あの街の素顔

沖縄で薬膳、ヴィーガン料理 体を気遣う島ごはんを訪ねて

独特の力強さがある沖縄の島野菜。その個性を生かしつつ、体にやさしい料理を追究する現地のお店を、食文化ジャーナリストで薬膳アテンダントでもある池田陽子さんが訪ねました。歴史の積み重ねを体現した沖縄流薬膳と、無農薬野菜を用いたヴィーガン料理。味わいの秘密とは。

島野菜軸に食養生 沖縄流薬膳「がらまんじゃく」

沖縄で薬膳、ヴィーガン料理 体を気遣う島ごはんを訪ねて

金武町の住宅街にある「がらまんじゃく」は、沖縄の昔ながらの古民家

金武町にある「がらまんじゃく」は、沖縄の野草の研究をライフワークとする山城清子さんが営む「沖縄流薬膳料理」のお店だ。

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心地よい風が吹き抜ける畳敷きの店内。医食同源に興味をもち、海外から訪れる人も多い

たとえば、「がらまん定食」は、日によって内容は異なるが、おおむね50種類以上の食材が使われているという。どの料理もひとつひとつ、口にするたび、強い印象を残す。

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「がらまん定食」。多彩な料理は味付けもひとつひとつ異なり、食べる楽しさにあふれている。名物「5色ごはん」はすべて「天然の色」。藍やウコンなどの発酵液を使って炊き上げることで、鮮やかな色に

しょうゆと黒糖で煮たゴーヤーはほんのり、日影を感じるおだやかな味わい。スライスした島ニンジンとサクナの炒め物は甘みと苦みのコントラストに、イーチョバー(ウイキョウ)のスパイシーな風味が陽炎のように香り立つ。スライスして炒めたウコンは心地よいほろ苦さ、雲南百薬の葉はゆでてにんにくとあえ、濃い味わいと粘りが印象的。むかごの部分は、どっしりとした土の重みを感じる。

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山城清子さん。40年にわたって琉球宮廷料理、薬膳、薬草を研究してきた

「味付けに使うのは、塩、みそくらい。いたって調理法もシンプル。難しいことはしていないわよ」と山城さんは語るけれど、ひとつひとつ、島野菜それぞれの味わいを引き出すためのていねいな下ごしらえ、調理には膨大な時間を要するという。

医食同源が根付く土地

沖縄は歴史ある薬膳の地。19世紀前半には、中医学を学んだ琉球王府の御殿医、渡嘉敷通寛が、食療法を説いた『御膳本草』を著している。

「沖縄には医食同源の考え方がしっかりと根付いています」と山城さん。その食養生を支えるのが沖縄ならではの島野菜。ゴーヤー、島ニンジン、島ラッキョウ、サクナ(長命草)、ニガナ(ホソバワダン)、フーチバー(ヨモギ)など、独特の濃く強い味わいが特徴だ。

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さまざまな薬草で覆いつくされた庭。山城さん自らコツコツと植えて作り上げた「魔法の庭」だ

そして沖縄の「薬草」。山城さんが太陽の日差しが降り注ぐ、鮮やかな緑に覆われた庭を案内してくれた。「あれは雲南百薬(オカワカメ)。『百の薬にも勝る』として、『生き返りの薬草』といわれます。これはノニ(ヤエヤマアオキ)、そしてツボクサ。イシャナカシグサ(コヘンルーダ)は神経痛にいいわね。ここにあるものは、ほとんど薬草なのよ」。消化促進によいイーチョバー、不眠によいクヮンソウ(金針菜)……。生薬として使われる植物もあちらこちらに生えていることに驚く。スパイスの北限ともいわれる沖縄ならではだ。

「インドのアーユルヴェーダで使われるものはほとんど沖縄にあるそうです。アジア各国との長い交易の歴史から、本土にはない食材が沖縄にはあるんです」

沖縄が有しているのは、食材だけではない。「中国医学の理論だけではなく、沖縄には代々受け継がれてきた知恵があります」と山城さんは続ける。「たとえばホオズキは血圧降下にいいわね。それと、食べ方も大切です。炎症があるときはゴボウやナスは控えたほうがいいのよ」。どれも祖母の代から脈々と受け継がれてきた教えだ。

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料理の盛り付けに使われるのは、庭に生えている「月桃の葉」。抗菌作用があり、餅菓子「ムーチー」を巻く葉としても知られている

山城さんはもともと、宮廷料理を極めるべくその腕を磨いてきた。食材の持つ薬効に傾倒するようになったのは2009年、知人の息子が13歳で突然、心臓発作を起こして亡くなったことがきっかけだった。命のはかなさにショックを受け、自分にできることはなんだろう、と考えたときに、「食の大切さ」を伝えることではないか、と思い至った。

それから『御膳本草』などの古文書を読み込み、沖縄の薬草、特有の食文化について探求を重ね、「命を育む料理」を追究していった。

次世代に伝えたい食の知恵

山城さんは沖縄が近年、長寿県ではなくなりつつあることを憂えていた。「もともと、沖縄ではそんなに肉は食べていませんでした。野菜、芋、豆腐などがメインです」

沖縄で大切にされていた食の知恵が忘れられていることを懸念し、それを次の世代に受け継ぎたいという思いもあった。

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イシャナカシグサ、ノニ、ツボクサなど庭に生えている薬草を使った「野草のジュース」。暑さがすうっとひいていく爽やかなほろ苦さ

がらまんじゃくの献立において、山城さんが重要視しているのは「解毒」だ。えてして栄養過剰気味な現代人。薬膳においては「酸、苦、甘、辛、鹹(かん=塩味)」の「五味」を生かして体を調整するという考えがあり、苦味は、解毒の作用をもつとされている。苦みのある沖縄の野菜は、うってつけだ。

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解毒、滋養強壮によい旬の野菜と薬草を煎じて昆布だし、しょうゆで味付けした「毒出しスープ」。じんわり身体にしみるおいしさ

山城さんは無農薬、そして「原種」にこだわった島野菜と庭で育つ薬草などを使いこなし、身体を気遣う料理を提供する。メニューは驚くほど色鮮やか。黄色、紅色、だいだい色、藍色、萌黄(もえぎ)色……。みずみずしい月桃の葉に盛り付けられた多彩な料理は、沖縄の伝統的な染め物「紅型(びんがた)」を思い起こさせる。山城さんの「美しく、誰もが食べたくなる料理を」という思いがこもる。

沖縄の太陽が育んだ野菜が、山城さんの思いを受けた料理に。口にすると、全身が躍動するような心持ちになる。

無農薬島野菜でヴィーガン料理 「浮島ガーデン」

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国際通りから1本入った路地にある「浮島ガーデン」。古民家をリノベーション

那覇市の「浮島ガーデン」は無農薬の島野菜を使ったヴィーガン料理の人気店。オーナーの中曽根直子さんが、自身の体調不良をきっかけにマクロビオティックを実践、元気を取り戻したことをきっかけにオープンしたお店だ。

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心地よい開放感のある店内。店の奥には緑あふれるガーデンも

肉や魚など動物性食材を使用しないヴィーガン料理の「味気ない」というイメージを覆す、イタリアン、フレンチ、エスニックなどのエッセンスを取り入れた創作料理の数々を提供している。

「沖縄の島野菜は、強い日差しという過酷な環境で育ちます。本土にある野菜に比べて驚
くほど味が濃く、力強さがあります」と語るのは店長の伊東伸浩さん。福島県出身、もともとはフレンチのシェフだ。

島野菜の個性を生かそうと試行錯誤

島野菜の個性をしなやかに使いこなすには技がいる。「ニンジンひとつとっても、本土のものとは味が違います。メニュー開発において試作した料理がイメージした味わいとは別物になってしまい、とまどうこともありました。試行錯誤の連続でしたね」

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沖縄県産の自然栽培、または無農薬有機栽培の野菜と穀物を使用し、肉、魚、白糖、乳製品は一切不使用。ユダヤ教徒のコーシャ、イスラム教徒のハラールなどにも対応

浮島ガーデンのメニューには粟、きび、あずき、麦、赤米の沖縄県産五穀がふんだんに使われているのも大きな特徴だ。かつては多く生産されていたが、戦後、生産者は激減。「栄養価の高い五穀は沖縄の長寿を支えてきた食材。また食用としてだけではなく神事の際に、欠かせない供え物でもあります。わたしたちは生産者を支えるという意味でも積極的に使用しています」

「島野菜、五穀のよさを生かしながら、味に深みのあるヴィーガン料理を作り上げるためには、ひしおやみそなど発酵系調味料の使い方がポイントになります」と伊東さん。

野菜と調味料がぶつかり、重層的なうまみ

食べてみるとその意味がわかる。沖縄の野菜と調味料のぶつかり合い。それは体験したことのない「幾層にも重なる」うまみを醸し出している。

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「無農薬島やさい達のバーニャカウダ」。ハンダマ、マルオクラ、ツルムラサキなど、どれも濃い味わい。パプリカもインゲンもしっかりした風味

波照間島産もちきびに、ひしお、酒粕、豆乳を加えて作られた「バーニャカウダ」を添えた島野菜のサラダは、ゴーヤー、ツルムラサキ、マルオクラなどそれぞれの輪郭の強さを、マイルドに、エレガントな味わいで楽しめる。

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「島豆腐のベジタコライス」。島豆腐と個性的な島野菜が生み出す奥行きのある味わいに驚く

大人気のメニュー「島豆腐のベジタコライス」は、じっくり炒めて水分をとばした島豆腐で作った「タコミート」を使用。ゴーヤー、モロヘイヤ、ニンジン、ハンダマなどたっぷりの島野菜とともに、みそ、しょうゆなどを加えて煮込んだ特製のサルサソースとともに味わう。肉を使っていないにもかかわらず、濃厚で豊かなコク。ほんのり残る島野菜の、粘りとほろ苦さが味をキリリと引き締め、うまみを際立たせるアクセントになっていた。

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上から時計回りに、泡盛の酒粕を使った「キャロットラペ」、波照間島産もちきびの甘みが生きた「もちきびポテト」、沖縄の海藻「モーイ」で島野菜を寄せた「モーイ豆腐」

これまで沖縄で食べてきた島野菜の料理は「てんぷら」や「チャンプルー」が中心だった。「強い個性を強いもので消す」。そんな調理法のものが多かった。それはそれでおいしい。

しかし、今回食べた「強さをたおやかに」扱う技が駆使された料理は、これまで体験したことのない味わいのグラデーションと意外なほどの優しさにあふれていた。

食べ進めるたびに、忘れていた何かを思い出すような心地よい刺激とおだやかな余韻。身体が確かに覚醒(かくせい)していく豊かな食体験をぜひ。

■がらまんじゃく
http://garamanjaku.okinawa/

■浮島ガーデン
https://ukishima-garden.com/

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 池田 陽子

    薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。
    宮崎生まれ、大阪育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは?という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。著書に『​ゆる薬膳。』(日本文芸社)、『缶詰deゆる薬膳。』(宝島社)、『サバが好き』(山と渓谷社)、『「サバ薬膳」簡単レシピ』(青春出版社)など。

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