永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(22) ニューヨークの地下鉄は美しい! 永瀬正敏が写真に切り取った

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回はニューヨークの地下鉄です。久しぶりに乗った車両で永瀬さんが感じた、意外な印象とは。

(22) ニューヨークの地下鉄は美しい! 永瀬正敏が写真に切り取った

© Masatoshi Nagase

ニューヨークの地下鉄って、照明の照り返しも含めて、こんなにきれいだっただろうか。意外な心持ちがして、思わずシャッターを切った。2015年のこと。撮影させてもらう人のお宅や事務所に行く途中か帰りか、あるいは、ご飯を食べたあとか。いずれにしても、随分きれいだなと思ったことを、鮮明に覚えている。

かつてニューヨークの地下鉄といえば、危険な場所の代名詞みたいな印象があった。僕がはじめてニューヨークで4カ月ほど暮らした1990年は、車両も駅も落書きだらけで、車両もどこか薄暗かった。けれど、この時はまったくそんな感じではなかった。25年ほどたったとはいえ、こんなに変わってしまうものかと、驚いた。

あのころは、トークンと呼ばれるコインのようなものを改札機に入れて乗った。僕がいた場所の最寄りだったキャナルストリート駅にはまだ銃弾の跡があった。駅のトークンの売り場では、小さな穴がいくつもあいたガラスの向こうに、女性の職員が座っていた。ガラス越しじゃないと危険だったのだろう。

改めてこの写真をみると、いかにもニューヨークの地下鉄だな、という雰囲気はそのままだ。いろいろな人種や国籍や表情の人が乗りあわせているところが。ひょっとすると、僕がこの時感じたのは、車両の清潔さや安全さだけではなく、そういうニューヨークの多様性も含めての美しさだったのかもしれない。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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