魅せられて 必見のヨーロッパ

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

ツアーの行き先としてはあまりメジャーではないけれど、足を運べばとりこになってしまう。そんなヨーロッパの街を、ヨーロッパを知り尽くした作家・写真家の相原恭子さんが訪ねました。今回はノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセゆかりの街、ドイツ・テュービンゲン。現地では「遅れてきた人」ともみられているそうです。なぜなのでしょう。

500余年の歴史を持つ大学が

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

ネッカー川が流れる美しい大学街

ドイツのフランクフルト空港駅から電車に乗り、シュトゥットガルト駅で乗り換え、2時間余りでテュービンゲン駅に到着。長旅の荷物を持って、その都度駅で切符を購入するのは時間のロスが大きいですが、ジャーマンレイルパスを持っているとすぐに乗車できて便利です。

テュービンゲン駅から旧市街までは歩いて5分程度。ガイドのレーネルトさんによれば、エバーハルト・カール大学テュービンゲンは1477年に設立され、現在大学生は約2万8千人。留学生も多く、日本からの学生もいるといいます。

ヘッセが勤めた書店、今は資料館に

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

中央の赤い建物が元ヘッケンハウアー書店。「ヘッセ・カビネット」になっています

ノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセは旧市街にあるヘッケンハウアー書店で1895年から1899年まで、最初は見習い店員として、後に店員として働きました。書店の建物は現在、彼に関する資料や書籍を所蔵・展示する「ヘッセ・カビネット」になっており、誰でも見学できます。

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

入口にはヘッセのポートレート付きポスターが貼られていました

館内を案内するシュヴェリンクさんは「ヘッセの父親は厳格で保守的。息子を監視するかのようでした。ヘッセはテュービンゲンで親元を離れて精神的に独立し、『作家になりたい』と初めて自己認識し、将来の礎を固めました」と話します。展示品に、父親がヘッセに小遣い帳を付けさせ、支出に関して事細かく注意した手紙があり、そんな一端からも子供としては息苦しくなる気持ちがよくわかります。

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

たくさんの書籍、資料も展示

1946年、ヘッセはノーベル文学賞を受賞します。「アメリカや日本で高く評価されましたが、『車輪の下』に代表されるような自由を求める少年が周囲に受け入れられずに苦悩するというテーマは、ドイツ人にはすでに古く、当時はあまり注目されませんでした。その点ではヘッセは遅れて来た人、とも言えますよ」とシュヴェリンクさん。戦後のドイツは戦前とは考え方がガラリと変わり、子供の個性を尊重し、強制せずに自らの責任で判断する機会を与えて親は見守るという姿勢が当然であったと言います。

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

詩人として、小説家としてなど様々な角度からの展示があります

「今、日本へ書籍や資料を送りましたよ」と言いながらアルバイトの学生さんが話に加わりました。日本とは常に交流があるそうです。「日本では子供や若者が『個』を確立するよりも、周囲に受け入れられるべきだと考えて悩むそうですが、本当ですか?」と聞かれ、ドイツと日本では、人とのかかわり方が大きく違うのを改めて実感しました。

城と修道院の街、ベーベンハウゼン

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

ベーベンハウゼンの修道院と城

翌日、ガイドのレーネルトさんおすすめのべーベンハウゼンへ向かいました。テュービンゲン駅から路線バスで北へ約25分。緑に囲まれて木骨組の家々が並ぶ愛らしい街です。特に、城と修道院は見ごたえがあります。

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城壁に囲まれ、入口の門には塔がそびえています

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

左:中庭をとりまく回廊 右:回廊から中庭を眺める

12世紀にさかのぼる歴史のある修道院の回廊を歩くと、影を落とす日の光も神々しく感じます。

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

左:べーベンハウゼンの街 右:家の中だけでなく、外壁や外観、町内全体の景観にも気を配るドイツの人たち

伝統的な木骨組の家々が並ぶ小道を歩くと、気持ちが落ち着きリラックスできます。ガイドのレーネルトさんによれば、家々も庭も文化財保護の観点から守られており、新たな建造物を建てることはできないそうです。

ヘッセは遅れて来た作家? 修道院と城の街 ドイツ・テュービンゲン

何世帯もが入居しているアパートになっている家

古い建物ではあっても、元々堅牢に構築されており、合理的に内部は修繕されてヒーターやキッチン、水回りなどは新しくなっていますから生活に特に不便はありません。若い人も好んで移り住んでいるそうです。

ヘッセにおける「自由」と「自己の確立」や、こうした街並み保存に住民自身が熱心に取り組んで歴史的な建物を修復し続ける姿勢は、まさにドイツ的だと思いながら、テュービンゲンをあとにしました。

「ドイツ歴史古都17都市 /Historic Highlights of Germany」
http://www.historicgermany.travel/ja/

「レイルヨーロッパ」
https://www.raileurope-japan.com/

「テュービンゲンインフォメーション」(ドイツ語)
https://www.tuebingen-info.de/

「ヘッセ・カビネット」(ドイツ語)
https://www.tuebingen.de/hesse

「ヘルマン・ヘッセ」(ドイツ語、英語、日本語など)
https://www.hermann-hesse.de/ja

「べーベンハウゼン」(英語、ドイツ語)
https://www.kloster-bebenhausen.de/en/home/

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PROFILE

相原恭子(文・写真)

慶應大学卒業。ドイツ政府観光局勤務を経て、作家&写真家。「ドイツ地ビール夢の旅」(東京書籍)、「ドイツビールの愉しみ」(岩波書店)、「ベルギー美味しい旅」(小学館)、「京都 舞妓と芸妓の奥座敷」(文春新書)、「京都 花街ファッションの美と心」(淡交社)、英語の著書「Geisha – A living tradition」(フランス語、ハンガリー語、ポーランド語版も各国で刊行)など著書多数。国内はもちろん、国際交流基金・日本大使館の主催でスペイン、ハンガリー、エストニアで講演会や写真展多数。NHK「知る楽」「美の壺」、ラジオ深夜便「明日へのことば」「ないとエッセー」、ハンガリーTV2、エストニア国営放送など出演多数。
https://blog.goo.ne.jp/goethekyoko

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