京都ゆるり休日さんぽ

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。

きびしい残暑の合間に、ふとよぎる秋の気配。和菓子の意匠、初秋の味覚、着物の色など、京都の人々は日々に半歩先の季節を取り入れることで文化を育んできました。今回は、季節や自然を色に映す草木染の着物ブランド「アトリエシムラ」の京都本店へ。色と織りで表現された作品の数々からは、季節の風景を垣間見ることができます。

命の色をいただくことで生まれる色彩

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

昭和初期のレトロな洋館ビル「壽(ことぶき)ビルディング」の一室。クラシカルな内装に作品が並ぶ

紬(つむぎ)織の重要無形文化財保持者(人間国宝)として知られる志村ふくみさん。その娘で、ゲーテルドルフ・シュタイナーといった人たちが唱えた色彩論を取り入れ、独自の染織の世界を築きあげた志村洋子さん。それらの芸術精神を継承するブランドとして、ふくみさんの孫・志村昌司さんが「アトリエシムラ」を立ち上げました。「しむらのいろ」と称される志村流の染織の美を、身近に感じることのできるギャラリー&ショップが「アトリエシムラ 京都本店」です。

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

お茶道具としてはもちろん、インテリアにも使える帛紗(ふくさ)。繊細なグラデーションや格子模様は、糸だけで表現されているとは思えぬほど

クラシカルなビルの一室に並ぶのは、シムラの染織技術と思想を受け継ぐ織り手たちによる、ストール、裂(きれ)を使った小物、小裂を額装したアートピースなど、アトリエシムラの世界観が詰まった品々。もちろん、着物や帯、和装小物もそろいます。それぞれの作品に宿る、柔らかく、穏やかな色彩はすべて植物からいただいてきた自然の色。京都・嵯峨野の工房でさまざまな植物染料を使って糸を手染めし、すべて手機(てばた)で織りあげられます。

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

染料となる植物と染めた糸も展示されている

藍、桜、玉ねぎ、くちなし……。染色原料となる植物はどれも、古来より染料として用いられつつ、漢方や薬草としても重宝されてきたもの。植物から色をいただきそれを纏(まと)うことは、身を守り、厄を除(よ)ける意味合いもあったと、昌司さんは話します。

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

「アトリエシムラ」代表の志村昌司さん(右)と、京都本店・店長の横滝友貴さん

「桜で染める場合、花が咲く前の枝からでないと、ピンク色にはなりません。咲いた後では、花の色のエネルギーがすべて花に注ぎ込まれてしまっているからです。私たちは、命の色をいただいている。だからこそ、身に纏うことで大切なものに守られているような心持ちになれるんです」

自然を纏う、文化を纏う。和装の喜びを伝えたい

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

最高級のオーガニックコットンと絹を混紡した糸を使った「色合わせストール」(各45,360円・税込み)

洋装が日常着となった今、和洋どちらの装いにも使えるストールは人気の品。名刺入れや数寄屋袋など、紬織(つむぎおり)の風合いが生きた小物も小さなアートを持つような楽しみがあります。手頃な作品から草木染と紬織の美しさにふれてほしいという願いとともに、アトリエシムラが伝えていきたいのは着物を纏う喜び。伝統柄の「写し」が多い着物の世界で、経(たて)糸と緯(よこ)糸の交差が織りなす抽象画のようなアトリエシムラの着物は、着こなし次第でハレにもにも応用できます。

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

数寄屋袋や名刺入れなど、まずは小さな作品からアトリエシムラの工芸を取り入れても

「ふくみ先生は『着物には、日本の文化がすべて詰まっている。それが衰退するということは、(日本人が)自ら日本文化を手放していることになるのよ』とおっしゃっていました。大切な時に思いのこもった着物を着る。何度も着て、自分の肌のようになっていく、と」。店長であり、自身もアトリエシムラの織り手として制作する横滝友貴さんはそう言います。

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

奥の座敷では着物の試着や帯、小物のお見立ても。9月14日(土)〜16日(月・祝)は「着物の日〜新作のお披露目会」を開催

蚕繭(さんけん)から糸が紡がれ、植物の色をいただき、人の手で織り上げられる。そうした工程を経て仕立てられた着物は、動物・植物・人間の力が一体となった、この世界の美の結晶です。織り重ねられた糸の連なりは、夕暮れの空を、朝もやの色を、落ち葉積もる土や光にきらめく水面を、眺めるたびに違う景色を想像させてくれます。

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

着物を仕立てた残りの裂を額装してアートピースに

自然の色と生命の循環を宿す着物は、“一生もの”では終わらず、世代を超えて受け継ぐことができるもの。まずは、アトリエシムラの色と織りが映し出すたおやかな美の世界に、小さな裂の1ピースからでもふれてみてください。自然の色の懐の深さとものづくりの物語を知ることが、日本文化への新しい扉を開いてくれるかもしれません。(撮影:津久井珠美)

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

ショップでは展示やトークイベント、嵯峨野では染め・織りを体験するワークショップなども開催されている

アトリエシムラ 京都本店
https://www.atelier-shimura.jp

BOOK

草木染と手織りが生み出す「アトリエシムラ」の風景のような着物

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。

 

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PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告、家族写真など、多岐にわたり撮影に携わる。

コーヒーの生産地を旅するように。カフェ「旅の音」で甘い一杯を

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