永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(23)人間の影が焼き付いた? 永瀬正敏が撮ったパターソン

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は米国の街パターソン。同名の映画の撮影で初めて訪れ、カメラに収めた不審な影とは。

(23)人間の影が焼き付いた? 永瀬正敏が撮ったパターソン

© Masatoshi Nagase

とても気持ちのいい林の中を歩いていたら、水の音が聞こえた。音のする方へ目を向けると、壁に焼き付いた人の影のようなしみの、帽子のてっぺんのようなところから、水が流れ出ていた。変な落書きもあって、これもまた一つの情緒だなあと、カメラに収めた。

ジム・ジャームッシュ監督の映画「パターソン」の撮影期間中、タイトルにもなっているアメリカ・ニュージャージー州のパターソンという街で撮った。監督から「会いたい」と連絡があり、自分の撮影の出番がある前の日にロケ地へ出かけた。監督と別れたあと、ちょっと近くをぶらぶらしていたときに見た光景だ。

パターソンは初めて行く街だった。ここに突然現れる日本の詩人が、僕の役。滝の近くで、アダム・ドライバーさん演じる主人公と話をする。詩人はきっと、滝に行く前に、たぶんこうしてあちこち見て回ったんだろうなと感じながら、歩いていた。

場所を勉強するのではなく、感じていたいと、いつも思う。知識として蓄えることは大切だが、表現するという仕事は、それだけではないから。ジャームッシュ監督もそういうことを大事にする人だと、作品を見るたびに思う。

PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に石井岳龍監督「パンク侍、斬られて候」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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