クリックディープ旅

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。過去「12万円で世界を歩く」や「玄奘三蔵が歩いたルートをたどる旅」など過酷な?テーマのシリーズでお届けしてきました。

今回のテーマは「台湾の超秘湯旅」。10回目で栗松温泉を目指し険しい山道を歩いた下川さん。疲労困憊(こんぱい)で下馬の民宿に辿(たど)り着きました。11回目は、地図にない温泉を探しながら、紅葉温泉旅社に向かいます。

はたしてどんな秘湯や珍道中が待っているのでしょうか? もはや生き様ともいえる旅のスタイルや、ひょうひょうと、時にユーモラスに旅を続ける様子を温かいまなざしでお楽しみください。

【前回「栗松温泉から下馬へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅10」はこちら

(文:下川裕治、写真・動画:中田浩資)

轆轆温泉へ行くことができるのか。体力的な不安を抱えて朝を迎えた。

栗松温泉の翌日は轆轆(ルールー)温泉に挑むことになっていた。徒歩で片道5時間という長丁場。道もわかりづらく、ガイドをつけなければ危険だという。僕らの体力では日帰りは難しいようで、テント泊になるそうだ。

しかし台湾の猛暑と栗松温泉への険しい山道に体力を奪われ、はたして轆轆温泉に辿(たど)り着けることができるのか……という不安が頭をもたげてきていた。とにかくゆっくり寝ること。幸い、泊まった下馬民宿のある村は、標高が1000メートルを超え、暑さも遠のいていた。冷房を使わず、こんこんと寝た。そして朝……。

今回の旅のデータ

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

下馬から紅葉温泉旅社へ

台湾の民宿は、基本的に夕飯はつかないことが一般的だと思っていい。地方の民宿の宿泊代は500元から600元、約1850円から約2220円といったところだが、この金額に含まれるのは朝食のみ。なかには朝食がつかないこともある。下馬民宿のように周囲に食堂がない場合は、宿に併設した食堂がある。日本の旅館のようにおまかせ夕食。焼き肉、野菜炒め、焼き魚、スープにご飯でひとり200元、約740円だった。

長編動画

下馬民宿のテラスにカメラを固定し、山の朝の風景を。中央山脈にあたる朝日の色が少しずつ変わっていきます。

短編動画

この日の夕方に着いた紅葉温泉旅社の大浴場を。かつて日本の警察官の保養所宿だったとか。久しぶりに普通の温泉につかりました。

下馬から紅葉温泉旅社へ「旅のフォト物語」

Scene01

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

気持ちのいい朝だった。下界は朝の7時には気温が30度を超える日々だったが、標高1200メートルほどの下馬は25度前後。民宿から見える中央山脈を朝日が照らしはじめる。しかし気分は晴れない。本当に今日、轆轆温泉に行くことになるのだろうか。朝から民宿のご主人はガイド探しに奔走してくれていた。

Scene02

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結局、ガイドの手配はできなかった。筋肉痛の足をいたわりながら、胸をなでおろす。ここは先住民族、ブヌン族の村。山をよく知る彼らはガイドとして人気だった。登山シーズンの夏は、玉山方面のガイドに駆り出されているという。写真はガイド探しで頑張ってくれた宿のご主人、邱永福さん(左)と奥さん(中央)、娘さん。

Scene03

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轆轆温泉に行かなくてもいいとなると、急に精神的に余裕が出てくる。で、確認のために轆轆温泉の登山口へ。南部横貫公路(なんぶおうかんこうろ)から折れ、山に入っていく。簡易舗装の道を進むと1軒の家があったが、3匹の犬にほえまくられて退散。ここから一気に山をくだり、東海岸に沿って北上していくことになる。

Scene04

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山からくだる途中、村の人に聞くと、3キロほど下に行ったところに温泉ができたという。ゲートは閉まっていたが、その脇から入ると立派な温泉。しかし誰もいない。役所からの許可を待っているようだ。この一帯は少し掘れば温泉が出るってこと? 地図にない温泉を探しながら北上することにした。

Scene05

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平地に出た。周囲に水田が広がっていた。この一帯は池上米という米の産地。台湾では一目置かれるブランドとか。その米を使った駅弁は、人気らしい。池上駅前の店でゲットしました。80元、約296円。まだ昼には早い。どこで食べた? それはシーン11の写真で。

Scene06

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どうやって無名温泉を探す? とりあえず富里郷公所を訪ねてみた。日本でいう町役場だ。ありました。富里郷石牌村というところに温泉が流れ出ているという。職員は村長さんに連絡をとってくれた。と、村長、直々に案内してくれるという。なんだか皆、とても親切です。

Scene07

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村長さんがやってくるのを待つことに。その間に、この旅の案内人、廣橋(ひろはし)賢蔵さんの車は……。買ったときはかなりの値段だったはずのドイツ車は、犬におしっこをかけられ、ボディーは傷つき……。そのうちに片側のドアが開かなくなってしまった。悪路を走りすぎた? 台湾の超秘湯旅は体と車を酷使する旅ですなぁ。

Scene08

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

村長の楊文慶さんがやってきた。地元で霊芝(レイシ)の栽培や販売を手がけているという。霊芝は漢方薬や健康食品に使われるキノコだ。彼の車の後を追って、山に向かっていく。こんな道を?という山道をずんずん進んでいく。先にあるのは、栗松温泉のような険しい道? 脳裏に不安がよぎる。

Scene09

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車を降り、川に沿った道をしばらく進む。そして川に下りた。「これ、のぼるんですか?」。つい、声が出てしまった。道がない。折り重なる大きな石に足をかけ、川筋をのぼっていく。何回か足をぬらして川を渡る。そしてまた大きな岩。汗が噴きでてくる。台湾の超秘湯は本当にきつい。汗を拭きながら愚痴をこぼしたくなる。

Scene10

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30分ほど川筋をよじのぼっただろうか。やっと温泉に着いた。といっても、湯が流れ落ちているだけだ。「これをためればつかることができる。でも少し温度が低い」と楊さんは説明してくれる。周辺にはイオウのにおい。この川は枋仔崙渓(ファンズルンシー)という。枋仔崙渓温泉と勝手に名づけさせてもらった。

Scene11

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

さらに北上し、玉里神社遺址へ。日本流にいうと玉里神社跡。日本統治時代、背後の山を借景に建てられた神社の跡だった。日本が撤退し、神社の多くはとり壊された。この神社の社殿はなくなっていたが、なぜか鳥居は残っていた。その前の石段で、朝買った池上米の弁当の昼食。米の味? 普通でした。

Scene12

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

この日の目的地は紅葉温泉旅社。1919年、日本の警察官向けの温泉として建てられた。当時は滴翠閣(ディーツイグ)と呼ばれていたと宿の入り口の案内板に書かれていた。建物は老朽化が進んでいるが日本風。どこかほっとする。宿の前には木々が植えられ、日本の温泉風情も伝わってくる。

Scene13

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

暑さと枋仔崙渓温泉のぼりに疲れていた。聞くと畳の部屋もあるという。体をのばして昼寝でも……。部屋を見せてもらうと、ご主人は、「この部屋、冷房がないよ。いまの季節は誰も使わない」。早々に冷房のある板敷きの部屋に移りました。1泊600元、約2220円。朝食付きです。

Scene14

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

紅葉温泉旅社には温度の違う3種の浴槽があった。どれも露天風呂スタイル。建物は日本風だったが、入浴は水着着用だった。中ぐらいの温度の浴槽につかる。周囲の緑がまぶしい。緑島の朝日温泉紅葉谷温泉、栗松温泉……いくつかの温泉をまわってきたが、ひさしぶりに普通の温泉。やっぱり温泉は普通がいい?

Scene15

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

夕食は近くの瑞穂(ルイスイ)の街に買い出しにでかけた。車で10分ほど。典型的な地方都市の風情だがスーパーや食堂はそろっていた。カモ肉、ギョーザ、野菜炒め。台湾の食堂はテイクアウトする人が多いようで、それ用の容器もしっかりそろっていた。これでひとり140元、約518円。

【次号予告】次回は紅葉温泉旅社から清水断崖へ。

※取材期間:2019年7月30日
※価格等はすべて取材時のものです。

■「台湾の超秘湯旅」バックナンバーはこちら

BOOK

下馬から紅葉温泉旅社へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅11

12万円で世界を歩くリターンズ [赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編] (朝日文庫)

実質デビュー作の『12万円で世界を歩く』から30年。あの過酷な旅、再び!!
インドネシアで赤道越え、ヒマラヤのトレッキング、バスでアメリカ一周……80年代に1回12万円の予算でビンボー旅行に出かけ、『12万円で世界を歩く』で鮮烈デビューした著者が、同じルートに再び挑戦する。

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【赤道・ヒマラヤ・アメリカ・バングラデシュ編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

栗松温泉から下馬へ、旅行作家・下川裕治が行く、台湾の超秘湯旅10

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