あの街の素顔

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

北海道のほぼ真ん中に位置する旭川市と、そのお隣、東川町や東神楽町。これらの地域が「家具の街」と呼ばれているのはご存じでしょうか? 毎年開かれる、旭川の家具を中心としたデザインの見本市「旭川デザインウィーク」(第5回は2019年6月19日〜23日開催) は、回を追うごとに注目度が増し、国内外のデザイナーやバイヤー、建築家、インテリアスタイリストなど、デザインへの感度の高い人々を筆頭に、続々と訪問者が増えているとのうわさ。そこで、この時期に合わせて旭川と東川を訪ね、家具を中心とした街の魅力を探ってみることにしました。
(文・写真=江澤香織、トップ写真提供:旭川家具工業協同組合)

美術館のように美しい駅に、旭川家具が映える

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

旭川駅構内の一角。木材をぜいたくに使い、洗練されたデザイン

旭川の街の玄関口、JR旭川駅へ到着すると、衝撃的に洗練された駅舎が建っていました。設計は建築家の内藤廣氏。内装には北海道産のタモ材がふんだんに使われており、木材豊富な街であることがひと目で分かります。ホームへ上がる階段の途中の踊り場には、国際家具デザインコンペティション旭川(IFDA)の受賞作が展示され、家具の街であることを印象付けています。

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

階段の壁、手すり、天井にもタモ材があしらわれている

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

手前のグレーの椅子は、2017年のIFDAでシルバーリーフ賞を受賞した倉島拓人氏のtrine(トライン)。奥の小さな椅子は、ブロンズリーフ賞のラッティー・パイサーンチョシリ氏のSora(ソラ)

そして驚いたのは、ゆったりと開放的なコンコースに、旭川家具が点々と並べられ、誰でも気軽に利用できること。家具メーカーの粋な計らいによって無償提供されたそうで、「旭川家具ラウンジ」として2018年にオープンしました。これはちょっと座ってみたいなと思わずにはいられません。家具には札が付いていて、どこのメーカーが作ったか分かるようになっています。電車の待ち時間におしゃべりを楽しむグループ、学校帰りに勉強している学生たち、お弁当を広げている人、椅子の座り心地の良さにうとうと居眠りしている人まで。それぞれがのんびりと自由に、くつろいだ時間を過ごしていました。うらやましい光景です。

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

旭川家具が並ぶ駅のコンコース

さらに駅の南側へ回ってみると、新たなる驚きの風景に遭遇しました。ビルの立ち並ぶ都会的な北側とは打って変わって、鳥がさえずり小川の流れる緑豊かな公園が延々と広がっていたのです。さっき開けた扉は、どこでもドアだったのかな?と思うほどの別世界。街の中心にある巨大な主要駅だとは考えられません。こんな豊かな空間が日常にあるとは幸せです。

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駅の南側は自然あふれる広々とした公園に

旭川が「家具の街」になったわけ

旭川といえば、パッと思い付くのは「旭山動物園」、そして「旭川ラーメン」。しかし、家具好きインテリア好きの間では、何といっても「旭川家具」だというのです。旭川家具とは、旭川市および、東川町、東神楽町など近郊にあるメーカーによって製造された家具のことで、北海道内の資源を活用したものも多く、とりわけ機能美に優れているといわれます。自然環境に恵まれたこの地域は、昔から良質な木材の集散地でしたが、なぜ家具の街になったのでしょうか。

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

旭川郊外。木材豊富で自然に恵まれた環境

旭川の家具産業は、明治中期頃から始まりました。陸軍第7師団が置かれ、鉄道が開通して客車整備のための木工場が設立されたことから、本州から建築・建具職人が多く移住し、机や椅子などの製造が始まったといわれています。

戦争が終わって昭和30年代になると、本州からバイヤーを招いて販路拡大を図るようになりました。 1955(昭和30)年に開催された「第1回旭川木工祭り」 は、現在の「旭川デザインウィーク」への出発点となったイベントです。そして、家具生産の高い技術とデザインが評価され始めた昭和40年代。旭川市が実施したドイツへの海外研修制度が成果を上げ、グローバルな視点を持った人材が家具業界を先導し、旭川家具がブランドとして確立されていきます。

現在、北海道で製造される家具の約6割は旭川産といわれ、100以上の事業所があります。日本の主要な家具産地の一つであり(ほかには福岡県大川市、岐阜県高山市、徳島市、広島県府中市、静岡市など)、生産高では福岡が一番ですが、旭川家具は豊富な木材資源と高度な加工技術、そして国際的に認められている洗練されたデザインに定評があります。

受賞作は商品化できるチャンスもある家具のデザインコンペ「国際家具デザインコンペティション旭川(IFDA) 」の開催や、椅子研究家の織田憲嗣氏が長年かけて収集した、歴史・芸術価値の高い家具や日用品の膨大なコレクション「織田コレクション」を東川町が公有化していることなども、旭川家具の持つ優れたデザイン性を裏付けています。

寒さの厳しい地域がもたらす人々の結束力と助け合い精神が根底にあり、産地が一丸となって職人を育てる環境や、企業同士のオープンな交流が盛んであることも、発展の一因となっているようです。

上質な家具が日常に溶け込む街

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

「星野リゾート OMO7 旭川」エントランス。白樺(しらかば)のオブジェで北海道を表現

今回宿泊したホテルは、2018年にリニューアルオープンした「星野リゾート OMO7(オモセブン) 旭川」。街の中心地にあり、どこへ出かけるにも便利ですが、ここを選んだもう一つの理由は、ロビーラウンジを体感してみたかったから。なんとこちらも旭川家具で構成されています。10社以上の家具メーカーが造った、様々なデザインの椅子やソファが並び、ワクワクするようなインテリア。片っ端から座ってみたい衝動に駆られます。

「OMO7 旭川」は、“寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル”がコンセプト。ロビーは旅行者とローカルをつなぐ場所です。旭川家具を通して、旭川という街の魅力を体感して頂けたらうれしい」と広報の角田貴代さん。ここで好きな椅子に座って、ゆっくり旅の計画を立てている宿泊客も多いそう。

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様々な旭川家具が配置されたロビーラウンジ

「OMO7 旭川」から徒歩4、5分のところにあるチーズ工房「Japacheese asahikawa(ジャパチーズ アサヒカワ)」は、若手の職人集団が運営する家具メーカー「gauzy calm works(ガージーカームワークス)」が内装を手がけています。木のぬくもりが感じられる店内で、地元の良質な牛乳を使ったフレッシュなチーズが手作りされていました。タイミングがよければ、窓ガラス越しにチーズ制作の様子を見学することもできます。同じ牛乳を使った、さっぱりと口溶けの良いソフトクリームのおいしさにも驚きます。

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「Japacheese asahikawa」の外観(左)と中の様子(右) (写真提供:gauzy calm works)

代表の長尾英次さんがこんな話をしてくれました。

「店の開業準備で疲れていても、『gauzy calm works』さんとの打ち合わせはいつもワクワクして楽しかった。業種は違っても同じ技術者であり、ものづくりの苦労や喜びは共通する事が多い。作っていただいた什器(じゅうき)は使い勝手が良く、自然でシンプル、クールな印象が気に入っています。旭川家具は旭川内外の方々から愛されており、昔からこの地域の経済を支え、技術力でもデザイン性でも世界トップクラスだと思っています。この街の誇りであり、お手本として自分たちも目標にしています」

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

販売されていたチーズ。右は「大雪地ビール」の黒ビールを使ったコラボ商品

Japacheese asahikawaから、さらに5、6分歩くと、旭川のランドマークである旭橋近くに、印象的な古い建物が現れ、思わず足が止まります。「福吉カフェ 旭橋本店」は、旭川市にある老舗の製餡(あん)メーカー「福居製餡所」と茶葉販売会社「吉川園」のコラボによって誕生したカフェ。ここでも旭川家具がさりげなく使われていました。

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「福吉カフェ 旭橋本店」は1924年建築の製粉所だった建物をリノベーション

「旭川家具の魅力は、使い手のことを考え、計算し尽くされたシンプルな構造、無駄のない機能美」と語るのは店主の海老子川雄介さん。
「この街の歴史や文化、魅力を感じられ、訪れた人全員に旭川を好きになっていただくことが福吉カフェのコンセプトです。旭川家具は街の歴史を語る上で大きな魅力の一つで、またデザイン都市、ものづくりにかける人々の思いが詰まったコンテンツですので、できる限り取り入れていくことにしています」

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

東神楽町にある家具メーカー「匠工芸」のパロットチェアとマッシュルームスツールが並ぶ店内

カフェでは、美瑛産しゅまり小豆を入れた生地を独自の焼き型で焼いたお菓子「トキワ焼き」や、しゅまり小豆、北海道ミルク、抹茶濃茶(まっちゃこいちゃ)の三層構造になったカラフルなドリンク「福吉らて」などが味わえます。

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

人気の「トキワ焼き」と「福吉らて」

1度は見ておきたい貴重な家具のコレクション

東川町にも、家具の街として楽しめる場所がありました。「せんとぴゅあⅠ・Ⅱ」は町運営の複合交流施設で、2棟が隣り合って建ち、町立日本語学校、ギャラリー、コミュニティーホール、図書スペース「ほんの森」などが入っています。ここには家具デザイン文化を発信するギャラリーがあり、織田コレクションを常設展示しています(入館無料)。フィン・ユールをはじめ、家具好きなら1度は見ておきたい、珠玉の名作椅子がずらり。もし家具のことをあまりよく知らなくても、ユニークで美しいデザインの椅子は興味深く、一見の価値ありです。

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

2018年にオープンした「せんとぴゅあⅡ」は、主に図書スペースを中心とした文化施設

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「せんとぴゅあⅠ」内にあるギャラリーで展示されている織田コレクション

東川町では日本初のデザインミュージアムの構想があり、織田コレクションはその中核となる重要な資料です。椅子は1300点以上所蔵しており、展示品は随時入れ替えています。一部は図書スペースにも展示されているのでお見逃しなく。そして建物内の随所で使われているのは、もちろん旭川家具。椅子の座り心地の良さはすでにお墨付きです。この地域の公共施設のクオリティーの高さには改めて感心してしまいます。

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

「せんとぴゅあⅡ」にある図書スペース「ほんの森」内の展示。実際に座れるものもある

旭川家具は、街で見かけることはまだまだ少ないほうだと家具メーカーの方はおっしゃっていましたが、駅やホテルなど道外の人が出入りする空間に設置される動きがみられ、観光客が目にする機会も今後増えていきそうな気配。そして旭川家具が使われている店や施設は、街への誇りと愛情があり、自分たちの扱う商品へもこだわりを持っていることが多いように感じました。このように、各所でセンスよく使っている様子を見ていると、実際に家具を作っている現場にもにわかに興味が湧いてきます。次はいよいよ「第5回 旭川デザインウィーク2019」で家具工場の見学に行ってきます!

【工場もぐるぐる見比べて 「旭川デザインウィーク」(後編)】へ続く>>

星野リゾートOMO7旭川
https://omo-hotels.com/asahikawa/
北海道旭川市6条通9丁目

Japacheese asahikawa(ジャパチーズアサヒカワ)
https://www.facebook.com/Japacheese-asahikawa-1103808946295998/
北海道旭川市7条通7丁目33-69

福吉カフェ 旭橋本店
https://www.fukuyoshicafe.com
北海道旭川市常盤通2丁目1970-1

せんとぴゅあⅠ
0166-74-6801
北海道東川町北町1丁目1番1号

せんとぴゅあⅡ
0166-82-4245
北海道東川町北町1丁目1番2号

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PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 江澤 香織

    ライター。旅、食、クラフトなどを中心に執筆。
    著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド・ビッグ社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)。全国各地の酒蔵(ワイナリーやブルワリー含む)・酒場・酒文化をめぐるツアー「だめにんげん祭り」主宰。旅先での町歩きとハシゴ酒、珍スポット探し、ものづくりの現場探訪がライフワーク。チョコレート、お茶、発酵食品にのめり込む傾向あり。

風鈴回廊を歩き、鯛を釣り、渦を食べる  川越氷川神社で過ごす夏

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工場もぐるぐる見比べて 「旭川デザインウィーク」(後編)

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