あの街の素顔

工場もぐるぐる見比べて 「旭川デザインウィーク」(後編)

「家具の街」として知られる北海道旭川市と、お隣の東川町や東神楽町。センスあふれるブランド家具の見本市「旭川デザインウィーク」をこの夏訪ねてきました。なんとメーカーの工場見学も可能なのです! ものづくりの現場で感じた、旭川家具の魅力とは?
(文・写真 江澤香織 トップ写真は「TIME & STYLE」提供)

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「旭川デザインウィーク」(以下ADWに省略)とは毎年6月に開かれる、旭川家具を中心とするデザインの見本市。業界向けの「旭川家具産地展」を2015年に名称変更し、広く一般の人が楽しめるイベントにリニューアルしました。今年はその5回目。「クロスオーバー」をテーマに、人と人との出会いはもちろん、自然やデザイン、空間、食といった様々な要素が行き交う場を目指しました。

まずはメイン会場である「旭川デザインセンター」へ。ここは通常、旭川家具のショールームとして約30社の商品が展示されていますが、ADW会期中は、アーティストによるインスタレーションやトークショー、家具好きなら誰でも参加できるパーティーなどがあります。

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「旭川デザインセンター」会場内の様子

今回のスペシャルインスタレーションは、東京・銀座の商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」を手がけたフランス人インテリアデザイナー、グエナエル・ニコラ氏によるもの。デンマークの「クヴァドラ」社のカラフルなテキスタイルを使い、旭川の自然から得たインスピレーションを独自の世界観で表現していました。表情豊かな色彩のグラデーションで作られた布のトンネルはインパクトがあり、森の中をさまようような感覚で、くぐっていくのが楽しいアートです。

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グエナエル・ニコラ氏によるインスタレーション(写真提供:旭川家具工業協同組合)

ものづくりの現場を体感する「オープンファクトリー」

ADW一番の目玉は工場見学「オープンファクトリー」です。旭川市と東川町、東神楽町にある家具メーカーが行っています。普段入れないスペースを見せてくれたり、家具作りの工程を体験できるワークショップを開いたりするメーカーもあります。カフェ、ジンギスカン、打ちたてのそばなど、趣向を凝らしたこの期間だけの飲食スペースも登場。工場間の移動にはシャトルバスやシャトルタクシーがあり、3日間乗り放題のチケットも販売されていました。

ADW会場ではマップ付きのガイドブックを配布しているので、まずはそれを熟読して行きたい場所を決め、ルートを考えるのがおすすめです。旭川デザインセンターで見て気に入った家具の工場へ行ってもよいでしょう。訪ねた工場をいくつかご紹介します。

小泉誠デザイン、「箱の可能性を探る」がテーマの「大雪木工」

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箱の可能性から生まれた新作の家具(写真提供:大雪木工)

「大雪木工」は、デザイナーの小泉誠氏を中心に、北海道の森の持続可能性を考え、地域の特色を生かした、生活に寄り添うものづくり「大雪の大切プロジェクト」を2016年から続ける会社です。あまり家具材にされてこなかった軽くて持ち運びしやすいハンノキを活用しています。たんすや戸棚に使われる突き板(薄くスライスした木材)を芯材に貼り合わせる高度な技術を持つ数少ない会社です。

工場では、突き板を貼る巨大アイロンのような機械を動かし、職人が微細にチェックをするなど、実際の作業を見ることができました。手仕事と最新技術をバランスよく使い分けていることも、このメーカーの特徴といえます。

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突き板貼り合わせのチェックについて説明しているところ

シンプルで用途を特定しないデザインが、ここの家具の持ち味。2019年は“入れる「匣(はこ)」から、入る「箱」へ。” をテーマに、ものを入れる家具でありながら、人間が入ってしまう空間でもあるという、新しい表現を追求した展示でした。資材置き場の古い建物に新作家具をディスプレー。箱形家具へ入ってみると、すっぽり包まれる程よいフィット感で、猫になったような不思議な居心地の良さがあります。

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資材置き場をギャラリーに見立てて新作家具を展示

大雪木工のすぐ隣には家具メーカー「TIME & STYLE(タイムアンドスタイル)」があります。まったく違う雰囲気の家具を作っているので、見比べてみると面白いです。

丸太から切り出して作る、洗練された家具「TIME & STYLE」

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「TIME & STYLE」の家具(写真提供:TIME & STYLE)

上品でスタイリッシュなデザインに定評ある「TIME & STYLE」ですが、北海道の四つの地域から丸太を仕入れ、製材から自社で手がける唯一の会社と聞いて驚きました。スタッフ全員で100年以上育った木の年輪を数え、樹齢以上に使える家具作りを目指しているそうです。木目の表情を大切に、突き板と無垢(むく)材それぞれの良さに配慮、境目が分からない美しいハイブリッド家具の製作を得意としています。

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「TIME & STYLE」の工場内の様子

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建物の裏には丸太がゴロゴロ。スタッフが苦労して数えた樹齢が記されている!

「TIME & STYLE」がこの地にある大きな理由の一つは、材料が豊富なこと。北海道には知られていない道産材が実はたくさんあるそうで、大手は手を出せない、少量の良質な材料を調達し、長距離輸送を減らす目的があります。旭川には専門の職業訓練校があり、優秀な人材が多く見つかることも、品質の高さを後押ししているそうです。

一つの家具を、一人の職人がつくる 「北の住まい設計社」

「北の住まい設計社」は、東川町にある家具メーカーの中でも、一番奥地といわれる森の中にあります。旭川市内からは車で30〜40分。

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「北の住まい設計社」の家具(写真提供:北の住まい設計社)

行きづらい場所にもかかわらず、常に多くの客でにぎわっていました。理由は行くとよくわかります。絵本の中にいるような牧歌的な風景! 森と花畑に囲まれ、素朴で愛らしい建物が点在しています。工場とショールームのほかに、雑貨店、カフェ、ベーカリー、食材店などがあり、お茶を飲んで、買い物もして、ここで一日のんびり過ごしたいと思わせる魅力的な場所でした。

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「北の住まい設計社」のショールームと雑貨店が入った建物

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別棟にあるカフェスペースでは、地元の野菜をふんだんに使った料理を味わえる

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雑貨店の様子。自社の家具が使われている

工場は築90年を超える古い小学校の校舎を修復して利用しています。げた箱や黒板が残されたままで、ノスタルジックな風情があります。ここの家具は、イタヤカエデ、ミズナラなど100%北海道産の無垢材で作られます。自社で管理して乾燥させるため、防虫剤、防腐剤などは使いません。木くずは農家が肥料にするそうです。一つの家具を一貫して一人の職人が製作。出荷まで時間はかかるけれど、職人の名が刻まれた家具には手仕事の誇りが感じられます。ヨーロッパの田舎を思わせるシンプルで温かみあるデザインも特徴的です。

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旧小学校を利用した工場。面影が随所に残っている

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工場というより工房のたたずまい

すご腕若手職人が集う新メーカー「GAUZY CALM WORKS」

「GAUZY CALM WORKS(ガージーカームワークス)」は、30代以下の若い職人が集うメーカー。主に北海道産のナラ材を使い、米国西海岸のカフェにでもありそうな、木の質感を生かしたモダンなデザインの家具を作っています。2019年春に新しくできたショールームは、築48年の一軒家をリノベーション。住宅街を歩くと、突如スタイリッシュな建物が出現します。

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GAUZY CALM WORKSの家具(写真提供:GAUZY CALM WORKS)

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まだオープンしたばかりのショールーム

少し離れたところにある工場は、今まで見てきた家具メーカーと比べるとやや小規模ですが、フレンドリーな雰囲気と、独特の臨場感がありました。若手ながら腕のある職人がそろっているそうで、代表の木村亮三氏をはじめ、「技能五輪全国大会」(23歳以下の若手技能者のレベル日本一を競う大会で、職人のオリンピックとも呼ばれる)で優勝した職人が3人輩出したそうです。

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工場内の様子。若い人たちがキビキビと働いている

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工場内の事務所があまりにおしゃれだったので撮影。自社の家具を使っている

見学したどの工場もスタッフが同行し、1時間くらいかけて丁寧に説明してくれました。ADW期間外に見学できる工場もあります。現場を訪ねると、職人の華麗なる手さばきを間近に見ることができ、ものづくりへの熱い思いが感じられ、新鮮な驚きと発見に終始ワクワクしました。

最新のテクノロジーを要所で使いながらも、職人の手仕事もしっかりと継承し、旭川家具というブランドに恥じない技術をひしひしと感じました。環境に配慮した視点を持つ企業が多く、北海道産の材料を使い、木の質感を生かしたナチュラルなデザイン。まるで森の中にいるようなリラックスした気持ちにさせてくれる、上質な癒やしの家具にたくさん出会いました。

旭川デザインセンター
http://www.asahikawa-kagu.or.jp
北海道旭川市永山2条10丁目1-35

大雪木工
http://www.taisetsu-mokko.co.jp
北海道上川郡東川町北町413-2
工場併設のショールームは見学可

TIME & STYLE FACTORY
https://www.timeandstyle.com
北海道上川郡東川町北町4-13-2
工場見学可(要事前連絡)

北の住まい設計社 東川ショールーム
http://www.kitanosumaisekkeisha.com
北海道上川郡東川町東7号北7線
工場見学可(要事前連絡)

GAUZY CALM WORKS
http://gauzycalm.com
北海道旭川市豊岡2条5丁目3-7
工場見学は自由(事前連絡で案内も可)

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 江澤 香織

    ライター。旅、食、クラフトなどを中心に執筆。
    著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド・ビッグ社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)。全国各地の酒蔵(ワイナリーやブルワリー含む)・酒場・酒文化をめぐるツアー「だめにんげん祭り」主宰。旅先での町歩きとハシゴ酒、珍スポット探し、ものづくりの現場探訪がライフワーク。チョコレート、お茶、発酵食品にのめり込む傾向あり。

北海道・旭川は上質な家具の街だった! 「旭川デザインウィーク」(前編)

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