永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶
人間の影が焼き付いた? 永瀬正敏が撮ったパターソン
文: 永瀬正敏
国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は米国の街パターソン。同名の映画の撮影で初めて訪れ、カメラに収めた不審な影とは。

© Masatoshi Nagase
とても気持ちのいい林の中を歩いていたら、水の音が聞こえた。音のする方へ目を向けると、壁に焼き付いた人の影のようなしみの、帽子のてっぺんのようなところから、水が流れ出ていた。変な落書きもあって、これもまた一つの情緒だなあと、カメラに収めた。
ジム・ジャームッシュ監督の映画「パターソン」の撮影期間中、タイトルにもなっているアメリカ・ニュージャージー州のパターソンという街で撮った。監督から「会いたい」と連絡があり、自分の撮影の出番がある前の日にロケ地へ出かけた。監督と別れたあと、ちょっと近くをぶらぶらしていたときに見た光景だ。
パターソンは初めて行く街だった。ここに突然現れる日本の詩人が、僕の役。滝の近くで、アダム・ドライバーさん演じる主人公と話をする。詩人はきっと、滝に行く前に、たぶんこうしてあちこち見て回ったんだろうなと感じながら、歩いていた。
場所を勉強するのではなく、感じていたいと、いつも思う。知識として蓄えることは大切だが、表現するという仕事は、それだけではないから。ジャームッシュ監督もそういうことを大事にする人だと、作品を見るたびに思う。