にっぽんの逸品を訪ねて

予約殺到、温泉のプロも憧れる「仙仁温泉・岩の湯」その魅力とは?

日本各地の逸品を訪ね、それを育んだ町の歴史や風土を紹介する連載「にっぽんの逸品を訪ねて」。

今回は、人気の高さから“日本一予約が取りにくい”ともいわれる長野県須坂市にある「花仙庵 仙仁(せに)温泉 岩の湯」に宿泊。年末年始やクリスマスは休館、ホームページなし。それでも予約殺到の魅力とは? 社長の金井辰巳さんにもお話を伺いました。

温泉のプロたちも憧れる「岩の湯」とは

全国には、人気が高くて予約困難な温泉宿がありますが、長野県須坂市にある「花仙庵 仙仁温泉 岩の湯」もその一軒です。宿泊予約は、月ごとに11カ月前の1日の午前8時(1月は3日の午前10時)から電話で受付を開始しますが、電話がつながった時にはほとんど満室だった、という話をよく聞きます。

予約殺到、温泉のプロも憧れる「仙仁温泉・岩の湯」その魅力とは?

「花仙庵 仙仁温泉 岩の湯」

1000湯以上を制覇している私の周りの温泉の専門家たちも「一番好きな宿」(温泉学会役員)、「今までで最高」(旅行ジャーナリスト)とファンは多数。温泉好きが「一度は泊まってみたい」と憧れ、一度泊まれば「何度でも訪れたい」と虜(とりこ)になる。具体的にいえば部屋稼働率95%以上、リピーター率70%以上という超人気の宿です。

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温泉の湯量も豊富です

須坂駅から渓流沿いの一軒宿へ

そんな「岩の湯」に初めて宿泊することになり、期待いっぱい。そして「多くの人を魅了する理由を探ってみたい」という思いも抱きつつ、最寄り駅である長野電鉄・須坂駅からタクシーに乗りました。岩の湯は、駅から約9キロ離れた一軒宿です。

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駐車場からアプローチへ

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」。駐車場でタクシーを降りた途端、とびきりの笑顔で迎えられました。かいがいしく荷物を運んでくれるスタッフの感じのいいことこの上ありません。品よく、温かく。「ようこそ」の気持ちが伝わってきます。

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別世界への入り口のよう

アプローチには林が続き、東屋や門が造られています。敷地は国道に近いのですが、秘湯の風情たっぷり。1歩進むたびに日常を離れて別世界に誘われる心地です。

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クラシカルな雰囲気のロビー

ロビーで抹茶と和菓子をいただきながらチェックイン。館内には不思議なほど穏やかな空気が満ちています。ロビーやラウンジ、テラスなど、目に映る風景のすべてがすがすがしく美しいことにも驚きます。もうこの時点で、ほっと体の芯がほどけていきました。

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ロビーテラスではしたたるような緑に包まれました

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何げなく目にする風景にも心和みます

魅力その1「豊かな温泉と趣向を凝らしたお風呂」

泊まった客室は「仙郷亭」の一室。和室に洋室のリビングが付いて、テラスからは木立が望めました。客室は「仙寿亭」「仙郷亭」「仙山亭」の3棟に全18室。3タイプに分かれ、それぞれ趣や宿泊料金が異なります。

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落ち着いたしつらえの客室

ひと休みしたあとは、宿の名物である「大洞窟風呂 仙人の湯」がある大浴場へ。奥行き約30メートルの洞窟の中では源泉が滝になって流れ落ちています。温泉の水しぶきが立ち込めて天然のミストサウナのよう。「ぬる湯」なので長時間入っていられます。

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「大洞窟風呂」は専用の浴衣が用意されています

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自然派のアメニティー。手書きの説明書きにほっこり

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この日は大浴場の近くに、冷やしトマトが。湯上がりに冷たくておいしい

ほかにも周りの景観が楽しめる三つの貸し切り露天風呂と、家族風呂一つがあり、4カ所とも空いていれば自由に貸し切れます。

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高台にある貸し切り風呂「夢想の湯」

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意匠が目を引く貸し切り風呂「風姿の湯」

人生のお役に立つことを山の宿で

ここからは、温泉とお風呂に続いて私が感じた「岩の湯」の魅力を、現在の人気を築いた2代目社長である金井辰巳さんのお話とともにご紹介します。まずは宿の歴史からうかがいました。

「私が子どものころは、地元の炭焼きのおじさんたちが疲れを癒やしに来るような、素朴な山の温泉でした」と金井さん。先代から温泉宿の経営を受け継いだのが1978(昭和53)年。当時は、熱海や別府などの近代的な大型温泉旅館がもてはやされた時代です。周囲に観光資源もない、山の小さな一軒宿をどう経営していこうかと悩まれたそうです。

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2代目社長の金井辰巳さん

指針になったのは「日本秘湯を守る会」という団体の、当時の代表の方の講演を聞いたことと言います。「旅は人生、旅は情け、旅はロマンというお話を聞いて目から鱗(うろこ)が落ちるような思いがしました。人が旅に求めるものが人生であるなら、山の宿としてできることがあるのではないかと思いました」と金井さん。

魅力その2「信州を感じるロケーション」

予約殺到、温泉のプロも憧れる「仙仁温泉・岩の湯」その魅力とは?

館内にいても信州の森を感じます

「豊かで便利な暮らしをしている都会の方たちがわざわざ秘湯に来てくださるのは、失っているものを欲しているからではないか」と考えた金井社長は、信州の自然を感じてもらおうと宿の周囲に大木を植えて散歩道を作り、玄関前のアプローチも長くしました。

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館内には切らずにおいた巨木が見られます

土地の個性を生かすために、敷地は傾斜地のまま、樹齢35年以上の木は伐採せずに建物を建築。そのためか、館内のどこにいても信州の森に抱かれている心地です。

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自然の中にいるよう

魅力その3「充実したパブリックスペース」

館内を歩いていて気付くのは、書斎や展望デッキのようなパブリックスペースが数多くあること。ここにも人生のお役に立つ、という考えが息づいています。「客室はご家族そろってお休みいただけるように和室が基本ですが、家族だんらんを楽しんでいただくためには自由度も必要だと思いました。年ごろのお子さんが友達に電話をするとか、お父さんが静かに過ごすとかそんなスペースをたくさん造り、気分転換して部屋に戻ればまたご家族との会話も弾むと思います」

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海外の図書館のようなスペースも

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こちらはハンモックもあって子ども部屋のよう

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大浴場の入り口で見かけたおばあちゃんの杖とお孫さんのぞうり。家族だんらんに役立っていますね

魅力その4「心を豊かにする料理」

「お料理もご家族の会話を生み出すようなメニューにしています。舌だけでなく心も満たすようなお料理をと思っています」と金井社長。

この日の料理は信州サーモンの南蛮漬けなどの前菜に始まり、アユの塩焼きやアスパラガス、信州牛フィレ肉の杉香焼きなど、北信濃の食材がたっぷり。くしに刺したまま登場するアユの塩焼きなど演出も華やかで会話が弾みます。

予約殺到、温泉のプロも憧れる「仙仁温泉・岩の湯」その魅力とは?

コイの洗い、信濃雪鱒(シナノユキマス)、信州大王イワナのお造り。あっさりして日本酒にぴったり

予約殺到、温泉のプロも憧れる「仙仁温泉・岩の湯」その魅力とは?

信州牛のフィレ肉はやわらかくうまみたっぷりです

魅力その5「スタッフの温かさ」

「岩の湯」で何より感じたのが、スタッフの対応の心地よさです。「母親が自分の赤ちゃんを慈しむような気持ちでお客様をお迎えしようと、スタッフに話しています。そのためには、私たちお迎えする側も幸せでないといけません。従業員が家族と過ごせるように、年末年始やクリスマスは1993(平成5)年から休館にしています」と金井さん。最新設備を取り入れた従業員寮やカフェのような休憩室も見せていただきました。

予約殺到、温泉のプロも憧れる「仙仁温泉・岩の湯」その魅力とは?

一生懸命で温かなもてなしを感じました

「岩の湯」のチェックインは14時、チェックアウトは12時。滞在中はまるで魔法をかけられたように心安らぐ時間でした。「品格」と「ぬくもり」という、ともすれば相反してしまう要素が調和したすてきな宿です。

予約殺到、温泉のプロも憧れる「仙仁温泉・岩の湯」その魅力とは?

製糸業で栄えた須坂の町並み

須坂市街には、製糸業によって繁栄した商家の町並みが残り、豪壮な土蔵造りを生かした博物館や美術館があります。帰りに立ち寄るのもおすすめです。

【問い合わせ】

・「仙仁温泉・岩の湯」
電話:026-245-2453
花仙庵 仙仁温泉 岩の湯(日本秘湯を守る会公式ホームページ)
須坂市観光協会

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PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

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