が。

(21) 抱かれても、クールにスマホ? 永瀬正敏が撮ったニューヨーク

© Masatoshi Nagase

ニューヨークの街角を歩いていた夜、偶然見かけた光景を一瞬で撮った。見るともなく視界に入ってきた大きな広告に目をやると、その前で、アジア系の若いカップルが抱き合っていた。女の子の手に、何か光る物があった。何だろう、と思って見ると、彼女はスマートフォンを見つめていた。

ずっと見ていたわけではないから、どういう状況だったのかはわからない。抱かれた彼女は、はいはい仕方ないな、という気持ちだったのか、それとも、一生懸命調べ物をしているけれど、彼とは離れたくなかったのか、いろいろな物語を感じとれるところがおもしろい。大勢の人たちが足早に行き交う場所で目にした、珍しいシーンだった。

広告は裏側から光で照らされ、大きな笑顔が夜の街に映えていた。カップルの表情は見えなかったけれど、ちょうど広告の笑顔のような雰囲気を醸し出していた。だから、抱擁しながらスマホという、ちょっと驚くような光景でも、嫌な印象はまったく受けなかった。あきれた気持ちにはならず、むしろほほえましく感じるような。

映画「パターソン」の撮影を終えた後、滞在期間を延ばして久しぶりのニューヨークを楽しんでいたときに遭遇した。この時、僕がどこへ向かっていたのかは覚えていないけれど、ナイト撮影で歩き回っていたわけではないことは確かだ。こういう、出会わないと撮れないシーンを切り取れた時、カメラを持っていてよかったと、心底思う。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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