高畑充希さんのニューヨーク 日本ってちっちゃいなと思えた場所
文: 旅する著名人
いつもと違う場所で風に吹かれた経験は、折に触れて思い出すもの。そんな旅の思い出を各界で活躍するみなさんにうかがう連続インタビュー「心に残る旅」。第10回は俳優の高畑充希さんです。
(聞き手:&TRAVEL副編集長・星野学、写真・高嶋佳代)
うまくコーディネートできて達成感

――これまでに最も心に残った旅を教えてください。
「1人旅デビューをした、昨年はじめて行ったニューヨークです。旅は好きですが、いつも家族と旅行に行っていたので、ひとりで行ってみようと思って。1週間くらいの旅でしたが、航空券も宿も、どれがいいか自分で調べて予約して。自分で手配をしたことがなかったのでどきどきでしたけれど、自分で見つけたところがすごく過ごしやすく、立地もよくて、うまくコーディネートできた達成感がありました」
――ニューヨークを行き先に選んだ理由は?
「ブロードウェイのミュージカルの舞台を見たいという明確な目的があったので、たくさん見ました。舞台のチケットを買うために電車であちこち回るのも楽しくて。困っても誰も助けてくれない状況に飛び込む怖さはありましたが、楽しさが勝って、デビューしてよかったなと思っています」
日本ってちっちゃいな、と思える場所
――高畑さんもミュージカルへの出演経験がありますね。ブロードウェイはどんな存在ですか。
「日本ってちっちゃいな、と思える場所と言いますか。世界中から舞台に立ちたい人が集まり、その中の本当に上位の人しか出られない世界ですから、舞台の端の端までクオリティーが高い。日本の場合、歌が歌えます、お芝居をしていますと、分野ごとに考えがちですけれど、向こうは歌もダンスもお芝居もできる人ばかりなので。あと、お客さんのテンションがすごく高いんです。声も出すし立ち上がるし、悪役にブーイングしたり。それがすごく楽しかったです」

――はじめての1人旅で、何かご自分に変化はありましたか。
「日本にいると、お仕事が忙しいこともあって、好奇心の赴くまま動く機会がプライベートですごく減ります。私は寄り道が好きなんです。何だろうこの店、と入ってみたりとか、この道どこまで続くんだろう、と行ってみたりとか。でもこの仕事を始めて、良くも悪くも無駄な時間が減り、時間に追われる生活が数年続いていました。ニューヨークに滞在中は何もしなくてもいいし、何をしてもいい。誰も私のことを知らないし、連れもいないから予定を合わせる必要もないので、やりたいことがいっぱい出てきて。いっぱい調べて自分の足で色々な所に行き、忘れかけていた、好奇心のまま動くのが一番幸せ、ということを思い出しました」
――思わぬ発見はありましたか。
「ニューヨーカーの友達ができました。ひとつ年下のオイスターバーの店員さんで。そのお店でカキを食べていたら、その人が日本好きだったこともあり、声をかけてくれたんです。日本人の私より日本の知識や文化に夢中で、ちょっとオタクっぽい人(笑)。その人が日本へ旅行に来たときも、一緒に実家に遊びに行ったりとか」
映画『引っ越し大名!』はサラリーマン活劇

映画『引っ越し大名!』からⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会
――旅といえば、出演された8月30日公開の映画『引っ越し大名!』は旅の映画です。江戸時代の松平家が兵庫の姫路から大分の日田まで丸ごと引っ越す、いわば巨大な旅を描いています。演じたのは、前の引っ越し奉行の娘で、父からノウハウを伝授されている於蘭(おらん)。今回の引っ越し奉行という白羽の矢を立てられた、星野源さん演じる片桐春之介を助ける役で、現代で言うなら、ツアーコーディネーターでしょうか。
「時代劇ではあまり見たことがない役で、珍しいという印象がすごくありました。時代劇の経験が少なかったので、所作の先生にどんどん教わりながら基本的な所作を学ぶ日々でした」
「ただ、『引っ越し大名!』という作品は、時代劇という殻をかぶったサラリーマン活劇という印象があったので、時代劇であることに囚(とら)われすぎず、人対人の関係の中で演じていけたらいいなと思ってました。時代劇だけどポップなコメディーで、周りのみなさんの背中を見て、ついていく感じに近かったですね」
――於蘭は春之介の姉さん女房になる、という設定です。星野さんと演じたシーンで印象に残ったものは?
「すごく楽しかったのはプロポーズされるシーンです。どんな感じになるか想像せずに現場に行ったのですが。2人の心が通じるシーンはそこまではあまりなくて。あの場面に、2人の関係は集約されていた気がします」

映画『引っ越し大名!』からⓒ2019「引っ越し大名!」製作委員会
――馬で於蘭が駆けつけるシーンがあります。かなりのスピードでしたが。
「あの場面はほぼ意識がなかったというか、半分気を失っている感じです(笑)。普通に馬を走らせる練習は何度かしたんです。でも、あの場面を撮影する直前、『お尻を上げて乗る騎手の乗り方にします』と、やったことのないことを突然言われて。ここまで来たら無理ですとは言えないなと思って、『1回やってみます』と言ったその回が本番になってしまった。奇跡のワンカットです」
「馬もすごく興奮していて、鼻息がばっと出て、今にも川に飛び込みそうな雰囲気で。ああ、私落ちるなあって覚悟したんです。よく無傷で終わったなと思います(笑)」
大切なこと、海外だとシンプルに見えてくる

――振り返ってみて、あの映画はどんな旅でしたか。
「個人としては、霧の中を進んだ、手探りの旅でした。源さんとか共演の方が命綱で、ずっとそこをつかんでいた感じです。1人では駆け抜けられなかったものを、共演のみなさんのおかげで最後まで楽しく過ごすことができました」
――立ち返って、ニューヨークでの経験は、高畑さんにどんな影響がありましたか。
「視野は広がったと思います。日本にいると、いろんな情報に振り回されることが多くて。大切なことと大切じゃないことは、よほど目を凝らしていないと区別がつけられないほど情報が多いから。海外にいくと、本当に自分が大切にしたいことが、もうちょっとシンプルに見えてくる感じがするんです」
――俳優として、今やっていきたいことは何ですか。
「仕事の目標をたてたことがないんです。その時興味が出たものに夢中になれたらいいかな。1年後、何に興味があるかわからないし。仕事もそのときそのときの気持ちや熱量に従順でいられたら、と思っています」

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